見出し画像

歩く叙述トリック、あと、ふくふくのホットケーキとレモンスカッシュ

焼き色がキレイ。南草津フェリエ内の珈琲館で、何十年ぶりかで飲むレモンスカッシュと一緒に。

ここまでは良かった。
実は今日の任務は別にあって、地区の何とか会のおば様たちの中に放り込まれて街をパトロール。とはいえ別に誰かが権限を持っているわけではないので、見守り運動に近い。
問題は、「R大学の学生ボランティアの方です」と紹介されてしまったこと、そして夜間の見回りだったこと。いくら何でも真っ昼間なら誤魔化せなかったと思うが、なまじっか周りが暗いので、どうもリアルストレート大学生と思われていたらしい。
いや、でもさすがに、自分は一応年齢の一割程度は若く見られていると思うが、それだけ引いてもきっちり40代だ。夜目遠目笠のうち+マスク効果だと解釈しても、30代より下に見えるとは思えない。もしかしたら「あの子実は結構年齢いってるよね」と後でひそひそされていた可能性もあるが、でもとりあえず一緒に歩いている間、おば様方は大変にフレンドリーだったのが余計心苦しい。
「一人暮らしなの?まあ北海道から?それは大変」
申し訳ないです、初めての一人暮らしではないんです…
「ここの道は暗いから、女の子には危ないわよね」
20年前にはもう経産婦と呼ばれていた元女の子を気遣ってくれてほんとすいません…
「就職活動とかしているの?」
ええ、まあ、大学院なども考えていまして(これは本当)

何か、オークの群れの中で極秘業務を行っているエルフ……それはあまりに美化しすぎというかおば様ズに失礼か、潜伏任務中の黄昏のような……これもちょっと綺麗すぎるか、とにかくものすごく正体を隠している感が強くて、こんなにいたたまれない気分に陥ったのは去年の春、音量をオフにするのを忘れてスマホゲームを立ち上げ、バスの中で携帯が「すてーしょんめもりぃぃぃず!」と鳴り響いた時以来かもしれない。

途中煌々と輝くゲーセンに入った時は「私に光を当てるなぁ」とどこかで吸血鬼が言いそうなセリフが頭をよぎり、鏡の前を通り過ぎる度に少しでも色々隠せるよう前髪を下ろしマスクを直し、背はちぢ込めて手は前の方で組む事で見る人が見れば絶対わかる中年体型を隠蔽。

おば様ズが気を使って振ってくれる大学の話題を、(今晩のおかずとか、亭主のグチとか更年期障害についてとかの方が絶対語り合える気がするのに本当に本当にすいません)と思いながら、いつもより3トーンは高い声で返事をする。

別に嘘はついていない。だから向こうの先入観と言ってしまえばそれまで、つまり超強力な叙述トリックなんだけど、何だろうこの強烈な後ろめたさは。大学では学生ってことはもう隠しようがないので、却って堂々と振る舞えたんだな。でも、赤の他人に自分の状況を話せないのは私がヘタレというだけではない、と、思う。価値観が1ミリもわからない状態の相手に色々と曝け出すのはやはり怖すぎる。ましてや推定50代↑の方々だ。思考の多様性をお持ちだという保証はどこにある? 世の中には豹変する中年女性というものが存在し、それが如何に恐ろしいものかは、半世紀近く生きてきた(そして自分もその属性を持つ)だけによく知っている。まだここでNoterさんたちに語っている方が、少なくとも多くの人がプロフを見て読んでくれている分、楽だってもんだ。私は入学前に夫に「歩くダイバーシティ」と呼ばれていたのだが、「歩く叙述トリック」に変えようかな……

そんなことを考えつつマスクの下の顔が愛想笑いですっかり固まった頃、ようやく解散になったのだけど、おば様ズの1人の車で自宅そばまで送っていただく羽目に。……徒歩五分圏内の近所にお住まいでした。今後会う可能性、非常に高し。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?