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水素キャリアとしての合成メタンガス

はじめて訪問された方はこちらを先にお読みください。

フロートで得られる年間4千万トン以上のH2は日本や中国沿岸まで10.000㎞近くの距離を輸送しなければなりません。日本の企業(川崎重工)はオーストラリアで製造するグリーン水素(自然エネルギーで作った水素)を-253℃まで冷却して液化したうえで日本まで輸送する専用船を作る計画で、事実水素積載量75㌧の小型船は実際に運航させましたが3000㌧のH2を液化して船舶で運ぶことはあらゆる面、特にコスト面から現実的ではないようにみえます。
政府の見通しでは、日本は2050年までに年間3000万㌧のH2を必要とするが国内生産でそれを賄うのはコスト的に絶望的なので、必要な水素を海外で生産して日本に輸入するとの計画を公表しています。
それはそれでもっともな話ですが、海外でH2を作ることはともかく、それを日本に経済的に運ぶ方法についてはH2の生産現地にアンモニア工場を作り、液化アンモニアにして輸送するとしているものの、その方法で確定しているわけではありません。
どこの国がやっても同じことですが、H2は液化すると体積が800分の1になるものの、液化水素の冷却を止めてしまいそのまま全部気体に戻すと800気圧に戻ってしまいます。水素自動車のように小型で付加価値のつくものであれば、耐圧容器にコストもかけられますが、海外から輸送した大量の水素を魔法瓶の化物みたいなタンクを作って液体のままで長期貯蔵しておくのにはコストがかかります。気体に戻して耐圧容器で貯蔵する(この場合、80気圧で保存できるので、液化水素の体積は10倍になるだけで済む)にしても、保存するだけでそれなりの経費がかかります。
水素をトルエンに反応させて運ぶ方法も実証試験(千代田化工と三菱商事)が行われたりしていますが、日本の水素需要を賄うための大量輸送には不向きです。
大量のH2をどうやって生産地から需要地まで経済的かつ安全に輸送するかという問題は、赤道反流プロジェクトだけのものではなく、言ってみればH2を人類の主エネルギーにするための世界共通の課題ですから、いろいろな可能性が検討されていますが、その中で熱心に研究されているのが水素キャリアという考え方です。水素キャリアは文字どおり水素を運ぶものという意味で、水素を一旦別の物質と化合させ、その物質の中の水素を運ぶアイディアのことです。例えばメタンガスCH4は1分子量16の内4(25%)が水素ということになります。アンモニアNH3は分子量17ですから3/17の水素を含みます。これらの物質はトルエンのように後でH2を取り出して使うわけではありませんが、自然エネルギーを利用して合成すればそのままカーボンニュートラルの燃料として使うことができます。
先ほどちょっと触れたとおり、アンモニアの海外生産とその利用については政府も力を入れているところであり、別のページで説明することとし、ここでは赤道反流上のフロートの特徴を活かした合成メタンの生産と利用法について説明いたします。

たかがメタン、されどメタン

メタンガスはサバティエ反応により、H2とCO2を高温・高圧の元で合成することが出来ます。天然にいくらでもあるメタンガスを高価なH2を使って合成する必要などありません。
それに、化石燃料由来で作られている現在のH2であれば、すでにH2を作る段階でCO2を排出してしまいますから、脱CO2を心がけるのであればそんなH2を利用しても無意味で、CO2を副生しない自然再生エネルギー由来の電力で水を電気分解してH2を作らなければなりません。ただでさえ高い自然再生エネルギー電力を莫大に消費してありふれたメタンを合成してもCO2の排出が実質ゼロ(カーボンニュートラル)になるというだけですから、それならば自然再生エネルギー電力をそのまま電力で使ってしまった方が効率的です。
そんなわけで大規模な商用レベルのサバティエ反応器はありませんが、作ろうと思えば作ることができます。現に東京ガスや大阪ガスでは大規模な合成メタン製造(メタネーション)に取り組んでいますし、ドイツのAudiではバイオマス原料のCO2と電解H2を使い、CH4を合成して実用に供する実証試験を行っているそうです。                                                                      
 IEEJ 2015.06 P5-6    我が国のPOWER TO GAS                日中、CO2再利用で連携 世界最大のガス化施設建設          閲覧できないときはこちら

