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将棋棋士・豊島将之九段推しの私の未来日記

新年度も3週間が過ぎ、書店に並ぶ4月始まりの手帳を希望に満ちた明るい表情で手に取っておられるかたを目にする。
4月は出会いや新しいチャレンジのタイミングでもあり、毎日が何だか落ち着かないけれど、舞い散る花びらのようにワクワクと気持ちも浮き立つ。

ちなみに私はメモ魔で手帳オタクだ。毎年、ノベルティなどで頂いたものも含めて軽く3冊くらいは使い分けていて、外出時には必ず筆記用具と一緒に持ち歩いている。
スマホのメモやボイスメモ機能などが便利なのに、時代に逆行してあえて紙とペンがいい。ペンを走らせることで脳内がスッキリ整理できるし、後から見返すと筆跡や文字の大きさなどにその時の心持ちまでが顕著に表れるからだ。

目的によって使い分けているのだが、その中にはちょっと人に見られたら確実に投了級の恥ずかしい「未来日記」がある。
「未来日記」。福山雅治の桜坂などが大ヒットしたTBSテレビの恋愛バラエティ企画が有名だが、私の場合はここに書かれた事が現実になると信じて、未来に起きて欲しい事を書く。

これが実は、結構な確率で願いが叶ってしまう。
そう言うと何やら怪しいぞと、胡散臭さを感じておられるかたがいて当然だ。
そんな事言ったら…仕事もせずに大金が手に入って朝目が覚めたら広瀬すずさんばりのビジュアルになりたいとか散々書いて叶えたらいいじゃないかと思われるだろう。全くもって仰る通りである。

ちなみに私が「叶った!」と震えたのが、資金不足に悩む将棋界を、自分は一生懸命に働いてささやかにでも資金面から応援したい、と書いた数日後に新将棋会館クラウドファンディングの募集告知がされた時だ。
おそらく、誰をも傷つける事なく、私利私欲でなく、一心に願ったことは叶いやすいのだと感じている。働かずに大金とかそういう努力もなく浅ましい根性ではダメなことは実証済みだ。(もちろん広瀬すずさんにも何億光年も遠い)。

2022年度に使っていたのが羽海野チカ先生の「3月のライオンダイアリー」で、この手帳の巻末には“今年やってみたい100のリスト”の記入欄があった。ちゃんと100行あり、チェックボックスまでついている。

私は強欲⁈なので100ぐらいお安い御用、とばかりに勢いよく書き始めたのだが、あらら、思ったよりもネタが無いと気づき、途中22個まででストップしてしまった。願いを100個挙げるのは日頃から意識していないと意外と難しい。とりあえず今はこれだけにして後から思いついたら書き足せばいいや、とその時はそこでペンを止めた。
結局、忙しさもあって手帳に書き足す心の余裕も無く、気づけばそのまま2022年度が終了した。
それでも今数えてみたら、22個挙げたうちの14個のやってみたいを叶える事が出来ていた。勝率6割ならなかなかのハイアベレージと言えるだろう。となると願いの数は最初に挙げれば挙げれるだけ楽しく過ごせる可能性も上がる、とも言える。

新年度に叶えたい事をどうしようかと考えていて、私の推しである将棋棋士の豊島将之先生が4月30日に33歳の誕生日だとふと思い浮かんだ。昨年が22個なら、今年は豊島先生の年齢と合わせて33個にしようと決めた。
昨年よりちょっぴり増やした願いはちょうどいい具合に33個ピッタリ挙げることが出来た。全部はあまりにお恥ずかしいので自主規制して、そのうちの一部をご紹介するとこんな感じだ。


“高槻市で美味しいカレー屋を探す”
将棋めしは先生方の大切な活力だ。豊島先生がお好きそうな栄養バランスのとれたヘルシーな和食弁当も気になるが、勝負カレー(カレーを頼んだ時の勝率が高い、頑張れる気がすると豊島先生ご自身が仰っていた)はマストだろう。ぜひ美味しい店を探して将棋会館への出前交渉…までは勇み足だが候補としてリコメンドできるくらいにはなりたい。
本命はこちら「ヴァスコ・ダ・ガマ」。高槻市ホームページにも紹介され、新将棋会館建設予定地から徒歩5分以内と、早くも将棋めし候補ナンバーワンだ。


