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短編小説『夢』29

管の直径は水道ホース位で長さは1メートル弱といったところだ。
乳母日傘だった直哉とはもう既に違う。恐れる事なく検分した。前傾姿勢になり管の中を覗く。管の突き刺さった底の部分が黒光りしている。水分を帯びた土が光って見えているようだ。

直哉はその奇妙な管を目の前にして胡座を組み一息ついた。
一瀉千里(いっしゃせんり)に出口を目指したところで福運は訪れないだろう。短慮は取り返しのつかない失意を招く。

熟慮した結果、やはり手元に残った2つの実。これには確実に意味があると判断した。
赤い実も偶然とは思えなかったのだ。あの状況で赤い実を差し出しただけで助かるようには思えなかった。
そもそも獣の時もそうだ。ポケットに偶然にも石が入っている訳がないではないか。それも直哉が気が付かぬうちに2つもだ。そんな不自然な事はそうそうあるものじゃない。疑いの余地がないのだ。

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