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政治に興味なかったけど選挙で勝った話 −起業家が見た統一地方選挙2019−

突然ですが、皆さんは政治に興味ありますか?

ないですよね。

私もありませんでした。

「でした」と過去形なのは、今は少しだけ関心が芽生えてきたからです。

2019年4月21日に投開票となった平成最後の統一地方選で、私は横須賀市議会議員選挙に25歳で立候補した竹岡力氏の陣営に入って、人生で初めての選挙戦を戦いました。

自民党や公明党が強く、また現職優位と言われる横須賀市議会で、25歳・無所属の候補が、3760票を取って50人中8位の得票数で当選したのです。

これまでの横須賀市の最年少市議記録は26歳だったため、最年少記録を塗り替え、全国でも最も若い市議となりました。この快挙は神奈川新聞でも二日にわたって報じられるなど、大きな話題となりました。

私は普段ITの仕事をしていますが、この選挙戦において、事務局長のような役職で(フラットな組織だったので肩書きが決まってたわけではありませんが)全体指揮を務めたほか、選挙期間前の政治活動においても後援会幹事として後援会運営に携わってきました。

もちろん平日の昼間は仕事をしているので活動できませんが、平日夜と休日を使ってドップリと政治活動ならびに選挙活動を経験したことで、これまで縁遠かった政治の世界というものが身近に感じられるようになりました。

本稿では、全く政治に関心のなかった一個人が、選挙戦を振り返ってどのような要因で勝つことができたのか、そしてこの戦いを再現可能にするにはどうすればよいかを考察します。

結論から申し上げると、「良い選挙戦をするには、良いチームをつくること」に尽きると考えています。

今日、日本全体だけでなく、政治の世界も高齢化が進んでいます。

この度の知見を共有することで少しでも若者が政治に興味を持ち、竹岡氏に続いて政治の世界にチャレンジしてくれることを願っています。

横須賀市議会議員選挙の概要

■ 選挙期間: 2019年4月14日〜20日
■ 投開票日: 2019年4月21日
■ 定  数: 40名(前回選挙より定数1減)
■ 立候補者: 50名
■ 現  職: 35名

まず横須賀市議会についてですが、小泉進次郎議員のお膝元ということもあり自民党が強い土地柄です。公明党も強く自民に次ぐ会派となっており、その次に前市長の流れを引き継ぐ無所属系の会派、という構図になっています。

また、2015年の前回選挙時には現職当選率が100%と、新人にとって狭き門になっているのが特徴です。

今回の選挙では現職35名が出馬、また引退者の後継指名が2名であったため、実質的には空き枠3を13名の新人で争う、という構図です。

50名が出て40名が当選すると聞くと倍率1.25倍ですが、実際には4.33倍になります。この表面上の倍率を捉えて「市議選は受かりやすいから挑戦しよう」と煽っている選挙本もありますが、基本的には新人は不利な立場にあるということは念頭に置いておく必要があります。

こうした状況の中で、被選挙権を得たばかりの25歳が無所属で挑戦するというのは、かなり高いハードルをいくつも超える必要があるというのは想像に難くありません。

相手は「地盤・看板・鞄」三拍子揃っているだけでなく、何度も選挙戦を戦っているのでやり方を熟知しています。若気の至りで無鉄砲にやって勝てるわけはなく、しっかりした戦略を練り、戦える組織を作り上げなければいけません。

それでは我々はどう戦い、ベテラン議員の牙城を切り崩したのか。

その勝因を分析してみたいと思います。

勝因① 差別化の成功

最も重要なのが、ビジョンです。

起業でもなんでも同じですが、プロジェクトの開始に当たっては「なぜそれをするのか」という理由を突き詰めなければいけません。この理由が的外れだと、チームに迷いが生じ、最悪空中分解することになりかねません。