“豊島先生の馴染み深い服部緑地公園に行く”
豊島先生が以前にお住まいだった大阪府豊中市には服部緑地公園があり、同じく近くに住んでおられる畠山鎮八段と偶然出会うことがあったそうだ。

2014年7月 豊中市報に掲載されたエッセー

公園なんてどこも大差は無いかもしれない。でも豊島先生が畠山先生いわくゴルゴ13のような気難しい顔つき⁈で歩いておられた光景を想像しながら同じように遊歩道を散策してみたい。
奨励会幹事を務めておられたことから、修行時代からよく知る豊島先生の事を大事に思う畠山鎮先生のお優しさが伝わり、なおかつ豊島先生独特のユーモアにも溢れていて、とても素敵なエッセーだ。
豊島先生が書かれる文章は、聡明さだけでなく、読書がお好きだという事もあって光景が目に浮かぶような描写や、全体の構成力がさすがの指し回しだと感じる。今はお忙しいと思うが、またぜひエッセーに挑戦して頂けるととても嬉しい。


“電王戦の思い出の地・あべのハルカスに行く”
2014年3月29日第3回将棋電王戦。あべのハルカス55階のインペリアルスイートで、豊島先生がコンピューター将棋のYSSと対局を行った。

このレポートが当日の様子を詳細に伝えている。リードの文章から早くも心を掴まれる。
>序盤ほぼノータイムで指した豊島七段の超速将棋に惚れた
いや、私も惚れた。実際のニコ生映像で見た豊島先生はその愛らしく上品なお顔立ちとは真逆の、相手の弱点をえぐるような踏み込んだ攻撃をみせていた。
電王手くんの指し手に対し、問答無用とばかりに指し進める。結果、コンピューター将棋との対決に挑んだプロ棋士側5名のうち唯一の白星をもたらし全敗を免れ、記憶に残る一局として語り継がれてきた。

第3回将棋電王戦といえば、船江恒平六段の観戦記が詩的で味わい深く、声に出して何度も読み返した。棋士同士だからこそ分かり合える、棋士にしか書けない文章だと感じる。豊島先生の努力の凄まじさが船江先生の臨場感あふれる描写で手に取るように伝わってくる。

部屋に入ると昼の対局室はとても静寂で、不思議な感じを味わった。

 それはまるでSF映画の世界に入り込んだかのような感覚だった。豊島の体はあまりにも華奢で、私には少年のように見え、街の喧騒とは無縁の天空で少年とロボットが対峙しているかのように思えた。

 劇画の世界では天才という二文字で完結されてしまうであろう少年の勝利は、現実世界では豊島の想像を絶するほどの準備と棋士としての日々の積み重ねから生まれようとしている。

船江恒平六段(当時五段)の観戦記より

華奢な身体が粉々に砕けてしまうのではと危惧してしまうほどの苛烈な将棋は、私が豊島先生に惹かれるようになった原点ともいえる。この大人しく優しげな表情のどこに、狂熱が潜んでいたのかと。豊島先生の美しい所作から一瞬垣間見える激しさは、いつも私の心を掴んで離さない。
さすがに一泊数十万円するスイートルームは無理でも、大阪の街を一望する非日常的な空間で、豊島先生が見た景色を眺めながらぜひ電王戦の棋譜並べをしてみたい。


未来日記に書いた叶えたいことリストは、ふと目に留まるたびに楽しい気分にさせてくれる。
日々、思い通りにはいかなかったり、時間に追い立てられたりと、「忙」の文字通り心を亡くしてしまいそうな時には、ふとこのリストに書いた事を思い出したい。
それはタイムパフォーマンス上等の現代に生きていくなかで、ふらふらと指標を見失って漂わない為にも、きっと私の心の根っこに錨を下ろしてくれるはずだ。
無意識に消耗している時間と同じように、大切な自分自身が消耗してしまわないように。
2023年度の終わりには、ここに書き留めたたくさんの願いが次々と叶っているように、新たな気持ちで頑張っていきたい。

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