元恋人とハグ
劇的な展開、ドラマチックな展開を常に待ちわびていて、でも実際に起こるそれは、とんでもなくつらい体験になる。私の経験上の話。
別れて2年?3年?…年数すらもうわからなくなるほど時間は経っているのに、それでも未だに元恋人の存在は、私のなかからは消えてくれない。
元恋人のことを好きなのかと聞かれれば、今はもうはっきりと大きな声で「NO」。ただ、当時はどうだったのかと聞かれても、正直よくわからない。
付き合う前、なんとなく距離が近くなり、一緒に過ごす時間が増え始めていた頃、友達に「彼のことを好きなのかどうかわからない」という話をしていた。好きかどうかはわからないけど、でも、彼がいなくなるのは困る、と。
私とは正反対な性格をしている彼は、「大丈夫」と自信に満ちているように見えた。今思えば何が大丈夫なのか甚だ疑問だけれど、当時はそれがとても大人に見えたし、頼りにしていた。彼がいれば大丈夫、と私も謎に安心するようになっていた。だからいてくれないと困るんだけど、好きかどうかはわからなかった。
学生の頃からずっと、なんとなく「恋愛として好き」の意味をつかみ切れないままで、30歳が見えてきた今もよくわからない。
「恋愛として好き」の判断を、みんなはどうやってしているのだろう。
そう思って、たびたびネットで調べている。そこによくあるのが、「相手に触れたいと思うか」、「相手に彼女ができたら嫌だと感じるか」の二つの項目。
正直、私にとってこの基準は、まったくもってあてにならない。
元恋人と付き合う直前、彼は私のことを抱きしめるようになった。仕事終わりに送ってくれて、そこで寄り道をした公園で、とか。当時の仕事終わりっていったらもう深夜とか、明け方だったと思う。あの公園は今でも行きたくないなぁ。
人に触れられるということ自体が苦手な私だけど、一度抱きしめられてそれがすごくあたたかくて、泣きそうなほどの幸福感を味わった。と思う。もう思い出せなくなってきてる。でも、彼に触れたいと思うようになったのは確実。
何度か抱きしめられているうちに、彼に彼女ができたら、これがなくなるんだと思うようになった。だから、彼に彼女ができるのは嫌だと思った。
ほら、基準は満たしてる。
でも、その相手が彼じゃなくて、たとえば他の先輩だったとしても、同じように感じていたんじゃないかって思う。
彼がよかったんじゃない。誰でもよかった。
うん、それはちょっと言い過ぎだな。生理的に受け付けない人は除いて、誰でもよかった。
思い返せば、中学生の頃から始まってるような気がする。
中学生の頃一瞬付き合った彼とは、ほとんどなにもなかったけれど、別れた後お互い高校生になってから、たまに会うようになった。そのときもハグされてたような気がしなくもないんだけどどうだろう。
私は、私に何かくれるような気がする人に対して、異常に近寄ってってしまう。
愛情と触れあいの、圧倒的な不足。欠如。だからこそ、そこに異常なまでの執着と欲求が生まれてる。
元恋人と別れた日、私は一度泣き止んでからは冷静でいたくて、彼に触れようとしなかった。でも、彼が付き合う直前と同じように手を広げてきたから、広げられた胸に顔をうずめて泣き喚いた。やっぱり別れるしかないのかなぁ、みたいなことを言った気がする。本当に手放したくなかった。あのあたたかさを。
書いてる今でも泣けてくる。知らなきゃよかったとさえ思ってしまう。知らないほうが楽だったかもしれない。
今でも男性に近寄ってしまう習性は変わらない。事あるごとに「ひょっとしたら」と劇的な展開を想像して、自分が救われる瞬間を夢見てる。
だから、私が一瞬たりとも夢を見ないように、私には近づかないでほしい。仲良くなる男性に対しては、基本的にこう思う。
どうしたってほしいから。
どうしたって求めてしまうから。
"あなた" ではなく、あなたがもっている "ぬくもり" を。
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