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バナナのフィルム

スーパーでバナナの房を買う。

バナナの房とか、束のキュウリとか、この手の生鮮食品は酸化防止のためにほぼ必ずしっかりとフィルムで包まれている。そしてフィルムの口はテープのようなもので綴じられている。
オモテ面が黄色や緑のドギツい原色で、ウラ面は真っ白のテープ。少しだけ位置をズラしてウラ面同士がくっつけられているので、さも「あとで手でテープを剥がしやすいように、ズラして貼っておきましたよ」感が出ている。

スーパーから帰宅。休日の15時、自宅。もっともバナナを食べたいシチュエーション。
靴下を脱いでそこらへんに放り投げ、小脇にバナナを抱えたまま、まずはリモコンを探す。リモコンは常に驚くべき場所で発見される。前回はソファーのクッションとクッションの間の深淵にねじこまれていた。今回はキッチン脇の棚の下に転がっている。抱えていたバナナを電子レンジの上に置いて、再びリビングに戻り、テレビを点ける。うまくリモコンが効かない。裏の電池フタを開けて、どこで買ったか覚えてない遥か昔に購入した単4電池2本を指で2-3回こする。こうすれば一時的に電気が戻るというどうしようもないテクニックを使って、かれこれ10年くらい同じ電池を使い続けている。
今度こそテレビが点いた。ふうと息をついて、ソファーに腰掛ける。

休日15時のテレビなんて、競馬かゴルフしかやってない。ひとしきりザッピングして、テレビを消す。何をしたかったんだっけ。しばらくソファーの上でフリーズする。
ようやくバナナのことを思い出し、今度はバナナを探す。見つける。なんで電子レンジの上にあるんだっけ?まあいいや。
再びソファーに座り直し、バナナのテープに手をかけ、グッと左右に引っ張る。剝がれない。

この、バナナのテープの「手で剥がせますよ」感に毎回だまされる。そうだ、手じゃ剥がせないんだった。バナナは本来、皿もフォークも要らなければ、洗う必要すらない。フルーツの中で唯一と言って良いくらい、何の準備もせずに素手で即始末できる代物のはずなのに。
腰を上げ、本日三度目のキッチンに入場し、ハサミを調達。本日三度目のソファーに座り直し、ハサミで忌まわしいバナナフィルムを切断。よく考えれば、バナナを房ごとキッチンに持って行ってからハサミで切れば、あとでハサミをキッチンに戻す手間がはぶけたな。まあいいや。ハサミをソファーの脇に置いて、ようやくバナナを食べ始める。ソファーの深淵にねじこまれていたリモコンを拾い上げて、テレビを点けた。

おそらく次は、ハサミを探すことになる。

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