能狂言『鬼滅の刃』を鑑賞して

2022/07/31  11:30~13:35 @観世能楽堂(GINZA6)

 まず、パンフレット。これが素晴らしい。2,500円もする、高いなあと思ったけれど、この内容ならば納得。能狂言の基礎知識がコンパクトにまとまっている上、原案台本が全部掲載されているので、これは永久保存版ですね!
 続いて全体の構成。概ね本式の能狂言の形式に則って進行します。猿之助のスーパー歌舞伎と同様にスピード感とストーリーの分かりやすさを大事にしており、鬼滅の刃を知らない人(うちの夫など)が見てもきちんと筋を追えるように工夫されています。所々、笑いもちりばめて、飽きさせない気配りもありました。
 次に配役。主役炭治郎役の大槻裕一をはじめ、野村裕基、野村太一郎ら、若手を中心に据え、大槻文蔵や野村萬斎が脇を固める形。これが大変効果的でした。冒頭、萬斎の無惨さまが出てくると、ピーンと空気が張りつめて、一気に物語世界に引き込まれます。続くヒノカミ神楽、この場面の炭十郎(これも萬斎!)のキレッキレな動きには、見惚れました! 一方、若手による立ち回りは伸び伸びとして娯楽性があります。ワキ方の福王和登が務める義勇が、要所々々で舞台を引き締めていました。
 最後に大道具、小道具について。禰豆子の面が素晴らしかった! 少女の可憐さと鬼になった悲しみの表現として、能面がこれほど効果を上げるとは思いませんでした。他にも蜘蛛の糸など能楽特有の仕掛けを巧みに織り交ぜ、観客の想像力を刺激していました。
 総合的に見て、非常にバランスが良く仕上がっており、新作能の中でも出色の出来ではないでしょうか。もし配信やDVDリリースが今後あれば、ぜひ一度鑑賞することをお勧めします!

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