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バオ 完全版

プロローグ

「うわあ!!」
「どうだ?すごい眺めだろう?」
僕は今、茜色に染まったドラゴンの大きな鱗の上にいる。その鱗は、まるで何匹もの魚が泳いでるみたいだ。
なぜ、こんなことになったかというと…

1章 訓練篇

僕はバオ。おっちょこちょいで怖がりのおばけ。姿はほぼ人型。体が白く、服は着てない。いつもちょっとしたミスをするので、みんなにわらわれちゃう。僕はドラゴンが嫌い。いくら空想上の生物だといっても、絵本とかで見た絵は本当に怖かった。
そんな僕に、奇跡が訪れた。
「バオ、ちょっと来なさい」
これは約3年前。先生に呼び出された。
(えっ!怒られるの!?)
「バオや~い!お前、ミスが多すぎるから、怒られちゃうんじゃねえ?」
クラスメートにも茶化される。
「ち、違うよ!絶対!」
もう、と言いながら、僕は先生のところへ向かった。
「な、なんでしょう?」
「バオ、お前のテストの結果が返ってきたぞ!お前は、合格だ!!」
「…ええええ!?」
驚くのも無理はない。

このおばけ学校は、まだ見ぬおばけの国を旅する冒険者を生み出す学校。冒険で大切なことが教えられる。例えば、食糧調達の仕方や、剣を使うための基本など。
そして、毎月定期テストが出されて、合格者は3年間の冒険に行くことになる。
そのテストに、僕が合格したんだ。

「ええ!!無理ですよそんなの!!」
「なぜ?」
「だって、僕、怖がりでしょう。先生も知ってるじゃないですか!!こんな僕が冒険に行って、生きて帰ってこられるわけがありません!他の人に当たってくださいよ!」
僕は辞めたいと必死に訴えた。
「やってみないとわからないじゃないか」
「でも…」
僕は言葉を濁した。
「そんな、綺麗事言われても、結果は見えてます」
(でたよ僕のマイナス思考)
僕はいつもこんなことばっかり言っちゃう。本当ダメダメおばけだなあ。
「僕は…どうせ何もできません」
「決まりは決まりだ」
「先生!!!!!」
「大丈夫!冒険のための準備はしてある!さ、部屋に行くぞ!!」
「へ、部屋…とは?」
「もう、バオ。つべこべ言わずに…」
「ん?」
「行くんだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「は、はい!!!!!!」
やっぱり先生の圧力には勝てない。
「行くしかないのか…」
僕は渋々ついて行った。

しばらくして、目の前に、金でできたキラキラに光ってる扉があった。
「お金みたい…」
その扉は、僕の目を奪った。ずっと見惚れていられるくらい綺麗だ。
「さあ、あとはここの人に説明を聞いたらわかるからな。頑張れよっ!」
そういって、先生は扉を開け僕を部屋に押し込んだ。
「……っ!」
そこで僕は立ち尽くした。
僕がなぜ立ち尽くしたかというと、そこでは、剣を使った訓練がされていたから。
「おい!お前、新入りか?」
そこの先生のような人に呼びかけられた。目つきが鋭いのは、何年もこの仕事をやっているからか。
「は、はい」
「わかった。じゃあ、ここの仕組みについて話そう」
(結構強引だなあ)
「いいか、ここは、訓練場。これからお前には、この建物の最上階の寮で生活してもらう。ここで剣の訓練をし、テストに合格すると、冒険に行くことが許される。わかったか!?じゃあ、早速始めるぞ!!!!!!!」
僕は先生に手を引っ張られて、『初級コース』に連れて行かれた。そこには、何人も僕のようなおばけが立っていた。
(ああああああ!絶対合格できない!!!)
「先生、」
「ん?何だ」
「もしも、テストにずっと合格できなかったらどうなるんですか?」
「それは合格するまでずっと訓練あるのみだ!!」
(地獄だああああ!!)

