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短編小説『夢』24

垂直になった橋を登る。額を、背中を、全身を粘ついた汗が止めどなく滴り、目が開き辛く体力がみゆみると消耗していくのが分かった。
このままでは確実に焼け落ちるか、登り切って黒豹に対峙するかのどちらかだ。まさに究極の選択を直哉は強いられていた。

だが迫り来る熱さに耐えきれず、直哉は後者を選択せざるを得ない状況に追い込まれていた。
首を伸ばし、顔を上げる。あと1メートルで淵に手が届く距離だ。

黒豹が舌舐めずりした。獣臭と息づかいが、火炎の恐怖を薄れさせた。
手を伸ばせば淵を掴めるが、五指を失う可能性が頭を過ぎる。
それとも、獣を威嚇して、前足を伸ばした瞬間にその足を掴み、谷底へと引きずり落とす方法もある…が直哉の力では物理的に不可能だ。それに加えて体力はほぼ限界に近い。こんな危機的状況でも直哉は冷静に自己分析がしていた。

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