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[胸につけてるマークは流星]シンウルトラマン辛口レビュー

 以下のレビューは辛口かつネタバレありなので注意を

 忘れもしない2019年8月1日。その日は暑かったのをよく覚えている。当時、高校生だった僕は冷房がガンガンに効いた列車内でスマホに映し出された、とある一つのニュースに釘付けになった。

 それは何と「シンウルトラマン」の制作発表だった。監督は樋口真嗣、脚本は庵野秀明、つまりほぼシンゴジラのスタッフで制作されるというのだ。

 僕は思わず暑さを忘れ、その小さな記事に興奮したのを覚えている。

 何せあの庵野秀明がウルトラマンを作るというからだ。庵野は大のウルトラマン好きだというのはその時からよく知っていた。彼が大学時代自主制作でウルトラマンの映画を本家に負けないクオリティで作ったことも知っていたし、プロになった後もエヴァやナディアといった作品でウルトラマンオマージュを繰り返していたのもよく知っていた。だからこそ、そんな彼が本家本元でウルトラマンを制作するというのはとても驚いた。

 どんな作品になるんだろう?期待を胸に僕はひたすら待ち続けた。途中で延期して、フィギュアだけが(虚しく)発売されたり、そこから中々一向に続報が来なかったり、そういう生殺し状態が長く続いた。終いには「これ、もう一生されないじゃないか」と父と冗談を交わすほどになった。

 そして5月13日、ようやく映画が公開された。その一週間前からハードルを上げすぎないようになるべくウルトラマン関係のものを見たり触れないようにしていたのに、前日は興奮してよく眠れず、朝の四時までずっとゲームをしていたのを覚えている(ちなみにその時やっていたゲームは「Star Wars: Knights of the Old Republic」というRPGでマイナーだけど今のところ滅茶苦茶面白いのでこれもクリアしたらここに紹介記事を投下したいと思っている)
ペネリ1130さんはTwitterを使っています: 「まったく眠れないからこの時間帯にKOTORやってる https://t.co/1nQu9OPZWO」 / Twitter

さて、見終わった感想はというと・・・・・・

一言でいえば「期待しすぎた!!!!」


 まず良かった点からは話そう
(良かった点)
・全体的に宇宙人の描写がよかった
背中がスカッスカッでがら空きのザラブ星人とかスタイリッシュなメフィラス星人とか「ウルトラマン神変」そのものなゾフィーとかデザインが最高にセンス良くかっこよく見えた。明確に地球上の人知からかけ離れた存在ではあるけど、従来のウルトラシリーズの雰囲気を崩さないギリギリのバランスを見事に突いてた。
 また、ドラマ面でも「もしも全人類がウルトラマンの力を手にしたらどうなるか?」というメフィラスの問いかけ“は”着眼点が良くて面白かった(ここ悪い点にも繋がるので後述するが・・・)

あと、ゼットンの「1兆度の火球」という初代放送当時、児童誌の人が適当にでっち上げたアバウトすぎる設定をそういう地球を滅ぼすための「固定砲台」として解釈したのは思わず「そう来たか!?」って感じで面白かった

・ミニチュアセットではなく現実の風景の中でフルCGでウルトラマンを戦わせたところ
元々、ミニチュアセットであるため見栄えを重視するためにあまり縮尺が正確性はあまり考慮されていなかったものだが、今回はフルCGということで現実の街並みの中にウルトラマンと怪獣が存在するというのは(ちょっと粗が目立つことを差し引いても)すごくインパクトがあって良かった

(悪かった点)
・役者の演技が全体的に棒で映画のトーンから浮きすぎてしまっている
正直、手放しでよかったのはザラブ星人の津田健次郎とメフィラスの山本耕史だけで他のキャストはみな悪い意味で子供向け番組的というか、還暦差し掛かった初老のおっさんが「若者の話し方ってこんな感じだべ」という風に演技指導されたような演技が酷すぎて気になった。
今時、こんなしゃべり方するやついないでしょ。安っぽくてわざとらしくて昭和みたいな内容の会話がテレビのドラマならともかく映画館のスクリーンだとほんとキツい

・ドラマが全体的に性急かつ淡泊
製作者側が初代ウルトラマンで好きなシーンを追うのに必死になりすぎてて、登場人物の心情があんまり掘り下げられないまま話が進んでいくのが本当に気になった。
斎藤工がこっちがイライラするぐらいコミュ障丸出しで碌に仲間との関係性を深めるシーンが無いまま進んだのに、終盤急に「人類は捨てたもんじゃない」とか言い出してもうびっくり。どこでそう判断したの!?


また「人類は愚かだ」と主張する敵に対してウルトラマンが「いや人類は希望と夢にあふれた素晴らしい存在」だと反論する展開

これ自体はTVシリーズのウルトラマンでもありがちな展開だけど、テレビシリーズの場合大体一年間(最近だと半年間)主人公が仲間と一緒に毎回毎回発生する事件を解決していくうちに友情が深めていくから成立する展開であり、尺が短い二時間の映画では不可能ではないが不適切。

で・あ・る・に・も・か・か・わ・ら・ず

短い尺の中で本来なら積極的に仲間と絡ませて友情を深めていくべき存在である斎藤工を「とっつきずらい変人」であるかのように描写して他のメインキャラと交流するシーンが無いのははっきり言って失敗としか言いようがない。
結果として映画全編通して人間状態のウルトラマンがどういうキャラ付けなのか全然よくわからないまま終わっちゃった。しかも中盤、一回攫われてしまうし。
斎藤工がどこで人間を素晴らしい存在だと思ったのか、その部分が明確にしてないせいで終盤の本来盛り上がるべきカタルシスに繋がってないのもったいない。

あと、単独行動するシーンが多すぎて長澤まさみとのバディ設定がほぼ死んでたのもよくわかんなかった。「友情」をテーマに押し出すならむしろそこが一番重要でしょ!?友情とは?