そして、訓練場での訓練が始まった。
そこでの訓練は、はっきりいって地獄だった。
訓練の内容は、もう基本は分かっているから、ほとんど実戦。
木製の剣を使い、その剣で相手に先に攻撃できた方の勝ち。
木だから折れてしまうんじゃないかと先生に聞いてみたら、
「この木はとても丈夫だから大丈夫だ」
と言われた。
少し手を抜いただけで、体罰を受ける。僕は体罰を受けることはほとんどなかったけど、他の子が体罰を受けているのを見るのは嫌だった。

寮での生活は、とても楽しかった。ほとんどの時間が自由だから、5、6人のルームメイトといろんなことができる。
はじめは恥ずかしがっていた僕だけど、ルームメイトのみんなが優しく接してくれたので、すぐに慣れて行った。
寮では、誰かが持ち込んだトランプや人狼ゲームをして遊んだり、(男なんだけど)恋バナもした。
訓練場には女の子もいるので、恋バナが生まれても不思議ではない。

こんな訓練場で生活していると、ライバルができるのは当たり前だと思う。
そう、僕にもライバルができたんだ。
僕のライバルは、一見何でもなさそうな同じようなおばけ。けど、その子の才能はハンパじゃない。僕と同じ歳なのに、結構うまい。
僕はそれに対抗するように、剣の練習を張り切った。すると、僕もその子と同じくらい上手くなった。
そうなっちゃうと、やっぱり向こうもライバル心が芽生えたようで、ライバルという関係になった。
追い抜いたり抜かされたりの繰り返し。

そうして、月日は流れ…

ついに、旅に行くおばけを決める、僕にとって初めてのテストが幕を開けた。
対戦相手はというと…

「えっ…」

ま、まさかの…
対戦相手も驚いていた。対戦相手は、

僕のライバルだった。

「さあ、構え!!」
それに気づかない先生の号令。
僕らは睨み合う。
「いくぞ!...........はじめ!!」
「あっ!」
「やっ!」
僕らは飛び出した!
僕は剣を振り上げ、相手の足を狙った。
だが、それを相手は読んで、すぐに防いで攻撃してくる!
僕はすぐに攻撃を避け、着地した。
このテストは一息つくともう負けと言っていいほどだ。
だから着地して一瞬で攻撃を仕掛ける。
右!右!右!右!右!右!右!右!右!右!右!
何度も同じ場所への攻撃を繰り返す!
相手は華麗にそれを守り、僕に攻撃してきた。
すぐに防御!攻撃!
何度もこれが繰り返された。
テスト開始から十分。まだ勝負はつかない。体力はほぼない。多分これが最後の攻撃!
僕も相手も荒い息を吐きながら、最後の攻撃を仕掛けた!!
バコっ!
!!
当たった!

「勝者、バオ!!」
「…やったあ!!!!!」
はあ、はあ、と、荒い息をつく僕ら。
相手が歩いてきた。
「…」
「何?」
そして、微笑んで、無言でグータッチ。
「…」
僕も微笑み返した。

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2章 冒険篇

ついに僕の旅が始まった。
最初は、先生に地図を持たされて、本物の剣の工場へ連れてかれた。

「うわああ!」

そこには、職人の手でたくさんの剣が作られていた。
カン、カン、という音がうるさかった。
「工場で、お前の冒険ルートの説明が教えられる。」
そう先生は言っていた。
「あ、あの、僕、冒険に行くおばけに選ばれた、バオっていうんですが」
僕は老人の職人に話しかけた。
「あ、ああ、お前さんが旅人か」
「は、はい」
「おし、じゃあ今から剣を渡して、旅の道を教えよう」
そう言って老人は工場の奥へ、剣をとりに行った。
「おしおし、これがお前さんの剣じゃ」
老人が見せてくれた剣は、柄が茶色、刃は黒っぽい色の、頑丈そうな剣だった。
「これで冒険に行け。次は道じゃ」
老人は地図を出して話し始めた。
「この工場からまずは北へまっすぐいけ。そこには森がある。その森を一周したらお前さんの学校へ帰れる」
結構大雑把だなあ。
「あの、どこにどんな怪物が出てくるとかないんですか?」
「すまんのお。ワシにも森のことはわからんのじゃ。ほな、冒険頑張れよ!お前さんが帰ってくるのを楽しみに待ってるからの」
「はい!いろいろとありがとうございます!じゃあ、行ってきます!」

