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広重ぶるう

梶よう子著 『広重ぶるう』読了。

「東海道五十三次」などで知られる江戸時代の浮世絵師・歌川広重の半生を描いた小説。

歌川広重の目に江戸の町がどんなふうに見えていたのか、どれほど魅力的だったのか、心血を注いだ作品を見れば一目瞭然だが、広重自身がどんな人だったのか現存する絵を見ただけで想像するのは難しい。私にとって浮世絵師は親しみを覚えにくい人々なのだが、この小説を読んだおかげで確実にイメージしやすくなった。

自分の足で歩き、頭にその景色を焼き付けて、思い出しながら描き出す。写真に残すこともできないし、ある程度写生はするだろうが、記憶が頼り。それが当たり前の時代。
景色をそのまま描き写すのは絵師の仕事ではない。そこにある想いを乗せて描く。自分にだけ見えている景色を描き出す。コンピューターではなく、人が描くもの。だからこそ、安政の大地震の後、焼け野原になった江戸の町を見ても、記憶を頼りにして描けると確信している広重に、人の強さに感動するのだ。

江戸っ子気質丸出しで人情深い。生き生きと描かれる広重の人物像に最後まで魅了された。