今回のケースでは、候補者が次の二点を明確に打ち出していたため最後まで軸がぶれることはりませんでした。

1. 若者の政治や地域への参加を促し、まちに多様性をもたらす
2. 人口減少という大きな課題に対し、教育で選ばれるまちにする

どちらも候補者の根底にある想いから出てきたものであり、決して票を得たいがための取ってつけたようなビジョンではありませんでした。

横須賀も高齢化が進んでいますから、もっと高齢者に寄り添った政策提言を行うこともできましたが、もしそうしていたならば「なぜこの活動をしているのか」という根本のところで迷いが生じたことでしょう。最後までチームメンバーの士気が落ちず、かつ多くの支援者を巻き込めたのも、ビジョンが明確であったからに他なりません。

このビジョンの上に、戦略を描いていきました。

といっても政党のような組織的なバックアップがあるわけではありませんから、大戦略を描いていたというよりも、基本的なマーケティングを愚直にやり、固めたブランドから逸脱しないように個別の戦術を展開し、PDCAを回して改善していく、という当たり前のことを地道にやったというのが現状です。

まずマーケティングですが、我々は今回ターゲットを三つに絞りました。

1. 教育に関心がある30, 40代の子育て世代
2. 候補者の地元住人
3. 18〜29の若年層

このうち、3は投票率が低いのでそこまで気にしてはいませんでした。

1については本気で教育改革をしたいという熱意や、ベネッセ出身であるということを訴求していきました。

2については地元のど真ん中に事務所を構えたり、地域のタウンミーティングを多く開催するなどで、市街地に拠点を設ける他の陣営と差別化を図りました。

政治活動や選挙活動については厳しいレギュレーションがあるので、PDCAを回すにも限られた範囲でしか改善はできませんが、ビラやSNS投稿、演説といった日々の活動の中で訴求内容をちょっとずつ変えていきました。

具体的な話をすると、活動当初はビジョンの一つである教育についての訴求が多かったのですが、それでは子どもがいない方や子育てを終えた高齢層を取り込むことが難しいため、「なぜ25歳で挑戦するのか」という必ず聞かれる質問をフックに、「地域に育てられた恩を地域に返したい。また、自分だけでなく若者全体を地域に巻き込みたい」という文脈でカバーする領域を広げました。

最終的に「25歳の挑戦」というフレーズでイメージを統一し、高齢化する議会という対比で差別化を図っていきました。

意外に感じるかもしれませんが、高齢の方も議会の高齢化を憂いています。「政治は定年後の道楽ではない」という言葉も聞きました。「若い奴に何ができる」という反論が定番だっただけに、実は高齢層にも刺さっていると感じたことで、自信を持って「議会の若返りが必要」という訴求ができました。

勝因② ミニマルで機能的な組織

「組織は戦略に従う」とは経営学でよく聞く名言ですが、実際にはそう簡単にできるものではりません。

平成から令和へと移りゆく新しい時代に、軍隊のような組織をつくることは現実的ではないと考えています。

むしろ現代的な組織運営に必要なのは、メンバーのモチベーションを高く保つことと、徹底して無駄を省いてメンバーの時間を奪わない、ということであると思います。

そもそも政治活動にしろ選挙活動にしろ、それでお金が儲かるわけではありません。金銭的インセンティブや昇進による権限拡大といったモチベーションの与え方はできません。

なぜその活動をするのかというと、「ビジョンに共感したから」です。

ただし人によってビジョンのどの部分に共感したかは異なります。また、共感したからといって活動に参加してくれるというわけでもありません。組織運営で重要なのは互いを思いやる心と、細かい調整・声かけという地味なものです。

今回の我々の陣営は、2枚のピザを分けあえるくらいのメンバーがコアとなって回していました。

正直なところこれ以上は少なくできないくらいの人数でマンパワー不足にはいつも悩まされていました。

選挙活動期間は選挙カーの運転手、ウグイス嬢、事務所番と常に人が必要です。また、政治活動期間においてもポスティングや大規模集会、事務所の設営と人手が必要なタイミングが何度もやってきます。

その度ごとに知人や家族を巻き込んでいっぱいいっぱいの状態で各種イベントをこなしていきました。もっと手伝ってくれる人がいてくれればと思ったことは一度ではありません。

