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短編小説『6月の雨』60

最終話ー

「ご馳走さん、会計を」
細い目を更に細く伏せたまま森田さんは言った。
「はい…」
森田さんは飲みながら、何度も舟を漕いでいた。
2合の酒を空けるまで、会話は一切生まれなかった。その分、俺は昔の記憶に浸る事が出来た。
元々無口な人ではあったが、酒は強かった。でももういい歳だ。弱くなっていて当然だったし、俺もそうなっていた。

いや、もしかしたら森田さんではないのかも知れない。
そう、他人の空似かも。
どうしても森田さんと思いたかっただけだったのかも知れない…。
俺の中で、そんな気持ちが生まれ始めていた。

そもそもこんな場末のバーに偶然、森田さんが訪れる筈がない。
そんな偶然がある訳がない。
俺は現実に目が覚めた気がした。

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