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LINEの生活 #7 この世界の「ボス」③&蛇足かもしれませんがLINEの生活 #5、6おさらい

「この世界の総理大臣的な奴は、みんなから『ボス』と呼ばれている。その、『ボス』は、お前んとこの世界か、ここの『クニ』を治める、つまり、LINEの世界を治めるのが役目だ。主に、俺たちが作られるもととなる工場の管理や、食料の配給などが仕事だ。えーっとね、まれに、工場に事故が起こることがある。お前んとこの世界や、『クニ』でいう、停電とかだな。事故が起きたときは、文字や食料が作れないだろ?だから、人間の世界から、食料、緊急の時は人間を連れてきて、手作業で、そういう専門の文字が、LINEの世界で受け入れられる姿に変える。その中に、お前が選ばれたのだろうな。そして、厄介なことに、ここに来た人間は、人間の世界での記憶を残してきちゃうんだよなあ...気の毒だ」
と、カレーにサラダ、フライドチキンを机の上に並べ、生ビール(すべて絵文字)を飲みながら、長々と「お」がしゃべり終わった。その「お」に、うどん、おにぎり、コーラ(もちろんすべて絵文字)を並べた東が、うどんをすすりながら訪ねた。
「その『ボス』って、なんの文字なんだ?ちょっと気になるんだけど」
「それは家来の奴ら以外、誰も知らない」
「そっか...やっぱり、家来みたいなやつがいるんだな」
「ああ」
「ふーん...」
どんな文字かわかったら、そいつに頼んで人間の世界に戻ることができるんじゃないか、と思いながら、東は机の上を、ドン!と叩いた。
「じゃあ、『ボス』と接触する方法はないのか?」
「ない」
「直に接触できなくてもいいんだ!ほら、絵文字の電話があるだろう!?」
「ないね。できたとしても番号なんて誰が知ってる?」
「ぼ、『ボス』の居場所は!?」
「知らん」
「ぼ、『ボス』ってなんの文字なの?」
「さっきも聞かれた家来以外誰も知らんっつってんだろ!?」
「ぼ、『ボス』とセッショク...」
「もう質問はやめろ。俺が知ってる限り、方法はない。人間の世界に戻れる確率は低すぎる」
「...」
東は絶望して、少し黙った。
すると、「お」が口を開いた。
「俺たちは、ここで一生過ごすしかないんだ」
「?一生!?」
文字にも一生があるのか!?と、東は戸惑った。
「文字にも一生が?!」
「ああ。文字にも寿命はある。...まあ、実際には、殺されて死ぬ、といったほうがいいかもしれない」
「!?」
「知ってるか?毎年、スマホに出てくる文字のフォントは、ほんの少しだけ変化している。人間の目では見えないくらいな。そうやって、文字のフォントが変わっていくとともに、俺たちはボスに殺される。
それで、残念だけど、今年はもうあと一か月で終わるよ(笑)」
「あ!そうだった...」
そう、今、人間の世界は十二月。あと一か月しかない!それまでに東がこの世界から逃げ出せるという保証はない。
「お前、まだ逃げ出そうと思ってんのか?」
東は黙ったままだ。
「...ちなみにな、人間の世界の旧暦は、こっちの世界の旧暦と同じだ。全然関係ないけどな」
「っ!頼む!」
東は頭を下げた。それが運悪くうどんのお椀に頭を突っ込むことになってしまい、頭がやけどするくらい熱くなったが、そんなこと言ってられない!
「俺の仲間になって、ここから抜け出すのに協力してくれ!」

そして続き〜↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

「ムリだ」
「おい...」
「お」はしらけた顔で続ける。
「リスクがデカ過ぎる。そんなことまでするメリットなんか無い。俺は死ぬまでここで暮らしたい。ビール飲んでゆったりとな」
なぜかあたりが少しざわめく。
でもそんなの関係ない。
「じゃあ...」
東は最終兵器を出すことにした。
東は皿を持ち、地面に叩きつけて、割った。
「お、おい、何するつもりだ...?」
東は無言で、割った皿の中でもとりわけ大きなものを取り、「お」に向けた。
「お前の命はここで終わりだ!!!!」
「きゃあああああ!!!!!」
あたりの文字が悲鳴を上げる。
「ま、待て、殺すことだけは...」
東は殺意の湧いた目で「お」に向かって走って行った。
「ムリだ。嫌なら俺に従え」
「っ...」
野次馬の文字は、ただ悲鳴を上げて見ている。
東は「お」との距離を詰めていく...
「殺ってやる...」
「わかったわかった!!わかったから!仲間になるから!!ただし、ほんのちょっとサポートしてやるだけだぞ?」
すると東は、顔をぱっと明るくして、
「ありがとうございますう!」
と言って、何度も何度もお辞儀をした。
野次馬は、訳がわからないがなんとかおさまったらしい、と、安堵の表情を浮かべ、二人(?)から離れて行った。
「ま、まあ良いよ」
「さっきはあんなことしようとしてすまん。これからは二人でがんばろうぜ!!!!!!!!」
「おう!」
ニコッと笑った二つの文字は、(二人(?)と表すと、ややこしくなりそうな気がしたので、これからは二つの文字と表す)ハイタッチをした。
「よし!じゃあ、仲間集めるか!」
「え?まだ仲間集めんの!?これで充分じゃない?」
「いや、俺たちだけじゃほぼ不可能だ。それに、ここに迷い込んだ、もともと人間だった奴も逃してやりたいだろう?」
「...そうだな」
「お」は、案外優しい奴なんだな...と、東は思った。
「じゃあ、お前らの世界でいう、『広告』かなんか作って、呼び込もうぜ!」
「え!?そんなことできんの!?」
「ああ、ついてこい!」
「お」は東の手を引っ張って行って、立ち並ぶ工場の中にある、「絵文字工場」に連れて行った。
「『絵文字工場』?」
「そう、ここで、パソコンの絵文字と、印刷機の絵文字をもらう」
そこで東の頭に、疑問が浮かぶ。
「パソコンの絵文字は...あったような気がするけど、印刷機の絵文字なんかあったか?」
「作って貰えば良い」
そう言って「お」は、どこから取り出したのか、クレジットカードのような大きさのカードを出した。そのカードには、「『ボス』家来団」と書かれている。
「え!?お前、『ボス』の家来だったの!?」
「昔はな」
「お」はそのカードを上に投げた。カードはクルクルと回転し、力尽きたように「お」の手の中に真っ逆さまに落ちて行った。「お」はカードをキャッチし、ニコッと笑った。
「お前は入ってくるなよ。ここは『ボス』の家来しか入れない。お前が入ると殺されるぞ?」
「お」はわざとらしくおどけたジェスチャーをし、「絵文字工場」へ消えて行った。

続く

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