僕は工場を後に、まだみぬ世界へ踏み込んでいった。

僕は地図のとおりに道を進んだ。
すると、とても大きい森が見えてきた。
「この森を…一周するんだっけ」
結構大きい森だ。一周するのに…何年かかるんだろう?本当に大きかった。この森を無理やり円に形を変えてみると、直径900kmくらいになるんじゃないのだろうか?だから三年…
森の奥が全く見えない。もしこんなところにモンスターがいたりしたら…
先生たちはモンスターがいるとは言っていなかったけど、いないとも言っていない。剣を渡していたら出てくる可能性のほうが高い。
(もういやだ…)
いや、行くしかない!こんなところで戻ってどうするんだ!(戻ることは禁止されているけど…)頑張るぞ!!!!!!
僕は未知の森へ足を踏み入れた。

ざっ。ざっ。
しばらく僕の足音が響く。
森の中は、少し薄暗く、動物がたくさんいた。一言で表すには、ジャングルという言葉が最も当てはまっている。
がさっ!
「ひっ!」
この森には、みたこともないものがたくさんいた。緑色の兎、青色の猿など、とにかく気持ちが悪い色をしている動物がいっぱいだった。
「もうホラーランドじゃん…」

ちょこっと解説
ホラーランドとは、人間界でいうおばけ屋敷。バオたちの世界のホラーランドは、ここに挙げたような動物が、たくさん出てくる。

すると…
どおおおん!
「!?」
明らかに小さい動物が出てくる音ではない。
「ま、まさか…」
モンスター
それは当たっていた。
「う、うわああああAAAAAAAAAAAAAAAAA !!!!!!!!!!!!!」
目の前には、黄色と黒の縞模様の、大きな毒グモがいた!!!!!!!!
「いやあああああああああああああああ!!!!!!!!」
僕は剣があることも忘れて必死に走った。
(はっ!ダメだ!ここで逃げたら…)
「ここまできた意味がない!」
僕は剣を構え、毒蜘蛛に斬り掛かった!
でも、毒グモもバカじゃない。すぐに避けで、長い足を振り上げてくる!
僕はその大きな足を斬った!
でも…
「え!?」
しばらくして、ボコッ、という音がしたかと思うと、また足が生えてきた!
「不死身!?」
何度斬ってもすぐに戻る。その繰り返しだ。
ぶしゅっ!
ビチャッ!
これはクモの血なのか、青い液体がかかってきた。
「ひっ!」
噛まれたら終わる!
ならせめて攻撃を抑えるのみ!!!!!!!!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
しばらくすると、だんだんクモの動きが鈍くなってきた。
(よし!いける!)
油断大敵と言われる。
僕の場合もそうだった。
僕の体に、長い足がぶち当たった。
「ぐえっ!」
僕の体は弾き飛ぶ。
その間に、クモはそこらへんの木の木の実を食べている。あれで回復しているんだと思う。
(くっそう!こんな時に殺虫剤があれば!)
こんなクモもイチコロだ!
「あ!殺虫剤!」
おばけの世界の殺虫剤には、『ムシコログサ』という草が使われていると聞いたことがある。この草は、おばけには全く害はなく、虫が埋まるぐらいその草を乗せると、殺虫剤と同じ働きをするらしい。
運よく、この草はそこら中に生えている。
「これで…」
僕はまずクモに慎重に近づいて、いちばん太い足に地面ごと剣を刺した。
「これで動きは止めれる!」
ぎゃあああああああああ!
クモの悲鳴に背を向けて、僕はムシコログサをありったけ集めた。
「それ!」
ばさっ!
「まだまだ!」
ばさっ!
ばさっ!
ばさっ!
ばさっ!
ばさっ!
「よし!」
埋まった!
ああああああああああああああああああああああああああ!
ばたっ。
クモはすっかりのびてしまった。
「やったあ!」