・正体ばれが歴代ウルトラマン史上一番ダサい
ウルトラマンの正体ばれってウルトラマンで一番盛り上がるべき場所でしょうが!?何でそんなあっさりバレる!?しかもばれた時の一同のリアクションも薄すぎて、これなら正体隠す展開自体いらなかったんじゃ・・・

・最終決戦があっさり解決しすぎて、カタルシスが薄いを通り越してもはや虚無に近い
 命がけの作戦がたった一発で成功して、成功にいたるまでの観客の感情の駆け引きがないのひど過ぎる。
作戦の実行の絵面をウルトラマン任せにしすぎてて、仲間と乗り越えるべき総力戦感が存在せず、いまいち仲間との友情が伝わってこない。
せめてウルトラマンが最初パンチに失敗するが、科特隊の咄嗟のリカバリーで成功するとかさぁ・・・。
これがあの「ヤシマ作戦」とか「ヤシオリ作戦」とか数々のアニメ・邦画史上に残る“総力戦”を手掛けた人が関わっているのだからなおさらのことである。

・リアル化の弊害
従来であれば、作戦指示・戦闘機・化学分析・地上部隊といった風に防衛隊の各メンバーに役割分担を割り振っていたおかげでヒーローと仲間との友情や関係性の掘り下げに役立っていた。
しかし、今作ではリアル化に伴いあくまで科特隊の役割は「作戦指示」と「化学分析」のみに。その結果ウルトラマンがせっかく戦っていても全員何もすることがなく、ただ棒立ちで見守るだけという酷い絵面になってしまった。友情とは?(二回目)

・テーマに対する結論が何なのか、それ自体がふわふわしていた。
先述した「人類はウルトラマンの力を手にしたら大変なことになる」というゾフィーの尤もな危惧に対して斎藤工はただ「人類は捨てたもんじゃない。きっと大丈夫さ(意訳)」と返すのみ

・・・・・・・いや、何が大丈夫なのか。具体的にちゃんと説明しろよ!

 例えばさ、「科特隊の各メンバーが実際にウルトラマンに変身するも(それこそが長澤まさみが)、その力を他者を傷つけるために使うわけでなく、(例えばゼットンの流れ弾で被害を受けた人の)人命救助など利他的な目的で使う」といった風にちゃんと劇中で地球人が愚かでないことをはっきり示すシーンがあればよかった
 しかも、この世界の地球人って巨大化した長澤まさみの画像を面白半分でセクハラ目的に拡散するようなやつばかりだし、あれのせいでテーマに対する説得力がまるで無くなっているように感じた。

あと作中の女性観についても色々と文句が言いたいが、これ語り始めると全く別の方向に話がブレてそうだし、変なやっかみも受けそうだから別の機会に割愛する。一言だけ言うと、同じウルトラシリーズとしての女性観は数十年前の「A」や「ティガ」の方がしっかりしている。以上です。(正確にはAはシリーズ構成の市川森一さんの担当回だけで他は・・・)



最後に僕のウルトラマン歴について話そう。といっても、実は初めてウルトラマンを見た記憶は実はない。というのも物心ついた時から既にウルトラマンは身近な存在だったからだ。本当に記憶は無く、気が付いたら再放送やビデオで昭和ウルトラマンに釘付けになっていたし、ソフビ人形も気が付いたら増えていた。
 ただリアルタイムで初めてみたのは「ウルトラマンマックス」でその年のウルフェスにも家族で行ったのは覚えている。(今でもその時の写真はアルバムに残っている)
 小学校に上がってからは友達と公園に行ったら遊具で遊ぶよりも、家から持ち込んだ怪獣図鑑をみんなで回し読みしたり、ウルトラマンごっこで遊ぶ方が好きな子供だった。
 だからこそ、「シンウルトラマン」の制作が発表されたときは本当に心が高鳴った。何故なら、これが初めて一般に向けて作られたウルトラマンであり、何ならヒーロージャンル自体に興味が無い家族連れやカップルも視野に入れて作られた日本初めてのヒーロー映画なんじゃないのか。
 だから、もしこれが大ヒットすれば子供の頃の自分の童心が報われると、見る前は思っていた。しかし実際のところ、これからどうなるか分からない。ヒットするのか、そうでないか。

でもTwitterを見ていると大ヒットは確実らしく、小さな子供や今までウルトラマンを見たことが無い人が「面白かった!!」と口々に呟いているのをよく観測できた。自分個人としては上記のように作品内容にまったく納得できていない部分も多いが、上記のように「シンウルトラマン」をきっかけとして過去のウルトラシリーズに興味を持つてくれる人が増えるのはただただ普通にうれしい。そういう意味では「シンウルトラマン」をやる意義は果たされたと思う。



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