がん患者の恋する権利問題

バーカウンターでお土産に渡した明太子の小瓶を見ながら彼は言った。
「これ日本酒が合いそうだから、これで一緒に日本酒飲まない?」
鈍感なわたしはそれが「色っぽいお誘い」であることを理解するのに1~2分ほど要した。
そして「色っぽい返し」ができないのが私である。
「えーと、それってお家にいくってことですか?」
「そうだよ」
「おうちに行くって言うことはつまり、そういうことですか」
「そうだね」
今考えても、中学生でももう少しまともな返しができるだろう。

素敵だと思っていた人なのでうれしくないわけではない。
いや、むしろ女性としてみてくれるのはうれしい。
行きたいか行きたくないか。本能的に言えば行きたい。

でも行った後の不安、その後思い通りの展開にならない場合の涙、さすがにアラフォーともなれば知っている。

そして彼はもともと友達で人間的にも好きな人だ。尊敬もしている。
人間的な好き→憎しみになるほど愚かなことはない。

「悪い男」がいるのではなく「悪くさせる自分」がいるだけだというのは過去の経験に学んでいる。

上記のことをふまえて今日はいけないということを伝えた。
3つセットの小瓶を見つめ「じゃあ一個はいつか来てくれたときのためにとっておくね」
とタクシーまで送ってくれた。
紳士である。

自分が感情的な責任を持てないというところからお断りしたけど、不安要素はほかにもいくつかある。

なにせ大病人である。
まつげも髪の毛もない。(イチロー選手くらいまで生えてきているが)
まつ毛はないまま過ごしているがもともと目は大きめなのでなんとかなっているけど
髪の毛はウイッグをしているが、取った姿は見せられない。
「ふつうにみえるけど一皮はげば大変な人」というのはソレが物語っている。
彼はもちろん病気のことを知っている。
頭の整理ができているひとだと踏まえてわりと早い段階で教えた一人だ。

髪の毛はあと数か月もたてば生えてくるけど、その次は「オペでおっぱいを失うかもしれない」問題もある。

彼に何も隠さずきれいな姿を見てもらえる日はおそらく来ない。

病気を差別しないひと、病気の大変さにパニくらないキャパがある人、と言うのはいるけれど、そもそもそんな大変なことに巻き込むこと自体がむりがあるということなのかもしれない。

表面的には普通の女性でも、一皮むけば遊びでも本気でも普通の状態での恋愛とはいろいろ違う。

もっと若い子だと「妊娠ができない」という問題とも向き合うことになる。

女性性の病とはやはりいろいろ辛いなあ。

でも久しぶりにアイデンティティが「病人」→「女性」へとシフトできたのは良かった。

そして彼は「非常に人間ができている」のか「単に気にしていない」のか「無差別テロ」なのかは分からない。

けれど「病人だから」といたわられるより、「容赦なく」女性としてみてくるのはありがとう。という感じだね。

そして楽しく笑って生きていってほしいね。

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