合成メタンの強みは原料としてCO2を使うということです。合成メタンガスも燃焼すればCO2を排出しますが、その排出分は原料のCO2のものですからCO2循環が生じ、新しくCO2を増やすものではありません。とは言っても、通常では天然ガスに比べCO2,H2などの原料費や触媒費用、高温高圧を実現する費用などがかかりますし、もともと別の場所で作られるCO2とH2を同じ場所に揃えるのも大変です。それを考えたら自噴する天然ガスとコストの比較をするだけ無駄でしょう。   
しかし、そんな合成メタンでもフロートに随伴する工場船で生産すれば、話はガラリと変わります。

フロートの上ならば原料のH2は現地で生産されます。生産コストもほぼ無料で、一時保存のコストを除いて輸送のコストもかかりません。CO2は固形化(ドライアイス)し既に空気冷却設備を備えた天然ガスタンカーの片道を使って産業的に排出されたものをフロートに運ぶのが理想ですが、不足する分については洋上の広い敷地のフロートでならほぼ無料の電力を使って大気から取り込めるので、CO2のコストもほぼゼロです。メタン合成反応に必要な高温高圧もほぼ無料で使えます。つまり、メタンを合成してもコスト的に引き合わないとされている理由がすべてなくなります。言葉を換えれば、産油国で自噴している硫黄や窒素酸化物を含んだ天然ガスと変わらない費用でメタンを合成できるということです。

そして他のページで紹介しているとおり、フロートにはその下の海中に浮力保持を兼ねたエアバッグを置いて軽く圧縮した十億㌧単位CO2を大量に安全に低コストで貯留しておけます。これはフロートの機能の際立った特徴で貯留したCO2はメタン合成だけでなく様々な利用法が考えられています。
陸上の化石燃料発電所や製鉄、セメント、ガラスなどの生産工場で排出されるCO2についてはいろいろと処理方法が検討されていますが、経済的な処理にはこれといった名案がありません。深い穴を掘って圧縮したCO2を閉じ込め周囲の地中に浸透させるという方法が主流になりそうですが、適当な場歩を選定し穴を掘っても、そこまで圧縮CO2を運ばなければなりません。

しかし、もしフロート上でのメタン合成が軌道に乗れば、フロートから再生メタンを運んでくるタンカーの帰り道にCO2を冷却したドライアイスを運ぶことが出来ます。タンカーの冷却設備はそのままドライアイスの保冷に使えます。
先ほども触れたように、フロートであればCO2の貯留コストはかからず、合成メタンその他の原料として利用することが出来ます。ドライアイスを積めば空荷で運ぶより燃料コストがちょっと余分にかかるでしょうが、陸上でCO2をどこかに運んで埋めるコストに比べれば無料みたいなものです。

合成メタンの話に戻りますが、合成に必要な高温高圧は太陽光発電やH2を燃焼させることからでも得ることが出来るので問題ありません。O2は電気分解時の副産物としていくらでもあります。合成メタン製造設備はかなりの規模(一日数トン)のものが都市ガス会社などですでに実用化されていますが、自然エネルギーによるH2を確保するところがコスト的にネックになっているようです。だからこそ、H2がほぼ無料ほぼ無制限に獲得できる赤道反流上での合成メタン製造は魅力的です。製造にあたって原料のCO2の純度が下がれば熱効率は低下するのは当然ですが赤道反流上での合成メタン製造は必要な高熱も無料に出来ますから費用をかけて純度の高いCO2を使わなくてもたいしたハンディにはならないはずです。製造時の低効率を織り込んでおけば、触媒にはレアメタルではなくニッケルを使えますから、触媒のコストも微々たるものです。原料のCO2やH2は水面下に貯蔵できるので、その量にはほぼ制約がないのも申し述べたとおりです。
「工場船」ではメタンの合成のみ(サバティエ反応部分だけ)を行い、原料(CO2とH2)や熱源はフロートから供給し、生産されたメタンもフロートで貯蔵すれば、たとえ船内工場で設備規模に制約があっても大量のメタンを作ることが出来ます。現在でもコンテナーサイズで日産数トンのメタンガスを作れる設備が販売されていますから、需要があればもっと大きな設備も作れるはずですし、従来サイズの設備を多数積み込むことも出来そうです。メタンの合成反応室を船の中にいくつも設置できれば一艘の大型船サイズで日産数千トン数万トンのメタンガスを作ることが出来ます。そのガスを液化してタンカーに積み込むのは天然ガスと同じですが、洋上であれば大げさな港湾設備は不要です。
フロートでの原料(H2,CO2)の生産能力が上がればおそらく数万トン級の「工場船」が数十隻の単位で必要になります。しかし、工場船の中のメタン製造設備は陸上でも必要になるコストです。ドックで完成させた船はフロートまで曳航するか、船に自力航行機能を持たせるかは、今後の造船にかかる費用次第だと思われます。長い時間の間にはフロートでは対応できない修理やオーバーホールが必ず必要になりますし、老朽化すれば解体しなければならないでしょう。そのことを考えると工場船もたとえゆっくりであっても自力航行できるものの方がよいかもしれません。先ほど工場船の数は数十必要になると言いましたが、フロートの一辺50㎞程度は自由に使えるので工場船を縦列に並べても問題ありません。
メタンガスの液化貯蔵設備を水中に備えつけるのが難しいとかメンテナンスが必要であるとかであれば、液化設備を備えたタンク船を浮かべるようにします。液化のためのエネルギーはフロートから供給します。

