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メンズの革手袋について

手袋は、かつて人間界に存在した紳士と呼ばれる種族が、決闘を申し込むときに用いたアイテムである。

西洋の某国では、相手に手袋を投げつけるという仕草が決闘の申し込みとなっていた。一説によれば、現代においてよく道端に手袋が片方だけ落ちているのも、決闘が行われた痕跡であるとのことである。

近年では手袋の用途は多様化し、防寒、ファッション、滑り止め、手の保護、証拠隠滅その他の目的のため着用される。

ここではタイトルの通り、メンズのファッションアイテムとしての革手袋について簡単な解説をしつつ、個人的な経験に基づいて簡単に意見を書き加える。

1. 素材

手袋の素材は様々だが、ファッションアイテムとして考えるなら、レザー(革)が定番だろう。

革といっても様々だが、よく目にするのは、ナッパ(山羊 or 羊)、ディア(鹿)、ペッカリー、カピバラ(カラピンチョともいう)あたりだ。他にもチンギアーレ(猪)アリゲーター、オーストリッチ(ダチョウ)などもある。
この中でもペッカリーは柔らかく、伸縮性があるため高級手袋の素材として人気がある。

ペッカリー
ラヴァーブル・カデ(アンラインド)
よく見ると3つ並んだ毛穴が見える

もう少し畏まった雰囲気にしたいのなら、ナッパレザーが良いだろう。殺し屋を生業とされている方にとって、黒のナッパレザーは必需品だ。

ラムナッパ(羊)
メローラ(アンラインド)
なお裏ピースは英国等では中指を立てるに等しいジェスチャーなので真似しないように。

スエードの靴に合わせるなら、カピバラ(基本的にヌバック加工されている)も良いだろう。これは水玉のような毛穴が特徴。

カピバラ
メローラ(アンラインド)

この毛穴が苦手なら、ラム革のスエードやヌバックなども良いだろう。

ラムヌバック
コース(アンラインド)
ボタンは縫製不良で買ってすぐ取れた&元の色が好みでなかったので別のものを付け直している

スマートフォン対応の革(あるいはフェイクレザー)というものも存在しているが、個人的にはあまり魅力を感じない。
見た目の素材感が劣るものが多いし、人差し指や親指の腹だけ表面加工されているタイプもいまいち不格好だと思う。
結局手袋の厚みで細かい操作はしにくかったりするので、使わなくなった人も多いのでは? タッチペンでも持ち歩いたほうが楽だと思う

2. 縫製・パターン

外縫い・内縫い

革手袋には、大きく分けて外縫い内縫いの2種類がある。
表から縫われているのが外縫いで、縫ってからひっくり返しているのが内縫いである。

外縫い
コース(アンラインド)
内縫い
コース(シルクライニング)

見た目は外縫いのほうがややカジュアル。
アンラインドでは内縫いは着用中は縫い目がゴワゴワして、つけ心地はあまり良くない。

基本的に薄い革(ナッパ等)は内縫い、厚い革(ペッカリー等)は外縫いという使い分けをされていることが多い。

水かき

厚めの革の場合、指と指の間に水かきと呼ばれるパーツがあることがある。より立体的な形を実現するための工夫だ。ジャケットでいうところのサイバラみたいなものと言えるかもしれない。

水かき
ラヴァーブル・カデ(シルクライニング)
ちなみにこの手袋は右手をタクシーに置き忘れて紛失したため、左手に鬼でも封印しない限り、今後使用することはないだろう。

デンツチェスター・ジェフリーズソリラヴァーブル・カデあたりで厚めの革(ペッカリー)の手袋を見ると水かきがついているが、メローラはペッカリーでも水かきがない。
コースは通常モデルだとついているが、 guji 別注の甲側にボタンがついているモデルにはついていなかった。

水かきがない
コース(アンラインド)
前述した guji 別注モデル。このモデルの特徴は甲側にボタンついているところで、腕時計の文字盤が隠れにくいというメリットがある。まあ腕時計しないけど。

水かきがあると指を若干横に開きやすくなる気もするが、縫い目で厚みは増えるので、長所・短所あると思う。

ブランド名の表記について(余談)

