守りたい風景
僕はあの景色が好きだ
そよそよと流れる川
その背景は緑溢れる山々
煙突から細長く伸びる煙
そして…
何とも言えない緑の匂い、優しい空気
打ち水され、綺麗に弧を描いた数々の跡さえも絵になった
実はこの風景
僕の故郷では無い
母親の実家のある、名の知れた宿場町である
古くから伝わる宿場町
僕は母に連れられて、事ある毎に祖父母に会いに行っていた
こんな伝統的な故郷を持つ母の子供に生まれて良かったとつくづく思う
まるでタイムスリップしたかと思う程の風景がこれでもかと飛び込んで来たものだ
夏
滝壺に飛び込む事
モリを持って魚を獲る事
アリ地獄に蟻を落としアリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)を獲る事
冬
ソリであの絵になる坂を下る事
囲炉裏を取り囲んで五平餅を焼く事
練炭の掘りごたつでミカンを食べる事
雪に小便で絵を描く事
こんな経験が出来たのも
特別恵まれたていたと思う
もちろん水は井戸からだ
なのでそれを使って母親達が料理する
晩ご飯はどれも特別な味がした
隣近所、いや、ずーっと向こうの家でも
我々子供達は皆、厳しくも暖かく見守られていた
そこでの呼び名は誰の子供でも"やい坊主"であった気がした
そんな田舎を見て来た自分は大人になり
仕事や家庭を持ち、子供が出来
段々と疎遠になると言う事を実感した
残念ながらそれが現実である
久しぶりに訪れた田舎には
およそ似つかわしく無いジーンズの販売
カフェの券売機…
古くからの住人は言う
客足はめっきり減ったと
確かに、その時代
その風景を守って来てくれた人は
もう数少ない
先日叔父が他界した
彼もまたその風景を愛する人だった
オレの目の黒いウチには…
と言っていた人がまた一人居なくなったのだ
愛する会、保存会の皆様には
是非、古き良き風景を失わない様に
見守って頂ければと切に願うばかりである