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15万円のパールネックレスは馬鹿馬鹿しいか


はじめまして。
私は現代アートを扱うギャラリーで5年働き、去年総合ジュエリーメーカーに転職して、パールを扱うようになりました。
もともと文章を書くのが好きだったのと、
直接エンドユーザーのお客さんたちにパールについて話したり、逆に話を聞いたりすることが少ないこともあり、パールの話を中心に、このnoteに書き始めることにしました。

ところで、冠婚葬祭で使うようなパールのネックレスは、15万円くらい出せばそれなりにいいものを買うことができます。
この、パールに使う15万円って、馬鹿らしいと思いますか?自分で買うとして、プレゼントするとして、どうでしょうか。

私は、ジュエリー業界に転職するまで、ジュエリーは自分で買うものではなく、もらうものと思っていました。
先に言っておきますが、いまはやりの港区女子みたいなことではなくて(そんなスペックそもそも持ち合わせていないので。。。)自分では買わないかな、というくらい、さほど欲しくなかったのです。

だけど、15万円くらい、あるいはそれ以上のお金を出した経験はあります。
たとえば、25万円の絵を買いました。総額15万円くらいする海外旅行は、経験のある人も結構いるはず。私もそうです。

15万円というお金は、たぶん出そうと思えば出せる金額だと思います。
ボーナスがそれより多い人も、多いのかもしれない。

以前の私が、なぜパールに15万円出さなかったのか。すこし考えてみました。

・パールをとくに必要と感じなかったから(冠婚葬祭もあまりまだなかったし)
・希少性(自然の偶然性でできた美しいもの)にお金を出す感覚がわからなかったから(人が生み出したアイデアや技術にお金を使いたい)
・モノの背景に共感できないと、高いお金は出したくないから(なんとなくパールが身近でなく、知らなかったから)

だけど私は、ジュエリー業界に入った1年目に、20万円のパールのロングネックレスを買いました。
理由としては、転職の覚悟というか、営業として外に出るときに、絶対に間違いないジュエリーだから、というのが大きい。

私が買ったのは、8.0㎜~8.5㎜のアコヤ真珠の、90㎝くらいの連のネックレスです。(チェーンの先に一粒パールがついている、みたいなジュエリーと区別して、珠がずっと連なっているネックレスを連のネックレスと言います。)

連のネックレスは、パールが糸に通った45㎝くらいの「連」を仕入れて、クラスプという留め具をつけることで完成品になります。これが、お葬式でみんながつけている長さのネックレスです。
仕入れる連がもともと45㎝なので、連ネックレスは45㎝という単位がベースになっていて、90㎝を2本ロング、135㎝を3本ロング、と業界の人は呼びます。
3本ロングは、ココ・シャネルの重ね付けパールのイメージですね(あれはフェイクパールなのだけど。シャネルがフェイクを使用したのは、すごくメッセージ性を感じるのだけれど、その話はまた今度書きたいと思います。)

私のパールは、2本ロングなので、一重でも、二重でも使えるし、
たとえば将来娘ができたとき、組み替えて45㎝のネックレス2個にすることができます。
(連のネックレスを買いっぱなしの人は多いかもしれませんが、中に通っている糸は必ず経年劣化するので、3年に1度くらいは糸替えをしないと、突然切れることがあります。)
その時に2個のネックレスに分けてもらうのは、数千円でできることなのです。

そして、私のパールの特徴は、ナチュラルカラーだということ。
ナチュラルカラーという言葉は耳慣れないと思いますが、日本人女性ならたぶん誰もが知る日本のパールブランドで扱う商品は、まずすべてナチュラルカラーではなく、調色をしています。
貝から採れたばかりの真珠は、有機物を巻き込んでいたりして、シミやムラがあるのが普通です。それを取るため、まず漂白をします。
漂白をしても、自然が作り出す真珠の色の個性はものすごく広く、1つの連を作るためには、その色味を揃えないと連のネックレスとしてガチャガチャして美しくありません。そのために調色をします。

