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「カナリア諸島にて」 スペイン最高峰・テイデ山登山“薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて”

 スペインの最高峰の名を知る人は少ないだろう。ヨーロッパ大陸とイベリア半島を分けるピレネー山脈にあると想像する人が多いのではないだろうか。ピレネーの最高峰はアネト山(3,404m)で氷河も残る岩稜の山である。しかし、この山はスペイン最高峰ではない。これより地中海沿岸シエラネバダ山脈にあるムラセン山(3,482m)の方が僅かに高く、イベリア半島の最高峰である。しかしこれもイベリア半島の最高峰でありながらスペイン最高峰でないのである。
 スペイン最高峰はテイデ山(Pico del Teide、3,718m)で大西洋のカナリア諸島のテネリフェ島にある。

 カナリア諸島はアフリカ北西部、モロッコ及び西サハラの沖にある群島で、いつか行ってみたいと思っていたが、なかなかその機会がなかった。あまり日本人が行かないマイナーな山に出かけている福岡登高会でも、登山の対象としての優先順位は低かった。前回、アルジェリアのサハラ最高峰タハト山に登った時に、カナリア諸島の山はどうかと話題にし、調べることになった。
 テイデ山とその周辺は「テイデ国立公園」(Parque Nacional del Teide)になっており、2007年にはユネスコの世界遺産に登録された。近海の海底から測るといきなり7500 m も聳え立つ、地球で第三位の規模を持つ火山であり、大西洋の島にある山としても最高峰であることがわかった。それらを口実に強引に計画し、有志で出かけることとなった。

 カナリア諸島推しの理由はいわずもがな、アルバム『A LONG VACATION 』である。リリースされた1981年に大滝詠一の変貌ぶりに衝撃を受け、その後の人生に大きな影響を受けたといっても過言でない。この話は書くと長くなるので別の機会に。

 ただ、作詞の松本隆氏はこの曲の詞を書いたとき、まだカナリア諸島に行ったことはなかったという。高校時代に読んだ小川国夫という作家の作品の中に「カナリア諸島にいたんだ」という台詞があって気になっていたらしい。その時点で行ったことのあったギリシャの港町、南フランス、スペイン、ポルトガルから連想してイメージしたそうだ。1999年に実際にカナリア諸島を訪れた際、最初に着いたグラン・カナリア島が全くイメージと違い、血の気が引く思いで、その後このテネリフェ島に渡り、「港に対して斜面があって、緩々と坂を降りていくと港や防波堤があって。ちゃんと防波堤に突き当たって、海に面してカフェがあって。歌詞にばっちりの場所で、ここを見て書いてもあれ以上のはあり得ない位そのまんまみたいな」と語っていた。

大滝詠一:カナリア諸島にて
(これ聴きながらご覧ください)


 テイデ山は今までの海外遠征から比べると探検的要素は少なかった。ただ後日、松本隆さんに「カナリア諸島まで出かけて最高峰に登りました。」とメッセージを送ったところ、「すげっ」と返信があった。これだけで行って良かった。“薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて”それだけで良かったのだ。

参考:松本隆「曲に詞を付けるのって僕の天職だと思うしね」
https://web.archive.org/web/20181001182508/https://www.j-wave.co.jp/original/worldaircurrent/lounge/back/030705/index.html

【スケジュール】
2011年9月26日(月)~10月7日(金)12日間
①(9/26)福岡→インチョン→
②(9/27)→マドリード→テネリフェ島
③(9/28)マスカ谷トレッキング
④(9/29)→テイデ登山口2,235m→テイデ小屋3,260m
⑤(9/30)→テイデ山頂3,718m→ゴンドラ駅→ロス・クリスチャーノス 
⑥(10/1)→ゴメラ島→ガラホナイ国立公園トレッキング
⑦(10/2)→ゴメラ島最高峰アルド・デ・ガラホナイ(1,484m)ハイキング 
⑧(10/3)ゴメラ島→テネリフェ島
⑨(10/4) テネリフェ島→マドリード 
⑩(10/5)マドリード滞在
⑪(10/6)マドリード→
⑫(10/7)→インチョン→福岡

【テイデ山登山及びコースタイム】

 テイデ山登山は国立公園事務所から登山許可を取得し山小屋を予約しなければならない。自然保護の観点と山小屋収容人数(40名程度)によるものと思われる。シーズンは混んでいるので事前に地元の代理人にお願いする必要があると聞いていたが、今はインターネットでも申請できるようになっていた。ただしスペイン語なので注意。
 登山初日は低所の暑い日中を避けるためなのか皆夕方から山小屋に登るという。我々も同様に午後プエルト・デラ・クルスを車で出発し、16:30登山口(2,235m)から登ったが、3,000mに到達しないうちに日没となりヘッドランプを頼りに21:50に山小屋(3,260m)に到着した。日本の早出早着の鉄則とは違うが、我々より後にも登ってくるパーティーもいた。
 翌日は5:00起床、5:45出発、西に向ってジグザグに登り、火口縁に上がると南に回って、7:30ゴンドラ駅(約3,500m)着。このゴンドラは登山で使うことは許可されていない。つまりゴンドラを使うとすぐ登れてしまうので、登るものは下から歩けという素敵なシステムだ。ゴンドラ駅までは登山許可のない観光客でも来ることができる。ここから北西に僅か40分の急登で8:30溶岩ドーム状の山頂(3,718m)着。あたりには硫黄が噴出し地熱がある。時々寝そべって岩盤浴をしている人がいて踏みそうになる。山頂からは360度何も遮るものはなく、大西洋最高峰を実感。
 8:45下山。9:10ゴンドラ駅に着。下りはゴンドラの世話になっても良い。ゴンドラで下り9:30下の駅(2,400m)着。(合計標高差約1,500m、約7時間)

【テイデ山登山の写真】


【写真集「カナリア諸島にて」】

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