【夢と現の狭間に】 「共寝の二度寝はあたたかな繭の中で。」

 ……ふと、目が覚めた。

 体を少しだけ起こして周りを見回せば、部屋の中は薄闇に沈んでいる。外を見ようとしても窓はその形を朧げに表すだけで、まだ夜明けは遠いことを知らせていた。
 全てが曖昧になっている水底のようなベッドの上で、肌を伝わる温もりを頼りに確かな輪郭を探して辿っていくと、彼女の寝顔に辿り着いた。
 薄闇の中ではっきりとは見えないけれど、それでも綺麗な寝顔だなあ、なんて寝惚けた頭で考えた。
 まるで蝋人形のように青白く見えるけれど、手を伸ばしてそっと触れれば肌の下にほんのりと温かさを感じる。人形ではない、彼女そのものの温もりが。誘われて撫ぜれば、滑らかな弾力が伝わってくる。触れてるだけでは物足りなくなって、顔の輪郭をなぞってみる。
 世に言う美人とは少し違う、でも、私の中では最高の可愛い子だと思っている。そんな彼女の、耳を、目を、鼻を。顔のパーツを確かめるようになぞっていけば、唇にたどり着いた。
 グミのようなしなやかな弾力が、指を通して伝わってくる。やっぱり好きだなあ、これ。そして毎日触れているんだよなあ。そこに思い至って、今更ながら自分が何をしているのかと、思わず苦笑い。でも、せっかくなので唇でも触れた。
 なんだか、眠り姫を目覚めさせるキスみたい。でも、彼女は目を開ける様子はなかったので、もう一度眠ろうと布団に潜り込む。彼女の温もりに甘えて目を閉じた刹那、布団の中でぎゅっと抱きしめられた。
 突然のことでびっくりして抜け出そうにも、しっかりと捕まってしまい抜けられない。というか、ちょうど柔らかいところに顔が埋まっていて苦しい。もがいていると、息が漏れるような笑い声が、押し付けられた胸を通して伝わってきた。それがあまりに楽しそうなので、これはやられたな、なんて思って抵抗を諦めた。私がもがくのをやめたことを察したのか、彼女の腕が緩んだ。
 緩くなったのでいつでも抜け出せるとはいえ、さっきまでの自分の行為がバレていたと思うと顔も上げられず、そのままの体勢でわざとらしく声をかけた。
「……おはよ。起きた?」
「おかげさまで。妖精さんの悪戯のおかげで、くすぐったくて目が醒めちゃった」
 ころころと笑う彼女の揺れが、私の脳を一緒に揺さぶる。
 ああもう、恥ずかしい。素直に顔をあげられず、それでもやられっぱなしは癪なので、そのままの体勢でぐりぐりと頭を強く押し付ける。すると、ちょっと痛いよ、と全然そんな素振りも感じさせない笑い声が降ってきた。くそう、持ってる人種はこうも余裕なのか。
 結局諦めて、今度は自分から抱きついた。柔らかさ、匂い、温度。全てがじわりと私を包んでくれる。ああ、あったかい。
「ふふ、今日休みなんでしょ? もっかい寝る?」
 わたしもまだ眠いし、などと言いながら、私をしっかりと受けとめてくれる。
「……そうしよっかな」
 彼女の温かな手が、優しく撫でてくれている。温かな手のひらが私をなぞるたびに、意識が一緒に流れ溶けていく。
「おやすみ、わたしの————」

 眠りに落ちる間際に、彼女の唇にもう一度だけ触れた。
 彼女の言葉を遮ったのか、それともそれを聞いてからなのか。それは今の私たちのように曖昧だけれど。
 薄闇に包まれた部屋の中。夢と現の狭間のようなこの場所にある確かな温もりだけは、離さないように。私たちはお互いをしっかりと抱きしめ合って、まだ遠い朝を夢見ることにした。

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