国境廃止<第一章> 第五話 「旅の行方」
「なに…してるの…」
血塗れの床に横たわる高市さん。高市さんの血のついた棒を持つ、世界。
「抹殺さ!抹殺だよ!『S』は抹殺!ハハハハハ!」
なんでだろう。笑っているはずなのに、彼の目には生気がこもっていない。人形…いや、ロボットみたいな、組み込まれたような動き…。
「『S』って、なんなの…?」
「狂った集団!教団だよ!!俺の!俺のお父さんの人生を狂わせた!!いかれた奴らだ!」
『お前の方がいかれてるだろ』
(黙って)
「奴らは抹殺!ずっと小さい時から言い聞かされてきた!抹殺!抹殺!」
「だからと言ってここまでする必要ないじゃない!こんな、殺すような…!高市さんは『α地点』のことを知ってた!協力して貰えばよかったじゃんか!そしたら…『α地点』にだって…」
「いつ俺が“一緒に行く”なんて言ったよ?」
「えっ…」
『そうだよ、思い出してみろ。こいつは一度も、『国子と一緒に「α地点」に行く」なんて言ってないんだよ』
そうだ…私が「α地点」の話をしてた時、世界は…
「はぐらかしてた…」
「そうだよ、俺はハナっからお前と一緒に行くつもりなんてなかったんだよ。お前が勘違いしてただけだ」
「っ、で、でも…」
「この時は、一緒に行くってことじゃなかったの?」
「お前と一緒に行ってなんのメリットがあるよ?お前はお人好しなんだよ、国子」
「っ……」
「『α地点』には一人で行っとけ。俺は興味ない」
「なんで…」
ずっと仲間だと思ってたのに…
「人を信用しすぎだ」
じゃあなんで助けてくれたの?
「俺は『S』の奴らを抹殺する」
なんで今、そんなこと言うの?
「行くなら一人で行け」
そんな質問も、答えてくれないようで。
「バイバイ、国子」
前に見た夢と同じ言葉を残して、世界は家を出ていった。
「なんでよ…なんでよ!!」
私の中から、全部溜まってたものが、溢れ出すような気がした。
私は泣いた。気が済むまで泣いた。
その間、「ココロ」がなにも話しかけないでいてくれたことで、気が楽になった。
こんなの、何もかも嫌になってくるよね。
私は一人で暮らしていくことになった。暮らしていくと言っても、それはまさにホームレス生活のようだった。
空き家を見つけても、基本半壊。いい家を見つけたとしても、食糧だって、いろいろ考えなきゃ行けない。
孤独にも苦しんでいた。前は世界がいてくれた。ああやって裏切られたとしても、一緒にいてくれたことで、私がどれだけ安心できたかがわかった。
裏切られたのはショックだった。一緒に入れるのが幸せだった。もっと一緒にいたかった。これが恋というものなんだろう。また彼に会いたい。彼と一緒にいたい。
馬鹿らしいよね、こんなの。自分が嫌いなんて言っときながら、私は自分のことばっかり。私が生活すること。私が幸せになること。そんなことばっかり優先してる。
自分が嫌いなんて言ってる奴ほど、自分のことが大好きで仕方がないんだよ。私がそれの典型だ。孤独が楽だなんて言っときながら、孤独になるのは嫌だ。自意識過剰。自分大好き人間。
こんな思いも、彼と一緒にいれば、忘れられることができた。幸せを感じることができたんだよ------。
『で、これからどうするんだ』
そんなの、決まってるわけないじゃない。
「………」
『なんの目的もなくだらだら生きるのか?』
うるさい。黙っててほしい。
「知らないよ、そんなこと…」
『自暴自棄になんなよ。あいつだって、あんな不自然な別れ方するわけねえじゃんか。多分意図があったんだよ』
私だってそう思いたい。でも、そんな甘くないんだよ…。
『それに、「S」だってそうだよ。「S」の高市が「α地点」にいたってことはさ、「S」の拠点は「α地点」にあるんじゃねえか?世界もそこにいくかもよ。あんなこと言っといて、結局一人で行く方が楽だったんじゃねえか?』
さすがだね。私が望んでいたことを、全部口に出してくる。
「なんでそうやって選択肢を絞るの…」
『自分に正直になれよ』
私は少しでも、その可能性を…世界が「α地点」に行くんじゃないかという可能性を信じたかった。矛盾した考えでもいい。手がかりが一切なくてもいい。ただ彼に、会いたい。
「行くよ、『α地点』。そんで、世界に会う。そうする!」
『その意気だ』
私はギュッと拳を握りしめた。前に世界と一緒に見た、はじまりの星空を見つめながら。
「ごめん、国子、こうするしかなかったんだ」
世界は一人で、当てのない旅を続けていた。
「お前に『α地点』の、あんな現実を見せたくない」
世界はどこか遠くを見つめていた。
「俺が全て終わらす。そんで、『この想い』を伝えるんだ!」
国子と見たこの星空を、もう一度一緒に。そう誓って、世界は旅を続ける。
高市和人は、痛む頭をおさえながら、身を起こした。
「痛ぇ…チッ、あの野郎…」
『まあまあ、落ち着いてください』
高市の「ココロ」は、どこか大人っぽさを持つ女性の声。
「落ち着けるかよ。一回死んだんだぞ?まあお前が回復させてくれたからよかったけどさ…」
『国子さんもいなくなりましたけど、これからどうするんですか?』
「決まってんだろ。世界の目的が『S』の抹殺なら、あいつは『α地点』に向かうはずだ。それに、あの国子とかいうやつも『α地点』に行くんだろ?俺は『α地点』に行くよ」
『やっぱりそうなるんですね…次に集まるのは「はじまりの地点」で、ですか』
「そうだな。楽しみにしてろ」
それぞれの思いを抱えながら、彼らははじまりの地を目指す。
「α地点」。はじまりの地。
とある集落。その集落は、隣同士の集落と、長い争いを続けていた。争い、は、戦争レベルにものぼっていた。「α地点」のほとんどの人間は、銃なんて普通に持っていたし、大砲まで持っている者までいた。
昔からの伝統、とでも言おうか。伝統なんて生やさしいものではないが…。
「α地点」と呼ばれる島では、国境がなくなる前から戦争が続いていた。
理由はわからない。ただなんとなく、昔からやっていたから。そんな理由で、戦争が起こる。それがこの「α地点」。
集落1と集落2とでもしようか。ともかく、その二つの集落での戦争は、激しさを増していた。
これは、そんな中で起こった、ある男による、歴史を変える、一つの物語。
国境廃止 前日譚 「ひとつの手記」全2話
連載開始
To be continued…
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