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    曲を題材にした文章たち

最近の記事

衝動的一二〇分間

昔から衝動的に本を買うことが多い。漫画でも小説でも、その衝動の理由はいつも同じで「なにか新しいものを自分の中に取り込みたいから」である。その「なにか新しいもの」を表現するには複雑で、あまり一言で言いたくはないけれど、強いて言うなら「ときめき」に近い。若い女の子がなんの意味もなく口にする「ああ、恋人がほしい」という感情に似ている。 わたしは手っ取り早く本屋や通販でそれを手に入れようとするけれど、手に入れた途端にそれだけで満足してしまいがちで、いわゆる「積み本」がどんどん増えてい

    • 音楽はいつでもこの胸の中

      音楽に心を揺さぶられるたびに、もし音楽に出会わなかったらどうなっていたのだろう、と、とても恐ろしくなる。 人生で初めて音楽で衝撃を受けたのは、当時小学4年生で出会ったポルノグラフィティの「BLUE’S」盤に収録されていた「オレ、天使」だった。ハルイチの独特な世界観と脳天に突き刺すようなシラタマの曲、それを調和させるアキヒトの声に夢中になった。 そこから中学生までは四六時中ポルノのことしか考えていなかった。図工の授業ではTHUMPχのジャケットを描いて、担任に精神状態を心配さ

      • 自分が境界性人格障害であると自覚した夜

        ひたすらに愛のないセックスを繰り返してきた。それは時に快楽を得るためだけのものでもあるし、時に相手を繋ぎ止めておくための手段でもある。わたしにとってセックスをする意味はころころ変わるけれど、一番大きいのは「自分が生きている実感を得るため」であり、言わば自傷行為だった。 高校生の頃は誰かに愛されたいがために、ひたすらに身体を重ねた。自分は空っぽな人間なのだから、相手が求めることすべてに応えていれば相手はわたしを見てくれる、そう信じていた。 そうは言ってもいわゆるヤリ目しかいな

        • 毒入り果実を食べた女

          物語が足りない人生を送ってきていたと、ようやく気付いた。 あれだけ好きだった34歳の彼への恋心はあっけなく雨の空に砕け散って、わたしは今、自分でも思ってもいなかった人生を送っている。 「寂しさ」ではなく「興味本位」から始まる人間関係もあるのだと、暑さに耐えかねて新居で初めて冷房をつけた日の夜、高校生の頃好きだったART-SCHOOLを聴きながら思った。 これまではただ、寂しさを打ち消すためだけに温もりを求めていた。友達だろうが彼氏だろうが、そこそこに優しくて、わたしのことを

        衝動的一二〇分間

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          2本

        記事

          世界の終わりにきみの隣にいたかった

          頭の中でジムノペディ第1番が鳴りやまない。 2月、腰より少し上くらいまで伸びた髪を、好きだった人のために肩の長さまで切った。一昨日、好きだった人への想いと決別するために、完全なショートヘアにした。 もともとショートヘアが似合うと言われていたので、周囲からとても好評で嬉しかった。 けれど好きだった人への想いは今でも眩しいくらいに煌めいている。 彼と過ごした時間でいちばん好きだったのは、一緒にダブルベッドで眠っている夜だった。 骨ばった彼の身体は寝心地がいいとは言えないから、

          世界の終わりにきみの隣にいたかった

          大好きだったあなたへ

          よく晴れた日曜の朝、2月から始まったわたしの恋は幕を閉じました。 彼と重大な何かがあったわけではありません。ただ5年間付き合った元彼といろいろな積み重ねがあった末に別れたように、彼から素っ気なくされることが度重なり、あることがきっかけで彼への気持ちがすっと薄れるのを感じました。 「この人のことが大嫌いだ」となる恋の結末のほうがよほど楽で、今回のように「これ以上好きでいたらきっと彼のことを嫌いになってしまうから諦めなければいけない」と気付いてしまう結末は、とても苦しいです。 い

          大好きだったあなたへ

          麗しいご加護があるように

          ひとり暮らしを始めて一週間が経った。 最初は寂しさで圧し潰されそうになって、あんなに後悔しないと決めていたのに、なにか間違えたのかな、と毎晩泣いた。新居で初めて食べたご飯は、涙でしょっぱくなったふりかけごはんだった。 けれど人間不思議なもので、どんな状況でもいつかは「慣れ」がやってくる。 人の声を聞きたければテレビをつければ良い。不安なニュースで疲れたなら、ネット配信でばかみたいな番組を観れば一人でゲラゲラ笑うことができる。話し相手がいなくて寂しい夜もあるけれど、眠る前に間接