こうして、クモを退治することができた僕は、新たな仲間に出会ったんだ…

3章 ドラゴン篇

しばらく歩いていると…
「おい、君」
と、声をかけられた。
(誰だろう?全然知らないけど)
そのおばけは、男の子で、僕よりちょっと年上っぽい。
旅に行く用の服を着ていて、その服には僕の学校の紋章がついていた。
(この子、同じ学校の子か)
別に同じ学校なら、敬語は使わなくていいだろうと、普通に声をかけた。
「誰?」
僕が聞いた質問に答えずに、相手は興奮しながら話した。
「あれ、凄かhdgったじゃなhdうsfsいか!あのdhぢs毒グモhdふsおを倒しhsづsたjでゅやつ!」
興奮しすぎて、言葉がよく聞き取りにくい。
でも、多分、
「あれ、凄かったじゃないか!あの毒グモを倒したやつ!」
と言っているんだろう。
「それほどでもないよ。あの時は運よくそこらへんに『ムシコログサ』が生えていただけだから」
「でもあんな大きくて気持ち悪いクモ、倒せただけでも凄いよ!」
すぐに興奮がおさまったのか、もうちゃんと喋れてる。
「ちょっと、話聞かせて!お茶もお菓子もあるからさ!」
「う、うん」
お菓子という甘い言葉にふらついた僕は、その子について行った。

「では、」
お茶をすすりながら、その子は言った。
「まずは自己紹介!俺はケント。クモとか虫が嫌い。多分お前より年上だ。で、お前の名前は?」
「バオ。僕は怖がりで、お菓子が好き!」
「へえ、バオ って言うんだよろしくな!」
「うん!よろしく!ケント!」
「じゃあさ、じゃあさ、」
ケントが身を乗り出す。
「あの、クモの時の話、もっと詳しく教えろよ!」
「わ、わかったよ」

「おおおおおおおおおおおお!凄すぎる!!」
「へへ、ありがとう」
僕は、地図を出し、ケントに尋ねた。
「ねえ、僕、この道で冒険してるんだけど、なんかモンスターが出てくるとか知らない?」
「ん~、俺は知らないけど、ムト爺さんなら知ってるかも」
「ムト爺さん?」
「おん。なんか、学校の先生に聞いたんだけど、ムト爺さんならこの森のこと知ってるって。地図のここら辺に住んでるらしいよ」
そこは森を半分くらい行ったところだった。僕は今森を4分の1位行ったところにいる。もうちょっとしたら会えるかもしれない。
「ありがとう、ケント!ムト爺さんに会いに行ってみるよ!」
「おう!頑張れよ!」

僕はムト爺さんの元に向かうための最初の一歩を踏み出した。

「えええええええええええ…いないじゃんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!」
いない!
地図の場所に来たのに…
ムト爺さんがいないばかりか、他のおばけらしき影も無い。
「ケントオオオオオオオオオ!!!!!!」
ふざけんなよ…
話が違う!
(はっ!まさか…)
「殺、された?」
ありうる。
モンスターが危険を感じて、口封じのために殺した…なんてことがないだろうか?
「ありうる…」
ここには、おばけがいたという形跡も全く無い。
殺された、もしくは連れ去られたとしか考えられない。
や、やばい!
これじゃあ奇跡でも起こらない限りモンスターを回避できない!
前のモンスターは、
たまたま僕が殺虫剤に使われている草を知っていて。
その草がたまたま周りに生えていただけで。
しかもまだ一回しかモンスターにあっていない。
流石に無謀すぎる!!!!!!
(だ、だめだ)
ここにモンスターがうろついていないなんていうことは確信できない。
地図にもモンスターの居場所は描いていない。
容易に火もたけない。
住処もない。
(死ぬしか…)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!という音とともに、地面が動いたかと思うと…
ドスーン!!!!!!!
「えっ…」
(モンスター、じゃないよね…?)
恐る恐る振り返って、

絶句した。

恐れていたことが起きてしまった。

「g、ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!」
グシャッ!
「うっ!」
その岩のような形をしたモンスターは、僕を押し潰してきた。
これじゃ剣も出せないじゃないか!
「ひ…きょう…だぞ」
でもそんなことは通じない。
そいつは、ギュイイイイイイイイイイ!!!という鳴き声を立てながら、どうやっているのか分からないが、さらに自分の体重(?)を重くしていく。
「ああああああああああああああああああああああっ!」
もう…