イメージとしては、漂白は、顔を洗うこと。
調色は、うすくピンク系の色を乗せますが、これで、エキゾチックに鼻が高かったり、目が大きすぎたりする子をちょっとならして、ほかの子と溶け込むようにする、というようなことができます。
逆にアイラインとノーズシャドウを入れて、のっぺりした顔の子を美しくする効果もあります。というか、調色では(ちょっと言い方がアレですが)“ならされる”子より、美しくなる子が数として圧倒的に多いから、するのです。
調色をファンデーションに例える人もいます。そして珠の傾向が揃うから、連が組みやすくなります。

だけど、もしエキゾチックな顔の子だけを調色せずに集めたら、それはもう美しい連ネックレスができるのではないか、と思いませんか?
それが無調色(=ナチュラルカラー)です。
ナチュラルカラーのいいパール連は、惚れ惚れする美しさです。

またナチュラルカラーの特徴は、経年劣化しにくいことです。
パールはダイヤと違って永遠に輝きを失わない、というものではありません。たんぱく質を含むので、どんなにお手入れしても段々と輝きが曇ってきて、全体に透明感が落ち、クリーム色っぽくなります。
母から娘に受け継ぐ、というのは可能ですが、祖母から孫に、は現実的に難しい、それがパールです。
ですが、ナチュラルカラーは調色より経年劣化しにくいと言われています。
漂白と調色は、パールの値段を左右する重要な技術なので、養殖場の中でも、社長と一握りの人間しか知らないと言われ、具体的な方法は、知ることができません。ただ、調色を施すと経年劣化が大きいことは、経験的に知られています。
ファンデーションは夕方にはヨレるけど、すっぴん美人は夜まで美人なのです。

感覚的には、すごーく革のいい、ステッチなんかも凝っている赤いランドセルを買った気分です。
オーソドックスで、間違いなくて、長く愛せて、品がいい。
長く愛せる、って高い買い物をするときのエクスキューズになりますよね?笑

初めのほうで、15万円のパールの連ネックレスを買わなかった理由をこのように書きました。

・パールをとくに必要と感じなかったから(冠婚葬祭もあまりまだなかったし)
・希少性(自然の偶然性でできた美しいもの)にお金を出す感覚がわからなかったから(人が生み出したアイデアや技術にお金を使いたい)
・モノの背景に共感できないと、高いお金は出したくないから(なんとなくパールが身近でなく、知らなかったから)

パールの仕事をすることになって、1は私にとっては理由でなくなりました。
2も、真珠は天然にできるものではなく養殖だし、漂白や調色など、じつはものすごくアイデアや技術の詰まったものなのです。(次の記事で、“連をつくる”技術の難しさについて書きたいと思います。)
3も、ナチュラルカラーというものを知って、ロマンを感じ、理由ではなくなりました。

だけど、1ってやっぱり多くの女性にとって根強いと思うのです。
パールは上品なファッションアイテムだな、とは思うけど、
15万円もするアコヤ真珠なら、1万円の淡水パールで十分だし、なんなら3000円のコットンパールやフェイクパールでも、デザインさえ良ければ充分おしゃれじゃん、という感じ。
私は、15万円あったら美味しいレストランに行きたいし、いろんな国に行ってみたかった。(今でもそう思う時もあります 笑)

日本国内ではパールの連ネックレスが売れなくなってきていると言います。

パールって、素敵だなと今は思います。自分たちが扱っているパールが、いいものだという自負も持てる。だけど、欲してない人に売りたくはないのです。

パールの連ネックレスを持っていますか?
持っている人はどんな時に身に着けますか?
パールネックレスを欲しいですか?

自分自身、パールの知識を増やしたいし、それをうまく伝えられるようになりたいし、
みんなの意見を聞いてみたい。
そんな気持ちで、パール屋さんのnoteをはじめました。
以後、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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