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合成されるメタンは言うまでもなく「カーボンニュートラル」ですし、SOxやNOxなどの不純物は生じません。天然ガスに比べても品質的には充分に競争力があります。                          しかし、品質力だけで販売できるものではありません。
パイプラインで輸送できる近場の天然ガスに比べればコスト的には見劣りしても、天然ガスが勝手に噴き出してくる産油国からの輸入価格に比べたら競争力を持つというレベルでの生産コストはキープしたいところです。         赤道反流で生産されるメタンもちろん輸送費はかかりますが、ここでの強みは従来のLNGタンカーをそのまま輸送に利用できることです。                      合成メタンガスはフロートの設備で生産されますから、そのまま液化して直接タンカーに積み出すことが出来ます。もちろん、陸揚げ後も既存インフラをそのまま使うことが出来るので特別の設備投資は必要ありません。

自噴する天然ガスも合成メタンも生産原価はたかが知れたものですから、価格に差がつくのは輸送費ということになります。たしかに赤道の真ん中から運ぶのであれば遠距離ですが、運び先が中国や日本であれば中東から運ぶよりは近くなります。

CO2やSOxを排出する重油動力船は徐々にLNG燃料船に変わりつつありますが、普及が急速に進んでいるわけではありません。LNGタンカーの場合、燃料コスト面に加えて天然ガスのバンカリング(船への燃料供給)のできる港が少ないことなどにも理由があるようようです。タンカーがバンカリング設備のない港へ向かおうとすれば往復の燃料を積まなければならず、非常に不経済なことになります。またLNG燃料は完全燃焼させないとCH4が漏れ出す恐れ(メタンスリップ)が生じるとされています。CH4は空中に拡散するとCO2の二十倍以上の温室効果があると言われています。https://www.jstra.jp/html/PDF/research2017_05.pdf

ただ、赤道反流発着のタンカーなら行き先がどこであれバンカリングの制約はありません。もちろん、その分不経済にはなりますが積荷が合成メタンですから船にそのような設計をしておけば途中でガス切れをする心配はありません。また、行き先で燃料補給をするのであれば、それが合成メタンでないと自身でCO2を排出してしまいますから、結局は自分で運んだガスを自船で燃焼させることになります。しかし、合成メタンタンカーの航行が頻繁になるようであれば、フロートと目的地の間に空中給油機のようにメタン燃料の補給船が待機していて、赤道往復の船だけでなく一般のメタンガス動力船に燃料供給できるようになるかもしれません。赤道反流上の供給とは違って台風や荒波など難しいこともあるでしょうが、陸上と違ってメタンガス補給船は航行中の船舶の航路に合わせて移動できますからガソリンステーションなしで給油できるようなものです。もし、太平洋上にメタン燃料補給システムを作るとすれば、日中韓台などの太平洋沿岸国と北米や南米の航路の中間に作ることになるでしょうが、そうすると赤道反流のフロートからのメタン補給は立地条件に恵まれてコスト的には圧倒的に有利になります。
日本海事協会発表資料(日本海事新聞)           

この状況はメタンがアンモニアに代わっても同じです。重油燃料の船舶の排出するCO2は世界のCO2総排出量の10%に達するという話もあります。特に大型船の重油から他の動力エネルギーへの切り替えは避けて通れない課題ですが、メタンやLNG、アンモニアといった代替燃料の問題点は燃料タンクに場所を取るために太平洋横断のような長距離運航では荷物を運ぶ効率が落ちてしまうことにあります。
日本郵船、LPG焚きVLGC整備。2隻、初のアンモニア輸送兼用

