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4.高校時代

高校時代は監視の目が厳しい寮生活を送っていたためにアルコールを頻繁に飲む機会はなかった。それでも同級生たちは焼酎を飲んでは瓶を寮のロッカーに隠し、後に見つかって大量処分となったりしていたので飲んでいたのだろう。しかし、私はその輪には参加しなかった。群れるのが嫌いだったからである。飲むなら一人で飲みたい。
寮には食堂があって基本的にはそこで食事をするのだが、時々それに飽きた時などは級友と街へ出かけて外食することがあり、その時はいつもワインを飲んでいた。酒と言えば当時はワインである。それは当時読んでいた小説の影響かもしれない。倉橋由美子の小説に「シュンポシオン」という作品がある。シュンポシオンとはギリシャ語で饗宴の意。21世紀に入って10年がすぎた夏の日の避暑地=半島の海辺にある別荘に集う数組の男女の優雅な〈饗宴(シュンポシオン)〉と〈愛(エロス)〉の時間を描く長編恋愛小説なのだが、登場人物たちが繰り広げる饗宴に決まってモンラッシェやムルソーといったワインが出てくる。それらに憧れたのだ。ちなみに、私が黒ビールのギネスが好きになったのも、この小説の主人公のギリシア・ローマ古典学の教授宮沢明が飲んでいたから。まあ、影響されやすかったのだ。
高校時代は学校の勉強は全くと言っていいほどしなかったが、本だけは大量に読んだ。飲酒するといっても、相手はワインである。しかも、当時の酒量はわずかなもので、グラスに2,3杯程度で、酔っ払って寮に帰ってくることはなかった。単純に大人の真似がしたかったのだ。
生まれて初めて自分の意志で酔っ払ったのは、高校2年生の時のクラス旅行の時である。当時はまだ青函トンネルが完成しておらず、青函連絡船が走っており、クラスメート全員と担任が函館から青森の八甲田へ行った。そこで宿泊した旅館で引率の教師の目を盗んで悪友たちと酒盛りをしたのだが、飲みすぎで気分が悪くなり、浴室で嘔吐した。それにもかかわらず、まだ飲み足りない気がして自動販売機で日本酒のワンカップを購入し、取りつかれるように飲んだ。初めはちょっとだけなら大丈夫と思っていたのだが、いつの間にか限界量を超えていた。飲み方が異常で、徹底的に酔い潰れるまで飲まなければ気が済まなかったような気がする。一緒に飲んだ同級生たちは良い気分に酔っ払って早々に寝ていた。
この時点で、今にして思えば、私はアルコールに対してコントロールが効かなかったのである。しかし、それは即連続飲酒にはつながらなかった。まだ耐性が出来ていなかったこともある。これ以上飲めないという限界もあった。それ以上にアルコールにのめり込まなかったのは、アルコール以上に私を酔わせてくれるものがあったからである。それが音楽だった。
小さいときからピアノを習っていた姉がいたおかげで音楽に関しては早熟だったように思う。小学生時代も周りの生徒は、当時のアイドルに夢中だったが、私は姉が聴いていた洋楽のロックを同じように聴いていた。ベイシティーローラーズから始まり、KISS、クイーン、チープ・トリック等など。
そして中学校生時代には自分でセレクトしたディープパープルやレッド・ツェッペリン等のブリティッシュ・ハードロックが好きになった。母親の財布から1万円抜き出してレッド・ツェッペリンの海賊版ライブレコードを買ったこともある。当時はシンコーミュージックが出版していた「ミュージック・ライフ」という雑誌がバイブルだった。そしてそこで紹介されていたアーティストの中から自分なりのお気に入りの音楽を探していた。マーク・ボラン、T-REX・・・
しかし、後世に一番影響を与えたのは80年代のパンク&ニュー・ウェーヴとの出会いと、メジャーな音楽産業には属さない、独立性が高くアート志向なインディーズ・レーベルを知ったことである。特にスターリンとZELDAには大きな影響を受けた。そして高校時代になると1980年代のポップカルチャーで誌面が埋め尽くされた『月刊 宝島』やプログレッシブ・ロックやニュー・ウェーヴといった当時の先端的な音楽を中心とし、ウィリアム・バロウズなどのサブカルチャーまでを取り扱った『FOOL'S MATE』がバイブルとなり、ありったけのマイナーではあるが芸術性の高い音楽を追求していった。
もうひとつパンク&ニュー・ウェーヴがもたらしたものは、アーティストが等身大だったことである。セックス・ピストルズとシド・ヴィシャスの関係のように、バンドの追っかけがバンドのメインメンバーになれたのだ。お約束のように私は学校の落ちこぼれ仲間を集めて「造反有理」というパンクのコピーバンドを結成した。当時コピーしていたのは関西出身のハードコアパンクバンドの「ラフインノーズ」である。学校の授業が終わると我々は貸しスタジオに集まり、練習に明け暮れた。公開の場での演奏は3年生の時の学園祭での一曲だけだったが、私はそれに酔っていたのである。


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