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短編小説『夢』26

雨が直哉の体温を奪っていく。身体が冷えていくと同時に人恋しくて堪らなくなった。直哉は寒さと孤独に膝を抱えた。
菊はまた去っていった。何も恩返しする事が出来ず、また支えれ、助けられるだけ助けられて、何もしてあげる事が出来なかった。

雨の音が消えた事に気づき、直哉は顔を上げた。いつの間にかまた眠っていた。此処に長居をしていても仕方ない。菊との約束を果す為に立ち上がった。

通り雨が道を泥濘にしていたが、歩き難いまでではなかった。
木々の隙間から光が射し込んでいる。キラキラとしたその世界はとにかく静かで美しく思えた。
人はこんなにも孤独だとより周囲に目を向けるものなのだろう。眩しく仕方がなかった。孤独は人の美的センスを磨く1番のレッスンなのかも知れない。

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