だめ…

がきっ!
「大丈夫か、若いの」
(え…?だ…れ…?)
謎のおばけに体を抱えられたところで、意識がとんで行った。
「おい!若いの!若いの!」
「んお~?」
僕はおじいさんの声で目覚めた。
(ま、まさか、ムト爺さん!?)
がばっ!
「ムト爺さん!?」
「ムト爺さん?ああ。あいつか」
「え?どういうことですか!?」
「まあ、お茶でも飲んで聞け」
「は、はい」
ぼくはムト爺さんの注いだお茶をもらった。あったかかった。
「ムトは...死んだよ」
「え?じゃああなたは!?誰ですか!」
「わしはムトの孫、イトじゃ」
「そ、そうだったんだ。森のことには詳しいと思って探したんだけど。イト爺さんは何か知りませんか?」
「ああ、無理無理、わしは森のことは無理じゃ」
「ええええええ!なあんだ」
「まあ、そう言うな」
「じゃあ、さようなら。もう行きますので」
「おう!気をつけてな」
ぼくは歩き出した。
「ムト爺さんがいるかと思ったのになあ。はああ」
とぼとぼ歩いていると、ここから百メートルくらいにある洞窟が見えてきた。
「よし。今日はあそこで過ごすか」
もう結構日が暮れてきたので、僕はそこで休むことにした。
あっ!おじいさんがいる!
「ムト爺さん!?」
「お?なんじゃ若いの?ああ。わしはムトじゃが。お前さん、やっぱり森のことが知りたいんじゃな」
「あ、はい」
「冒険用の服を着ていたから、すぐわかったわい」
「ムト爺さん、イト爺さんって知っていますか?」
「だれじゃそいつ」
てことは、あいつ、モンスターだったのかな?
すぐに逃げれてよかった、と思った。
「では、お前さんにこの森の秘密を教えよう」
「お願いします!」
「森の秘密、教えてください!!」
やっとムト爺さんに会えて、森の秘密を教えてくれるなんて!感激!( ;∀;)
「まあ、秘密と言っては大袈裟じゃな」
なんだよ!!パチパチと燃える薪の火の奥の爺さんが憎く思えてきた。
「ここの森には…ドラゴンがいる」
「ひえっ!?」
よりによって!一番嫌なものじゃないか!
「そいつは…」
耳を塞ぐ。想像するだけでも恐ろしい。ムト爺さんは気付いていないのか、喋り始めた。
「そいつは赤い体をしている。歯がでかく、体のほとんどが鱗で覆われている。目が大きい。そして、体長なんと!1000mほどあると言われておる!!!!」
声を張り上げるなあ!聞こえるだろう?!
「ん?どうしたんじゃ、耳なんか塞いで」
どうしたんじゃ?じゃねえよ!!!!
「あのお」
僕はぶっきらぼうに言った。
「僕、ドラゴンが想像するだけでも怖くなるくらい嫌いなんです、できるだけ小さい声で話して…」
「は?今なんて言ったんじゃ?すまんの、ワシは耳が遠くての」
ジジイ!!!!!!

