見出し画像

お前の死因にとびきりの恐怖を

新聞部OGへの聞き書き記録


──とまあ、ここまでが、
大体私の知っている情報で。

まず一つ目が、
現役の新聞部の子に聞いた話の内容と、
お蔵入りになったウェブ記事の文章データ。

彼も言ってたけど、新聞部が
ネット上でも記事を載せるようになって、
広報用のアカウントでOBOGのインスタも
いくつかフォローしてたから、
その流れで私のアカウントも
見つけたんでしょうね。

私も最初は懐かしいって思って、
その記事の写真とかを見させて
もらったりとか、ちょくちょく
追っていたんだけど。

ちょっと前に「学校のとある噂に
関する特集記事を出します」って
内容の告知投稿をしたときから、
久々にとても嫌な予感がして。

もし「あの噂」に関する
情報だったらどうしよう

まだあの噂が学校の中に
伝わっていたらどうしよう
、って。

結局その記事が表に出ることは
なかったわけだけど、
DM経由で色々話を聞いてみたら、
やっぱり予想通りでした。

いつの間にやらあの噂が、
今も「この学校に伝わる怪談」
として広まってて。

あの副部長の子──高松くんも
自分で言ってたけど、
学校って構造上ものすごく、
噂が広まっては定着しやすいんだなって私も改めて思った。

そこで彼が言及していたのと
恐らく同じ文章──つまり、
「きれいな本」の中で封印された
とされているのが、ふたつめの文章です。

そこに付随してる噂の内容も、
私たちの代で流れていた噂と、
ほとんど同じものだった。

元々あった紙をスキャニングした
みたいな感じに見えてたと思うけど、
実際ああいう風になってて。

ぐちゃぐちゃの紙が
新聞部の古い資料ファイルの中に、
唐突に挟み込まれてたのを
誰かが見つけたんだよ。

学級新聞が紙媒体だったころに
昔の新聞をまとめてアーカイブしてる、
色んな時期の紙がごちゃごちゃ入ったファイルの中に。

当然私たちも噂は知ってて、
それを新聞部として見つけようって
動きもなくはなかったの。

私も、独自に調べた情報は
又聞きで持ってたから。

──これは、私たちの代が
知ってる範囲内の情報なんだけどね。

噂では、その「きれいな本」の
小説を書いたのは、
私たちよりも先輩の代の、
ひとりの女の子だって言われてるの。

まあよくいる女子生徒っていうか、
少なくともあんな陰惨な小説とかを
書くような感じはまったくない生徒。

本が、というより物語が好きで、
ハッピーエンドが好きで、っていう。
確か帰宅部だった気がする。

なんだけど、その子が突然に、
冬ぐらいだったかな。
筆致も性格も何もかもがらっと変わって。

その子が学校にいたころ、
男の子がひとり自殺するって
事件があったらしいんだけど、
明らかにその人、つまり故人を……
ネタにしてる内容の小説を書いて、
色んなクラスにばらまいたんだって。

そこで実際にあの子が
書いたとされるのが、
あのスキャニングされた文章らしい。

周りも心配とかを数段飛び越して、
腫れ物に触るような感じに扱ってたらしくて。

周りから見たら全然関係ない
コミュニティにいて、
別に仲良かったってわけでは
なかったらしいから、
何でそんなことをしたのかは
全く分からないんだけど。

もうひとつ分かんないところがあって。

この文章が当時の文集に
掲載されたっていうのが
噂の主軸にあると思うんだけど、
そんな文集どこにもないんだよ。

この文章を書いたらしい女の子の
名前は──えーっと、
確かリオちゃんだったかな、
事件からの逆算で既に特定できてて。

そこはほぼ間違いないんだけど、
その子がいたころの文集とかを
どれだけ探しても、あの文章が
収録されてる雑誌は見つかんない
んだよ。

文字組みとかを見るに、
製本された何かのページだって
ことは判断できる。
つまり、例えば今の新聞部の子たちが
そうなったみたいに、
文章として掲載される前に
没になった原稿だってわけではないの。

確実に一度、あれは何かに印刷されてる。

勿論部誌以外の、
例えば他のコンペに出したやつとか、
他の学校の文芸部との合同誌とかの
アーカイブを調べてもみたけど、
そこにも例の文章は存在しなかった。

だから、彼らが「実際にそれが
収録された本を手に取った」っていう
話を聞いた時にはかなり驚いて。
すぐに色々とバックナンバーを漁ったんだけどね。

「夏号 平成二十九年刊行」の
文芸部誌なんて、そもそも存在しないんだよ。

「年に二回という方針変更が始まった
のは、ここ四~五年くらいの話である」
みたいなことをあの記事で
書かれてたの、覚えてる?

それまでは伝統的に年に一回、
卒業するときの集大成として
みんなでひとつの本を作りましょう、
っていうのがあの文芸部の
やり方だったらしくて。

それを方針転換して、
文化祭シーズンと卒業シーズンの
二回に分けて新作を出せるように
したのがここ四~五年くらいの話。

わかる? 平成二十九年にはまだ、
「夏号」なんて区切り方はできないんだよ。
だって季節で区切るまでもなく、
年に一回しか出ないんだから。

それを伝えたとき、
高松くんもきょとんとした表情になってて。

え、じゃあ僕たちが
読んだのって何なんですか?

って色んな本棚を
引っ繰り返してたんだけど、
結局何も見つからなくて。

そのときのぼうっとした表情が──
まるっきり、当時私たちがあの紙の
出処のことを色々調べてた時の、
同級生の顔と同じで。

うまく言えないけど、
それがすごく怖かった。

私たち、何を読まされてたのかな。


Next >> "CHAPTER3: REPLACE"

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?