余談ながら、Chester Jefferies は日本の代理店が「チェスタージェフリー」として展開しているが、 Jefferies は複数形ではなく Chester Jefferies という創業者の名前だ。いったいなぜ「ズ」を省いたのだろうか? これは「クロケット&ジョーンズ」を「クロケット&ジョーン」と呼ぶくらい変だと思う。逆に Johnstons は「ジョンストン家」という意味なので「ジョンストン」でも良いのだが、ここは同じ代理店でも「ジョンストンズ」になっている。謎。

一枚革・二枚革

ペッカリーの場合は状態の良い革が貴重なためあまりないのだが、裏表で一枚の革になっているパターンが存在する(ワンピースパターン)。

(左)二枚革パターン/(右)一枚革パターン
いずれもラヴァーブル・カデ(シルクライニング)
左は既製品で、右は手型をもとに作成するMTO
左は人差し指のところで革が縫い合わされている。

一枚革のほうが若干物を摘みやすいというメリットはあるが、個人的には見た目的にここに縫い目があったほうがかっこいい気もしており、必ずしも一枚革のほうが良いとも言えないと考えている。

なお、一枚革のペッカリーで作られているのは、現在国内で取り扱いがあるブランドだとヘストラくらいではないだろうか。

【追記】一枚革・二枚革と書いたが、親指はいずれも別パーツとなるため、それぞれ二枚革・三枚革と呼ぶほうが正しいかもしれない。

3. 色

これは完全に好みの問題だが、靴と色をあわせるのがコーディネート的にはバランスを取りやすいと思う。使っていくと少し濃くなり、艶が出てきがち。なんとなく濃い色のほうが質感も硬い傾向にある印象。

4. ライニング

  • アンラインド(アンライニング、ノーライニングとも): 寒い、内縫いだとゴワゴワする、寒い、滑りが悪いのでやや着脱しにくい、寒いなどの実用上の短所があり、防寒具としてはほぼ役に立たない。しかし何より見た目がスマートなので、革手袋に拘る人によく好まれる。携帯性の観点から、近々決闘を申し込む人にもおすすめできる。ところで日本人はよく「アンライニング」と書いているが、 unlining という英語があるのだろうか?

  • シルクライニング: 滑りが良い。アンラインドよりも防寒性が若干優れる。シルクは経年劣化でそのうち破れる。指のササクレなどで引っ掛けないように要注意したほうが良い。

  • カシミアライニングそれなりに暖かいはずだが、見た目はパツパツになりがちなので、やや不格好。実用性優先の方におすすめ。

個人的にはシルクライニングを一番よく使う。

カシミアのジャケット&コートを着ているような日にアンラインドの手袋つけて歩いていると手先だけ冷たくて非常に不快であるし、後述するが、個人的にそこまで手袋をタイトフィットさせたいとは思っていないので、あまりアンラインドのメリットを感じない。

ちなみに、カシミアライニングは持っていない(そのため掲載できる写真もない)。

5.ブランド

ブランドによってパターンに特徴があり、また縫製の丁寧さも様々である。手袋のブランドは無数にあって全部列挙しているとキリがないので、私が所持しているものを中心におすすめをいくつか掲げる。

コース

日本人の手に合いやすく、縫製も非常に丁寧に作られていると感じるのはやはりフランスのコースだ。取り扱っている店も多いので、比較的入手しやすいだろう。ただ、たまたまなのかもしれないが、数年前に不良品を引いた経験から、必ずしも品質が一定に維持されているかはやや疑問もある。

【追記】ここはよく「エルメスの手袋を作っている」と紹介されているが、エルメスの手袋はサンジュニアン(Saint-Junien)という村で作られていることが公に書かれている。コースの工房はミヨー(Millau)にあり、エリアが異なる。コースはシャネル傘下なのでシャネルの手袋を作っている可能性はあるだろうし、過去にエルメスに手袋を供給していたというのも事実かもしれないが、現在もそれが継続しているのかはやや疑問である。
また、アパレル関係者は「エルメスと同じ工房」と言いがちだが、同じ工房だからといって同じクオリティとは限らないし、必ずしもエルメスの商品のクオリティが世界最上というわけでもないと思う。

