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国境廃止<第一章> 第三話 「ただいま、世界。」

ふわふわと、体だけが浮いている。魂はどこに行ったんだ?
いや、これは体じゃないのかもしれない。
浮いているのは、未来に対する、漠然とした不安。
体も頭も心も。いじくり回された俺は、この先どうなるんだろう?

『バイバイ、国子』
目覚めたのは、無機質な目覚まし時計じゃなく、誰かの声だった。
温かく優しい、誰かの声。
硬い木のベッドから香る匂いは、なんだか落ち着く。
多分世界の能力っていうのは、「木」でできたもの(武器以外)ならなんでも作れるんだろう。
世界はもう起きているらしい。部屋の外から聞こえる世界の鼻歌。意外な一面にクスッと笑ってしまう。
世界も楽しそうだし、部屋を出るのはもう少し後にしておこうかな。

「おーい、起きろよ」
ドアの外では、トーストを持った世界がいた。
「トースター使えたの?」
「なんとか生きてた。電気があるのが救いだな」
世界が作ったであろう木の椅子と机。席につき、トーストを齧る。
「これから、どこへ行くつもりなの?」
「『α地点』の話か?」
「うん。場所はわからないんでしょ?なんか終わりのない旅になる気がするんだけど…」
「知るかよ。お前が行くっつったんだから自分でどうにかしろよ」
「はあ!?冷たっ」
「聞き込みでもしてこいよ。まあ外に人がいるかなんてわからないけどな」
「……」
私は窓の外を見る。荒廃した世界。まさに世界滅亡といった景色に彩られた「J地点」。外には人どころか、生き物一匹も見当たらない。一瞬で違う世界に飛ばされてきたみたい。
「はぁ、どうすればいいんだろ」
「さあね」
世界の態度が気に入らなかった私は、世界の顔にトーストを投げつけてやった。
「じゃあ聞き込みでも行ってきてやるわい!見てろよ、絶対にいい情報見つけてきてやるんだから!」
私は家の外に出た。玄関で世界の大きな(そりゃもう大きな)ため息が聞こえたが、無視してやった。

「…出たはいいものの、どうする?」
さっきから私、何をしてるんだろう。
ぺたんとその場に座り込む。
電灯がチカチカと点滅している。
今この世界では、電気は生きているらしい。よく考えたら、世界ってすごいな。自分で作った家に電気まで通したのか。
ネットは生きていない。電話もできない。連絡手段はない。
今思うと、どこか人為的に、この世界が、操作されてる気がする。なんか、どこかで大きな陰謀が…
「って、考えすぎか」
ふう、と大きなため息をついて、聞き込みを始める。もう誰でもいいから、手当たり次第に探すしかない。
「お〜い、嬢ちゃん、そんなとこで何やってんだ?」
えっ!?誰かの声?
「あなた、生きてますか〜?」
とっさに当たり前のようなことを叫んでしまう。遠くの方から、人が駆け寄ってくるのが見えた。
「生きてるよ〜」
息を切らして走ってくる。30前後の気のいい親戚の叔父さんみたいな感じの人。頭にハチマキ?みたいなものを巻いていて、ちょこんとヒゲも生えている。
「嬢ちゃん、何やってんだ?」
「あ、えっと、私、『α地点』に行きたくて、聞き込みをしているんです。何か知ってますか?『α地点』について」
「『α地点』?ああ、そこなら詳しいよ
「えっ!本当ですか!?」
「ああ、前にそこにいたことがあったからね」
おお!大当たりだ!これで世界も少しは見直してくれるでしょ!
「あの、私の仲間?友達?知り合い?にも伝えたいんですけど、ついてきてくれますか?」
「ああ、いいよ。ところで、自己紹介がまだだったね」
「あ、すみません、私、国子っていいます。篠原国子です」
「あ、ありがとう。僕は高市。高市和人だ

高市、という名前に違和感を覚えながらも、私は高市さんを連れて、世界のいる家に帰った。
「世界〜、連れてきたよ」
「え?誰を?」
「『α地点』のことに詳しい、高市さん」
「高市和人だ」
世界は呆然としている。口をあんぐり開けて。まあ、今回は驚いただろうね、私が「α地点」の手がかりを見つけてきたんだから…
「国子、お前…、何したかわかってんのか…!?」
「え?何言ってんの?」
「高市って、ココロ使いじゃねえか…」
あ、そうだ。世界がなんか言ってた気がする。けど…
「だから何?別に問題ないじゃん」
「敵か味方かわからんようなやつを…」
世界は何かと高市さんを警戒しているようで、高市さんと一切関わろうとはしなかった。理由はわからないけど、そこまで警戒する?普通…。
そして、何故か私にも口を聞いてくれなくなった。

「国子ちゃん」
夜になって、高市さんが私を呼び出した。
「ちょっと話したいんだ」
「はい、なんですか?」
「世界君がさ、僕のことすごい警戒してるじゃん」
「はい。さすがにあれは警戒しすぎじゃないですかね。まあ、いうと失礼になりますが、どこの馬の骨かわからないような人ですけど、高市さんは…」
「ははは」
「だからと言ってあれはちょっとねえ…」
「…それはさ、多分僕の噂のせいだと思うんだ」
「噂?」
「僕ね、とある理由で、殺人鬼って呼ばれてたんだよ」
「えっ!?人殺したんですか!?」
「いやいや、殺してないけど、ただの噂なんだけどね…」
「そんなに広がるもんなんですか?」
「『α地点』に多少の知識がある者なら、知ってるだろうね。なんせ、『α地点』は狭い島のような場所だよ。すぐに広がるさ、噂なんて…」
「そんな、殺人鬼なんて言われるようなことをしたんですか?」
「まあ、ね…」
結局その日は詳しい話が聞けないまま、高市さんは寝てしまった。
私は屋根の上に登った。星空を見るために。
屋根の上が、私の居場所みたいな感じがした。ここにいると何もかも忘れられるような気がする。
「ふう」
なーんだかなあー。
もう、
何もかも嫌になっちゃう。
「生きるのって、めんどくさいね」
なら死んだらどうだ
「えっ!?」
頭の中に響くように聞こえた声。何!?なんなのこれ---

私の体は中に浮いていた。そして、何故かとてもゆっくりと、地面に落ちていった。
ぐしゃっと、地面の感触が体全体に伝わった時、私は突き落とされたんだと気づいた。
意識が遠のいていく。それにつれて、痛みはどんどん強くなって------

「あいつは、あいつは信用しちゃダメだ…『S』の奴らなんて…

To be continued…

参考↓
漫画
「約束のネバーランド」集英社 白井カイウ 出水ぽすか
「セキセイインコ」講談社 和久井健
小説
「さよならの言い方なんて知らない。」新潮社 河野裕
この小説は、以上の作品から影響を受けています。

そしてさらに、「進撃の巨人」からもすこ〜〜〜〜〜〜しだけ影響を受けました。後々わかると思います。

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