「ーーーということなんです!!!」
僕はわざと大きな声を出して、さっきのことを話した。
「あ、そうかそうか。すまんな、怒らせてしまったか?」
「あ…」
なんか、悪いことしちゃったかな…
「僕の方こそ、すみません、こんな勝手に怒ったりして…」
「ははは!いいんじゃよ!」
なんか、ムト爺さんといるとほっとするな。
「とりあえず、森の奥にドラゴンがいるということを覚えておいてくれ」
「はい!」
「では、ドラゴン退治のための訓練をしようではないか」
「え?いや、ちょっと…」
「お前さんが出発するのはいつじゃ?」
無視すんな!!
「明後日です」
「じゃあ、今日と明日で訓練じゃ!」
「…わかりました」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よし!おわりじゃ!早く寝なさい。明日は早いじゃろ?」
「ヘァ~い」
くたくただ。
訓練は結構キツかった。訓練の内容は…言いたくないほど過酷だったとだけ言っておく。サボったら(老人のくせに)すごい力で叩いてくる。
僕は急いで布団に入って寝た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「じゃあ、行ってきます!」
「おう!気おつけての!」
「は~~い!」
ムト爺さんと別れた。
冒険が終わるまで残り1年と10カ月!
「頑張るぞ!」
冒険が終わるまで残り1ヶ月になった。こんなに経っているのに、モンスターは全く現れなかった。(モンスターは全く現れなかったので、特に書くこともないが、僕の日常は、歩いて、休んで、食べて、寝る、の繰り返し)
僕が考えるに、モンスターが出てこなくなった理由は、この近くにドラゴンがいるからだと思う。モンスターは知能はあるが、今までに出会ったモンスターは個別で行動していた。
(それにしても、こんなに長い間モンスターが出ないなんて…ドラゴンはどれだけ恐ろしいんだ!?)
こんな考えごとをするほかない。
「はっきり言って暇」
こんなスリルとサスペンスのない冒険談なんて誰が聞いてくれるだろうか?
「あああああああああ!!!!!もっとスリルをくれ!神様!」
これが最近の口癖。今日もでたわ…
「ねえ!お願い!モンスター出てきて」
「わかリマしたdウェfh」
どおん!
「うわあああああ!!!ほんとにでてき…た…?」
「どうもdfjウェイおjg、」
「ランプの…魔神!?」
そう!そこには、絵にかいたようなランプの魔神がいた。
「お呼びでしょうかご主人様」
「な、なんでお前が!?」
「モンスターは、あjぢd怪物、dhd化物、djウェイという意味です!デュウィほら、あshd私も化け物でしょう?」
「は、はあ」
こいつ、めっちゃ滑舌が悪い。そのくせによく喋る。
(こんなやつならすぐ倒せるぞ)
「dhさkf冷えwhフィlさえrhフィrh着あえsh義hrlいうg入れh擬hrvlsrh着雨ヘィtっはghg類をh擬hヴェイrh擬hし売れh着フィ上rh着上wh義絵wlhgl家whglいs」
もう、何を喋っているのかわからない。
僕はバレないように、ちょっとずつ鞘から剣を抜いた。
シャリン!
「うっ」
結構大きな音が鳴ったけど、魔人にはバレていない。
「gへかghしlrgh家sh着うsっっっっっっっっhgは家hglへhglbヴェウイhvぇbぐふhv」
「よし…」
「おっと。どデェw私を倒そうとしても無駄ですよ!fdを私はあなたが三つの願いをdhqhd言い終わるまでdは消えませんから…」
「はああああああああああ!?????」
願い…
僕は少し考えて言った。
「1.ここからいなくなって、2.この森からいなくなって、3.この世からいなくなって」
「へ!?」
「願い、叶えるんでしょ?」
僕はニヤッと笑った。多分こんな願いをしたのは、僕が初めてだろう。
「は、shuは…しゃdい、デュわかりましfgyさた…」
魔神は姿を消した。
「よっしゃ!」
冒険が終わるまで残り1ヶ月!頑張るぞ!
「ドラゴンなんか、こわくないっ!!!!」
ふおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
どしん!
な、なんだ!この地響きは…!?
「ま、まさか…」

最終章 帰還篇


ばきっ!
どしん!!!!!!!
そこには、大きな茜色の姿をしたドラゴンが…
「うわあああああああ!!!!!!!!!!!!」
僕は悲鳴を上げた後、ドラゴンに背を向け、全速力でつっぱし―ろうとしたが、出来なかった。
「ひえっ1_?」
ドラゴンが僕の服を口で引っ張っている!!!!!!!!!
うがあああああああああああああああ!!!!
ドラゴンが唸り声を上げたところで、僕の頭は真っ白になった。
もう…食べられるんだ…
すると、僕の頭の中に、今までの記憶がフラッシュバックした。
まだ子供の時のこと、学校に入学した時のこと、冒険を始めたこと、剣を作ってもらって、モンスターと戦って、ここまで来て…
これが走馬灯という奴なのだろう。
ドラゴンが僕を持ち上げた。
「ああ…」
ここまで来て、もう死ぬのか…
涙は出なかった。
よくやったと自分では思っている。
ここで死んだって、自分で何もできずに死ぬんじゃない。ここまで戦って、死ぬんだ。
「もういいや…」
もう諦めよう。
もう死んでもいい。
僕はドラゴンに身を任せた。
「さようなら…」
「おい、一人で何呟いてんだお前?」
「へ?」
恐る恐るドラゴンの顔の方を見ると、――笑っていた。
「あ!あのお化け学校のやつじゃん!」
「へ?」
「冒険してんだろ?」
頭が回転しない。
状況が理解できない。
まあとりあえず、受けごたえしようと考え、言った。
「はい、もう帰るまで、残り1ヶ月くらいです」
「そうかそうか!」
がははは!とドラゴンが笑う。
「なあ、その冒険の話教えてくれよ!代わりに学校まで乗せてってやる!」
「わ、わかった」
僕はドラゴンに話し始めた。
「まず、訓練をして…」
ライバルができて…剣を作ってもらって…ホラーランドみたいな森で、毒蜘蛛に出会って…ケントに出会って…ムト爺さんを探して…時々モンスターに出会って…ムト爺さんにあってこの森のことを聞いて…ムト爺さんから君と戦うための訓練を受けて…
「それで君に会ったんだよ」
「ほおお!そうかそうか。怖かっただろうな」
「うん」
一番君が怖かったんだけどねと言おうとしたけど、僕の話を聞いてとても楽しそうにしているドラゴンを見て、いうのはやめた。