          麗しいご加護があるように

          あゝなんてつまらない日々

          こんなにも空は晴れ渡っているのに、仕事も家族との関係もうまくいかなくて、ただひたすらに好きな人の声が聞きたくなる。 コロナとかオリンピック延期とかめんどうなことを一切なにも考えずに(普段からたいして考えてはいないけれど)、とにかく青くて広い空のもと、お酒を飲みながら過ごしたい。場所はそうだ、1歳の頃に行ったけれど全然記憶にない沖縄がいい。 わたしがもしも男で、ひとりを養えるぶんのお金とそれを実行できる勇気さえあれば、好きな人を攫ってしまいたかった。 そんな妄想をしながら、引越

          あゝなんてつまらない日々

          恋とは滑稽なものである

          人間だれしも最期は一人だし、さみしいという感情さえなければ良いのになあ、とつくづく思う。 以下、一度もちゃんとした告白をしていないのに、すでに3度も友達宣言をされた好きな人のために努力したこと。 ・好きな人の好みに合わせようと、5年間伸ばし続けていたロングヘアをばっさりカット ・見せるわけでもないのに6000円の下着を購入 ・こういう機会でもないと一生着ないだろうと決心し、15000円のジェラートピケを購入 ・20000円の資生堂メイクアップレッスンに応募(来週受講する予

          恋とは滑稽なものである

          あいのかたち

          3月の平日休み、天気は快晴。土日は混んでいて入れないお気に入りのカフェにご飯を食べに行く。 去年新調したばかりの黒のライダースジャケットと、高校生のときアベフトシに憧れるあまり親に強請って買ってもらった10ホールのドクターマーチンを履いたわたしは、世界でいちばん無敵だった。 いままでは「わたしがしたい格好をすればいい、相手がどう思うかなんて知らない」がわたしのモットーだった。 それなのに、5年間かけて腰より少し上まで伸びた、かつてだいすきだった人とお揃いのグラデーションがか

          あいのかたち

          ワインを飲めるようになったのは21歳、ギネスを飲めるようになったのは25歳、恋の苦みに慣れる日もいつかやってくる

          ワインを飲めるようになったのは21歳、ギネスを飲めるようになったのは25歳、恋の苦みに慣れる日もいつかやってくる

          しんじるものに救われる

          唐突に、世の中のぜんぶが嫌になることがある。 わたしは相変わらず抗うつ剤を飲んでいて、世界が光り輝いて見えるときと、澱んで見えるときのどちらかしかない。病名は「うつ状態」なのではっきりと診断されたわけではないけれど、躁鬱に似ている症状だ。 嫌になったときは、薬を飲んでとにかく眠る。不安を煽るようなニュースを一切遮断する。家の中の陽が当たる場所、布団の中、どこでもいいから、自分の好きな場所で好きなものだけを摂取する。 やはりわたしを救ってくれるのは、音楽や本だけだと思った。

          しんじるものに救われる

          あのころのわたしへ

          17歳のわたしへ。 昔から学校に馴染めず、ようやく親友と呼べる人ができたのに、あなたは今居場所を失くしているかと思います。 周りの男子もバカなやつばかりだし、小中学生のときと変わらず、本ばかり読んでいるでしょう。 けれど来年、あなたの居場所は取り戻されて、親友ともまた元通りの仲良しになれます。 今はあまり会えなくなってしまったけれど、人生で一番大切な親友です。 そして、クラス替えをしたばかりの4月、どうしようもなく好きな人が現れます。 彼との恋は切ない結末だけれど、9年経った

          あのころのわたしへ

          science girl

          人間のマイナス的思考の起因はすべてさみしさだ、と、理科室の机に腰掛けながらアオイは思う。 さみしいから好きじゃないけど付き合ってみた、さみしかったから浮気をした、わたしをさみしくさせたあなたが悪い。 「ばっかみたい」 脚の間に箒を挟んで、その上に頬をつきながら毒づいてみる。だれに言ったわけでもない。ただの独り言だったのに、にやにやとした声が後ろから返事をする。 「堂々と掃除さぼっといて、何がばかみたいだって?」 心臓が跳ねる。いきなり声をかけられて驚いたせい、アオイは

          science girl

          春に想う

          春は魔の季節だ。 人々はやけに恋をするし、いきものは子孫繁栄を求めるし、なにかを無性に始めたくなる。日常を変えたくなる。 昔は春がだいきらいだった。友達はろくにいなかったけれど、環境の変化を恐れて、クラス替えまでの日数を数えながら憂うつになっていた。気の毒な学生時代だ。 それなのにいま、こうして変化を求めているのは、そのおよそ14年間で刷り込まれた学生時代のせいなのだろうか。あんなに変わることを恐れていたのに、なんだか悔しい。 5年間住んだ千葉から都内某所への引越しまで、1

          春に想う

          春のどこか浮ついた感じ、夏の何もなくてもどこか感じる楽しさ、それらが収束して落ち着いた秋、終わりではなく新しい何かの訪れを感じる冬、どれもすべて大切にしたい

          春のどこか浮ついた感じ、夏の何もなくてもどこか感じる楽しさ、それらが収束して落ち着いた秋、終わりではなく新しい何かの訪れを感じる冬、どれもすべて大切にしたい