「ふぞろいの林檎たち」

山田太一先生が亡くなりました。

2年前に熊本のSSW田中事件君が音頭を取りリリースされた、インディペンデントなコンピレーショーンブック「この変な世界図」に、「ふぞろいの林檎たち」に絡めてなんやかんや書いた「Peanuts Recordsより」という文章を寄稿しました。田中君に相談してそれを公開させてもらうことにしました。僕なんかが追悼するというのもおこがましいくらいですが、読んでいただけたら嬉しいです。

山田太一先生のご冥福をお祈りします。たくさんの素晴らしい作品をありがとうございました。


Peanuts recordsより 

ヒッピー世代よりは随分若い僕でも10代や20代前半のころはDon't trust over thirtyなんて言葉を信じて、大人はどうせ判ってくれない、と思っていました。飲みながら昔話をするおじさんに、心の中で「音楽のこと何もわかってないな」と悪態ついていたのも遠い昔、30歳なんてあっという間、気づくと4回目の年男を迎え、見事に若者からバカにされるおじさん側になりました。このところのレコードブームで(ブームというほどの儲けはありませんが・・・)、何度目かのお客さんの入れ替わりが起こっているようで、自分の子供でもおかしくないような歳の若者がちょこちょこ来店してくれます。何か尋ねられたらもちろん笑顔で答えますが、おじさんにいろいろ言われるのもイヤだろうな、とこちらからグイグイ話しかけないように気を付けています。

ずっと大好きなドラマに山田太一脚本の「ふぞろいの林檎たち」があります。仲手川良雄(中井貴一)をはじめとした個性的な登場人物の群像劇で、特に有名なのは落ちこぼれ大学生の青春を描くパート1と、一流とは言えない会社に入社してからの成長を描くパート2。パート1と2はそれまでに再放送でちょこちょこ見ていましたが、はじめてリアルタイムで視聴したのはパート3で、91年高2の冬。会社や家庭で問題を抱える30歳目前の林檎たちの姿を毎週楽しみにしていました。大学生になり一人暮らしをはじめてレンタルビデオ(配信はもちろん、まだDVDも登場していない時代です)で、パート1と2を通して見直しました。高校生の時のパート3は面白いドラマだ、くらいの調子で見ていましたが、とても一流とは言えない大学を卒業しても、輝かしい未来が待っているとは思えない自分の境遇と重なり、登場人物に感情移入しました。

97年に放送されたパート4ももちろん全てリアルタイムで視聴しました。30代半ばとなった主要登場人物に、メインで若い男女2人が加わって、それまでとはまた違った世代を越えた交流が描かれました。僕もまだ24歳だったので、若者2人に感情移入しながら見ていたのを覚えています。数年に一度パート1と2はDVDで見直すのですが、3と4はDVD化されておらず、4はメインの若者がTOKIOの長瀬智也だったこともあり、僕の知る限り一度の再放送もありません。どうしても内容が知りたくなり数年前にパート3と4のシナリオ集を手に入れました。20年越しでパート4のシナリオを読んで、リアルタイムで視聴した時と大きく印象が変わりました。

ひょんなことから若者2人と関わることになった仲手川ら昭和のふぞろい世代が、大きな問題を抱える2人に手を差しのべるのですが、昔の自分たちと似て上手く生きることのできない平成のふぞろい世代のことを純粋にほっておけないという気持ちと、大人にだって話しのわかるやつがいると思われたいという気持ちの揺れ動きが絶妙に表現されています。リアルタイム視聴時は平成のふぞろい側でしたが、今では昭和のふぞろい世代に深く感情移入してしまいます。若者に媚びを売りたいとか、Stone Rosesみたいに「憧れられたい」というわけではありませんが、せっかく来店してもらえるならオモロい店だと思われたい。スチャダラパーがSuchmosの歌詞をサンプリングしラップしたように、「オモロくないやつもうGood night」、と令和のふぞろい世代から言われたくはありません。98年のお笑い番組「いろもん」でイケイケのダウンタウンにいじられた笑福亭鶴瓶の返しの「もっとオモロくなりたい!」という言葉を心の中で叫びながら、ふぞろいの林檎たちのように奮闘する日々です。

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