ドラゴンに旅の思い出を話している僕は、なんだか嬉しくなった。こんなに目を輝かせて話を聞いてくれる人なんてケント以来だ(ケントに怒られるかも)。

「よし。今日は一緒に食べもん取りにいくか」
「えっ?食べ物ならここにあるよ」
僕は旅に持って来たリュックを指して言った。
「たまには自分で取って食え」
そう言ってドラゴンは、僕のリュックから食料をつまみ出して、足で踏んだ。
「ああああああ!!!!」
食べ物の恨みはすごいんだぞ、と、僕はドラゴンを睨んだ。
「さあ、乗れ」
ドラゴンは自分の背中を指している。
「あなた正気ですか!?僕高いところ苦手…」
「うるさい」
ドラゴンは無理やり僕をつまんで、(つまむの好きだな…)自分の背中に乗せた。
「ちょっと待って」
と僕が言うより先に、ドラゴンは羽ばたいた。

その日の収穫は、木の実180個、鶏5羽、魚40匹。その中の8割はドラゴンが取った。
「多すぎない!?」
「豪華だしいいだろ」
ドラゴンは周りに落ちている葉っぱでお皿を作って、木の実や魚を盛り付けた。
そして、口から火を吐いて、鶏を焼いた。
ドラゴンは器用な手つきで盛り付けていく。
「おお!」
その日の夕食はとても豪華になった。
「じゃあ食うぞ」
「「いただきます」」

僕はこんなふうに、ドラゴンと一緒に過ごして行った。
そして後1日で冒険を始めて3年になる頃。僕はドラゴンに言った。
「そろそろ学校に帰らなきゃ。じゃあまた」
「送ってやるよ」
「え!?」
ドラゴンの意外な言葉に、僕は一瞬動きが止まった。
「学校の場所、知ってるから」
僕の学校は結構有名だとは聞いたけど、まさかモンスターにまで…
だけど、送ってもらえるのはありがたかった。
「ありがとう。お願いする」
そしてドラゴンは、僕を背中に乗せ、羽ばたいた。

「うわあ!!」
「どうだ?すごい眺めだろう?」
僕は今、茜色に染まったドラゴンの大きな鱗の上にいる。その鱗は、まるで何匹もの魚が泳いでるみたいだ。
「高いね…」
「怖いか?」
「ううん!」
僕は笑顔のまま、思いっきり首を振った。

学校の近くに着いて、僕はドラゴンに言った。
「今までありがとう!じゃあ、またいつかね」
「またな」
ドラゴンは飛び立って行った。僕は見ていた。ドラゴンの目が、涙で濡れていたのを。僕も涙が出ていたことを。

「ただいま!!」
僕は学校へ入って、大きな声で言った。
「おおバオ!!」
「帰って来たんだな!」
「おかえり!」
「どうだった?!」
僕はみんなにそんなことを聞かれながら、もみくちゃにされた。

エピローグ

今、学校には、旅から帰って来た僕の、大きな写真が飾ってある。

画像1

その写真の僕は、今までで一番、誇らしい顔をしていた。

END

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