申し上げたようにメタン(あるいはアンモニア)の補給船は陸上のガスステーションと違い、補給船の方が貨物船の航路まで出向けます。言ってみれば出前が出来るということです。難しいことはありません。北朝鮮が禁輸された石油を外海で積み替えて運んでいるではありませんか。

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現状での脱炭素社会構築への問題点はCO2の回収技術が遅々として進まないことにあります。それも無理のないところで、回収したCO2の行き場がありません。地中貯留が一番有力な方法とされていますが、もし効果的な貯留方法が実用化されてしまうと、電力会社などはCO2を回収貯留する設備投資をしなければなりません。どうせ寿命のくる石炭火力には見切りをつけて原発を作りたい側にとっては、CO2回収技術の出現は痛し痒しの側面があります。それよりも「貯蔵方法が見つからなくて困ったもんだ」と言いながら、CO2を排出し続け、原発建設に世論を誘導するのが大人の智恵というものでしょう。                             CO2貯蔵実験センター 東洋経済 2018.04号

ただ、排CO2の供給が得られないからと言ってフロート上でのメタン合成が出来ないものではありません。先ほどちょっと触れましたが、大気中には400ppm近いCO2が含まれていますから、それを回収して原料として利用すればいいだけの話です。
回収設備については特許申請中ですが、概略を申しあげると事実上敷地の広さに制限のないフロート上面と水中に巨大な送風機(みたいなもの)を通し、最初に水素バーナーで酸素を燃してしまいます。サバティエ反応では他の不活性気体が混入しても効率が落ちるだけで大きな問題はありません。 酸素を燃焼させた空気は次に大きな水槽を通ります。火力発電所のように高濃度のCO2を吸収するわけではありませんからアミンでのCO2吸収は大袈裟すぎます。
CO2は低温であれば水によく溶けますが、他の気体N2やArはさほどでもありません。ですから水槽にはCO2が溶け込んで蓄積されます。しかし、CO2は水温60℃になると水に溶けていられなくなります。気圧を下げても同じです。ですから、水槽の水を60℃以上にあげると炭酸飲料のようにCO2を噴き出します。申しあげたようにサバティエ反応器でのCO2はさほどの純度を要求されません。触媒には最近開発されている高価なレアメタル触媒を使わず、昔ながらの安価なニッケルを使いますが、フロートではサバティエ反応室に広さの制限はないので筒状の反応器としH2とCO2の接触機会を増やすことが出来ます。反応室内の高温維持(200~400℃)も問題なく出来ます。他の場所ではコストのかかる熱源問題もほぼ無料の水素や完全無料の太陽熱から得ることが出来るからです。  CO2の大気中の濃度は地上から遠く離れて空気のきれいな赤道反流上でも300ppm(0.03%)くらいはあるとして一日に1千万立方メートルの大気を吸入させれば3000立方メートルのCO2を吸入できますから、CO2の分離率が66%しかなくても2,000立方メートルのCO2(CO2の重量は2㎏/㎥)として換算で約2000㎏=2㌧)が確保できます。その計算で面積10㎡の送風ダクトに風速20m/sで送風すれば10時間で7,200,000立方メートル。24時間稼動すれば約2000万㎥(CO2換算約40トン)程度の送風が出来ます。もっとも日産40トン(1500トン/年)のCO2なんて数の内には入りませんから、こんな送風管を十万本くらい作る必要がありそうです。数字は大きいですが、このダクトはほとんどが水中を通りますから大気の通り道は所々に補強リングを嵌めたビニールの袋で十分です。それでやっと年間1億5万トンのCO2が確保できます。世界で人類が排出しているCO2は毎年300億トンを超えていますから気休めにもならない数字ですが、CO2を吸収しているのですから、一応は排出権取引の対象になるので、合成メタンの製造コスト削減につながります。フロートであれば、このCO2をフロート下海中にエアバッグに入れて貯蔵することが出来ます。フロートはその下部に空気を入れたエアバッグを装着して浮力を確保する必要がありますから、そこにCO2を充填すればまさに一石二鳥です。