それでもこうしたギリギリの状態でなんとか最後まで組織を回しきれたかというと、無駄なことは一切しなかった、ということが大きな要因だったのではないかと思います。

無駄な会議は極力しませんでしたし、会議の性質に分けて必要なタイミングで必要なメンバーを招集しました。幹事会は週一、全体会・タウンミーティングは月一、くらいのざっくりした目安はありましたが、部門ごとの会議は必要に迫られたら行うなど、決起集会や告示日などの大きなイベントに合わせて柔軟に日付調整をしました。

内容自体も、とにかくTo Doに専念して、ガントチャートで期日を管理し、進捗が遅れているものはメンバーでカバーし合いました。

これができたのもチームが若く形式にとらわれない集団だったからだと思います。

また、ITベンチャーからすれば当たり前かもしれませんが、チャット(LINE)やGoogleドライブ、スプレッドシートの共同編集という強力なツールをフル活用して、最新の情報の共有を心がけました。

無駄な仕事を減らし、無駄な時間を使わなかったことで、本当にやるべきことに時間が割けたのは勝因の一つであったと思います。

勝因③ ハードワークと熱量の限界突破

最後に、あまりスマートな要因ではありませんが、ハードワークとそこから生まれる熱量が、ギリギリの勝ちではなく50人中8位の得票数にまで至った大きな理由ではないかと思います。

歴史に if はないので想像でしかありませんが、戦略と組織を整えることができれば選挙戦を戦うには十分だと思います。

それでも、選挙に勝つことだけが目的ではなく、その先の市政の変革までを目的とするなら、得票数というのは一つの大きな指標であると私は思います。

今回の選挙戦では、候補者が選挙カーを使わずに街中を走り回るという戦術を用いました。

これは戦略上の若者らしさの訴求という一面もあるのですが、「やれることはなんでもやろう」というド根性精神の一面もあります。

走り回る候補者ももちろん大変ですが、選挙カーと合流して演説するという調整が必要になるので、単純に事務コスト・コミュニケーションコストも倍増します。また、伴走者を立てる必要もあるので協力者も募らないといけません。

選挙期間は日曜日〜土曜日の一週間ですから、休日は友人で埋まるとしても、平日にシフトに入ってくれる人を見つけるのは大変です。正直なところ選挙期間に突入してもシフトが埋まっていない時間帯はちらほらありました。

それでも最後にはシフトを埋めきり、完走することができました。

なぜ完走することができたのかというと、ハードワークによって「絶対に勝つ」という熱が発生したからです。

客観的に見て、この熱量は合理的なものではないでしょう。しかしながら、当事者にとって、この「絶対に勝つ」精神ほど強いものはありません。

熱量はチームを一つにし、他者を巻き込む力を与え、波のように広がっていきます。

散々、戦略的に考えるとか、無駄を省くとか言ってきましたが、最後の最後に大事になるのはこの熱であると思っています。

政治に興味を持った人のために

今回の経験を通じて私が伝えたいことは一つです。

選挙って楽しい。

この一言です。

政治に興味がないという方。政治家なんて似たり寄ったりで選挙の時だけ良い顔すると思っている方。

そんなことはありません。

志の高い政治家はあなたの地域にも必ずいます。現職だけでなく、新人にも。

もし政治に興味が持てなければ、私のように陣営に入り込んでみるというのは一つの手です。私は一年前までズブの素人でしたが、政治や選挙を肌で感じたことで出馬すらできるくらいの知見が貯まりました(出ませんが)。

そして今、政治に対して主体性を持って関われる気がします。

また、幸いにもこの記事を読んで自分も選挙に関わりたい、もしくは立候補できるのではないかと思われた方。

何よりも重要なのはビジョンですが、選挙戦を戦い切るという意味においては組織が最も重要です。

良いチームをつくれば、良い選挙戦ができます。

政治家は雲の上の存在ではありません。

ぜひ政治家という職業も選択肢として考えていただければと思います。


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