最近はコース創業家が新しく立ち上げた Gantier 1892 というブランドもあるようなので、こちらも良いかもしれない。

デンツ

コースより少し無骨で男らしいスタイルが良ければ英国のデンツも良いだろう。個人的には指が短すぎて全然合わない。

メローラ

また、コストパフォーマンスを求めるならイタリアのメローラは良いと思う。

ラヴァーブル・カデ

個人的なお気に入りはラヴァーブル・カデだが、現在国内入手困難。フィット感を求めるなら断然コースではあるが、ラヴァーブル・カデと同じように柔らかくふんわりした肌触りのペッカリーは他では見たことがない。
ペッカリー革の既製品で定価10万円超という価格が高すぎて売れなかったのか、親会社(カミーユフォルネ)の方針でもはや既成の手袋には力を入れていないのかよくわからないが、2017AWのユナイテッド・アローズが一瞬だけ取り扱って消えた。

国内メーカー

ペッカリーに拘らなければ、国内メーカーが毎年 MTO の受注会をどこかしらの百貨店でやっていたりするので、そういった機会に注文してみるのも良いかもしれない。ブロッサムのように手型から手袋を作ってくれる個人店もあるらしい。

6. フィッティング

ニット系の手袋と異なり、革手袋はそこまで伸びないので、サイズ選びは重要である。

同じサイズ表記でもブランド・モデル・個体によって指の長さなどサイズ感にはバラつきがある。手袋のサイズは掌の幅を基準としているので、サイズ表記から指の長さは定まらないのだ。

指先が余ったり、逆に足りなかったりするのは不格好だし、着用していても違和感が強い。しっかり試着して手に合うブランド&サイズを吟味したほうが良い。

素材にもよるが、しばらく使っていると革が手の形に合わせて少し変形するので、一般的に若干タイトめなほうが良いと言われる。ただし縦にはほとんど伸びないので、指の長さはしっかり合わせたほうが良い。

タイトフィッティングについて

ところで、相変わらずアンラインドで超タイトなフィッティングを推奨している店が多いのだが、個人的にはそこまで攻めなくても良いかなぁと最近思う。

タイトフィットな服が流行ったのも、もはや昔。シャツもジャケットもトラウザーズも今どきタイトフィットでは着ない(カジュアルでは全身オーバーサイズが流行っている)のに、なぜ手袋だけは相変わらずタイトに攻めようとするのだろう? 

アンラインドのナッパレザーのように薄手の手袋が手にフィットしていれば、たしかにペンで綺麗に字を書けるだろうし、小銭を摘んだりできるかもしれないが……だから何だというのだろうか?
そんな細かい操作するなら手袋脱いだほうがいいと思う。

あまりタイトフィットだと指も曲げにくいし、着脱もしにくい。着脱に時間かかるのは、所作として美しくないと思う。

ややゆとりあるフィット

7. 胸ポケットに突っ込むスタイルについて

よくショップのマネキンのコートに手袋が突っ込んであって、あれはあれでディスプレイとしては良いのかもしれないが、実際にやっていると「ちょっとカッコつけてる感じ」が出てしまうので、賛否あると思う。

とはいえ外した手袋を収める場所として胸ポケットは便利なので、私は外したら胸ポケットに突っ込むことが多い(コートを脱がない場合)。

個人的には、これをやるならポケット位置低めで、あまり主張しすぎないようにするのが良いかなと思う。

手袋をコートの胸ポケットに
手袋はコース(アンラインド)。コート(Coccinella)は通常よりポケットをやや深めに作ってもらっている。

いかがでしたか?

…でまとめるブログ記事ってだいたいクソだと思うのですが、いかがでしたでしたか?

前回、自身のことを「鳥」と言いながら、いきなりテーマに「手袋」を持ってくるあたり、このブログを書いている鳥は鳥頭なのかもしれませんね。

最後まで読んでいただけた方は、「この記事クソだな〜」と書いて SNS でシェアしていただければ幸いです。批判的意見も歓迎です。

記事の内容が手袋選びの参考になれば幸いです。まあ、もうすぐ春ですけど。

長文を書くと疲れるので、次回は簡単な内容にしたいと思います。

それではまた。

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