大気からの取り込みだけに頼らず、陸上の工場で大量に排出されるCO2を、いわば産業廃棄物として捉え、経済的に赤道反流上のフロートまで輸送する方法は一石二鳥の側面があります。                         フロート上で合成したメタンは既存のLNGタンカーで輸送して積み下ろしも既存のインフラをそのまま利用できるという利点がありますが、当然タンカーはフロートと陸揚げ地をシャトルすることになりますから、タンカーのフロートへの回航を利用してCO2を運ぶことが出来そうです。                    CO2を液化や固定化する設備をわざわざ作る必要はありません。タンカーの冷蔵設備をちょっと手直しすればドライアイスのまま運んでフロートで気化して取り出すことが出来ます。メタンの液化温度はマイナス170℃も必要なのにCO2はマイナス80℃でドライアイスになります。ただし、CO2はCH4に比べて密度が3倍近くあるので積載量いっぱいに積んでも、運んだメタン合成に必要なCO2の1/3しか持ち帰れませんが、フロート上に同時に作るアンモニアタンカーも冷却能力を若干強化することによってNH3積載能力の3/17のCO2を運ぶことが出来ます。前述のように気化されたCO2は水面下のエアバッグに短時間で貯留できますから、CO2の荷下ろしがタンカーの運航効率を大きく妨げることはありません。

※ 別ページ「CO2の水中貯蔵について」もお読みください。
                       
CO2を排出せざるを得ない産業はたくさんあります。熱源を自然再生エネルギーや合成メタンに切り替えられればCO2ニュートラルになりますが、それもできない産業や工場も多数あります。これらの産業は自分で原子力発電をやろうとは思っていません。と言ってCO2を地中に貯留するためにはトンあたり¥10,000以上かかると政府見通しで想定されているものの、実際のところこの価格でCO2を無制限に引き取って地中貯留してくれる企業も現れそうにありません。   
数千㎞彼方の赤道までCO2を運ぶとなると何かと大変なように思えますが、CO2を排出する産業はたいてい港湾に近接しています。陸上で新しく必要な設備はCO2発生場所から港までのパイプライン、予冷して船積みを待つためのCO2貯蔵設備だけです。コスト面でも技術面でも意外と易しいはずです。

CO2が産業廃棄物であるならば、その再利用やCO2循環を考えるのは当然ですが、CO2をCとO2に戻すのはエネルギーが必要ですから、化学的な方法でCO2の再利用を考えるのでは経済的な方面から限界があります。
純技術的にはCO2をCO+Oに電気分解し、COとH2を使って尿素を作ることはできます。
赤道反流で合成メタンの生産が成立するのはH2や高温高圧を得るためのエネルギーがほぼ無料だという例外的な条件があるからです。
しかし、視点を産業廃棄物のCO2を再利用資源として考えた場合、赤道反流上のフロートにはまだまだ大規模な企画を立てる余地があります。CO2の赤道反流までの輸送が合成メタンやアンモニアの運搬船の帰り道を利用するといった便法に頼ることなく、CO2を経済的に引き合う範囲で無制限に運べる手段が開発されればいいということになります。

赤道反流上のフロートとCO2の再利用法で言えば、まず挙げられるのがフロートの浮力保存用エアバッグへのCO2充填です。フロートはソーラーパネルをはじめ多くのものを積みますから、船のように水面から水中に空間を作ったスペース(船腹)で浮力を得るだけでは不経済であり、そのようなスペースは浮力を得るためよりも重量物を収納するためのものとして使われ、浮力自体はフロート下面の海中に多数のエアバッグを沈める形で確保し、更にその一部のエアバッグで空気の出し入れによって圧力保持や調整を行うようにします。
装置としては非常に単純ですが、フロートの形状も水面に対しては船腹部分を除けば「いかだ」を浮かべているにすぎませんから、耐塩水耐圧の素材で袋を作ればこれだけのことで数億㌧の浮力を確保できます。
充分な量のCO2さえあれば、このエアバッグのほとんどは空気ではなくCO2に置き換えて充填することが出来ます。
CO2は単位体積で言えば大気よりずっと重いのでエアバッグとしての浮力装置としては効率が落ちますが、そんなことはどうにでもなります。
安全性も問題ありません。万一バッグの一つ二つからからCO2が漏出することがあっても海中での出来事です。エアバッグへのCO2の充填可能量についてもエアバッグに適当な錘りをつけて潮流の圧力で横を向かないようにして上面から加圧して水中で下に伸ばしていけばいいのですからどうにでもなります。エアバッグへの外圧は大気圧ではなく水圧になりますからその分エアバッグへの負担も軽くなります。加圧充填されたエアバッグのCO2はバルブ操作一つで取り出すことが出来、合成メタンやアオコ養殖の材料、将来的には蟻酸の製造などにも利用できます。
エアバッグのCO2は再利用を目的としますが、エアバッグの耐久性が十分であれば二十年とか五十年とかの長期で貯蔵し、先入れ先出しで使用することができます。
フロートに億㌧単位のCO2を貯蔵するにはあくまでも廉価な輸送手段のあることが前提ですが、CO2のフロートでの貯蔵にはその他にも利点があり、その一つにCO2の純度を問わないということが挙げられます。現況ではCO2の貯留だけでなく、燃焼段階でCO2の分離にもコストがかかっていますが、CO2再生の段階で必ずしも純粋のCO2を必要とするわけではなく、完全燃焼させてO2さえ除いておけばN2やArなどの気体が大量に混入していても差し支えないケースがほとんどだと思われます。更にCO2をドライアイス化してフロートに運ぶのであれば、今行われているような燃焼後の排出ガスから大規模で複雑な吸収装置を使ってNxやSxを取り出さなくても、排出ガスを使った人工温泉などを利用して自然に放熱させてからドライアイス化すればCO2と他のNxやSxとは融点が違いますから簡単に分離できます。

