臨死体験で見た世界
去年7月末の話ですが、わたしが暴走車に跳ね飛ばされた時の臨死体験です。
その時見た光景について、メモしておこうと思います。
わたしは家の近所で跳ね飛ばされたのですが、記憶にあるのは、マンションのエントランスを出たところまで。その後は、救急車で運ばれるまで完全に記憶が抜け落ちています。あまりにショックなことがあると、本能的に忘れようとしてしまうのだとお医者様が言っていました。
-ー眠りの中で、わたしはバスに乗っていました。
蒸し暑く 真っ暗な車内。
でも真っ暗といっても、夜の闇の暗さではなく、山道で木々の木陰になり暗くなっているような印象。実際、このバスは山間部をガタガタと走っているようでした。子供の頃によく旅行した、大好きな伊豆の山の辺りと似ていました。
そしてこのバスには見覚えが。わたしが事故に遭う二日前、父が病院で生死を分かつ大手術をしました。無事成功しホッとしていたのですが、この時幾度となく通った父の病院へのバスだったのです。
わたしはこのバスに乗り、つり革につかまって立っていました。というのも、車内の席はほぼ満席だったので、立っているしかなかったのです。よく見ると……母方の祖母が座っていました。誰よりも一番可愛がってくれた、祖母の凛とした姿が。その隣には、亡くなった母の妹、叔母。
わたしは悟りました。ああ、ここにいる人たちは「いまは亡き親類、ご先祖さまたちなんだ」と。知らない顔の人もいましたが、みな一様に、黒い礼服を身にまとい、真顔で、喋らず、少しもこちらを見てくれませんでした。
あんなに可愛がってくれた祖母でさえ、こちらをチラリとも見てくれません。わたしが見えないのか、または気づかぬふりをしているのか。
しばらくバスに揺られていましたが、ふと「そろそろ降りなくちゃ」という気になって、わたしはバスを降ります。
バスを降りた途端目が覚め、わたしは救急車の中でした。何が起こったのか全く分かりませんでした。
今にして思えば、あそこで「降りなくちゃ」という気分になって、本当に良かったんだなと。
祖母はきっと、わたしに気づかないふりをしてくれていたのだと思います。「あなたはまだこちらに来てはだめよ。生きなさい」と。
疑われるかもしれないと思いつつ、このことを病床で母に話したら、信じてくれるとともに感嘆の声をあげてくれました。
こういうことも、ようやく語れるようになってきました。リハビリもうまくいかないことが多い日々ですが、このことを忘れずに、前に進んでいけたらと思っています。わたしはまだ生きていきます。
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