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短編小説『夢』28

突然、怪盗がマントを翻すように親鳥は方翼を広げた。その振る舞いで大きさは体長の倍にまで広がって見えた。
羽の内側にオレンジ色のラインが中央に1本入っていて、スポーツブランドのトレードマークのようなデザインだった。

直哉は雛の扱いに困惑した。雛が訴えるように鳴き散らすからだ。それは子が親に対して送るSOSのように思えて仕方がなかった。
「やばいぞ…」
直哉は危機を感じていた。人間だけではない、どんな動物でも親は子を命懸けで守るものだ。
「あっ!」
雛からのシグナルに親鳥は両翼を広げた。親鳥はふわりと軽やかに枝から足を浮かすと、大きく広げた両翼に風を受け、微調整しながら、音も立てずに飛来し、一瞬で直哉の前に着陸すると、広げた翼を機械仕掛けに折り畳んだ。

直哉との距離は3メートル。親鳥は小さな黒眼を直哉に向け、品定めしている。獣の時とはまた違う鋭さかあった。ピンと上向きに張った尾は箒(ほうき)のように長い。

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