現況で考えられる一番ローコストで済むCO2の輸送法はまず輸送距離を短くすることと輸送にかかる動力エネルギーを極力減らして輸送効率を上げることにあります。もちろん、フロート上の設備で大気からCO2を取り入れるようにすれば一番安く無料同然で入手できますが、大気から吸収したのでは請求書の宛先がなくなってしまいます。出来れば「産廃CO2の引取業」として陸上で排出されるCO2を引き取り、フロートの事業計画に組み入れたいところです。
「どうしても陸上から」と考えた時には些か無理筋ですが、南米の太平洋沿岸の国々が排出するCO2を引き取るという手があります。日本や中国からCO2だけを運んだのでは割に合いませんが、チリやペルーであれば赤道反流に近いだけに可能性がないわけではありません。

陸上でメタンの合成(メタネーション)を大規模に行うにはいろいろ問題があります。自然再生エネルギー由来のH2を作るには太陽光や風力で得られた電力を使って水を電解してH2を作るというプロセスがつきものですが、それであればH2など作らず電力をそのまま利用してしまうことでたいていの場合は済んでしまいます。逆に言えば、発電しても送電できない場所で作った電力を利用しなければならないということですから、送電の手段を持たない赤道反流上のメタネーションは合理的な方法だと言えるかと思います。メタネーションにおいて大規模なメタン製造に必要な電力と生産されるメタンガスのエネルギーの間で失われるエネルギーは今後技術的に改善が続いても20%程度は生じてしまいます。(得られた電力で水を電解する段階で数パーセントのロスが生じます。)
陸上であればそれがどんな場所であれ送電線を引くことはできます。長距離送電による電力ロスはやはり数パーセントといったところでしょう。であれば無理にメタンを作って運ぶ必要はありません。その意味ではメタネーションを行う適地は赤道反流上しかないことになります。

<H2とCO2からCH4を作る作業(メタネイション)はいろいろなところでの研究が報告されていますが、現状は実用化にはほど遠いところにあるようです。以下はYOUTUBEに投稿されているメタネーション関連記事です。>
メタネーションの紹介記事
メタネーションの紹介記事②(ちょっと長いです。)

この先は「お話」として読んでください。
これらの国なら、コンティキ号の例もあることですし、CO2を適当な圧力で詰めたエアバッグを沿岸からちょっと沖合まで運んで精霊流しのように南赤道海流に乗せて流せば、あとはプカプカと流れてフロートの近所までやってきます。(もちろん、他の船も航行することですからまるっきり潮任せというわけにはいきません。ただし、時間がかかるのは問題ではありません。)
重量20㌧のCO2を充填したエアバッグ(というか空に浮かばない巨大な風船みたいなもの)1000個並べれば20,000㌧のCO2を運ぶことが出来ます。冷却設備を持った小型タンカー一艘分くらいの量でしょうが日本でのCO2地下貯蔵コストは1㌧¥10.000だそうですから、これだけで2億円分のCO2を輸送することができます。、
海流に浮かんだ多数のエアバッグは空から見れば草原を移動する羊か牛の群のように見えるかもしれません。そうするとエアバッグの集団を小型船に乗って管理するスタッフはCowboyではなくCO2boyと呼ばれることでしょう。日差しの強い海原ですからテンガロンハットが似合いそうですね。





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