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暑さとの共存

自転車、ランニング共にこれまでの旅の大半は季節で言うと夏。

真夏の酷暑を走る中で、何度も意識朦朧となり、何度もやめたいという気持ちにもさせられた。

日本国内では2010年、最初の日本縦断ランニングの旅。38度の国道8号線、北海道から南下して福井市内に入るあたり。

トンネルが曲者。暑さで多少は涼しく感じられるものの、騒音と排気ガスと歩道のないトンネルはある意味ストレスと恐怖が蔓延するところ。

経験した最高気温はアメリカカンザス州キングマンでの47.7度。

2011年のアメリカ横断ランニングの旅、乾いた空気の中での40度超えは確かに暑いし、その暑さが熱さに変わり皮膚を刺激する痛みにも変わり得る。

熱された鉄板の上のお好み焼きが感じる熱さとも似ているのではないかと思わされた。足元が特に暑い。しかし、木陰に入ると風は爽やか。

日本の高温多湿の暑さは、蒸籠(蒸し器)の中の肉まんや焼売が感じる暑さ…熱された空気が肌にまとわりつき、汗が皮膚呼吸を妨げるのだ。個人的に思うのは、湿度の高さが走るには最も妨げになるということ。

それでも、旅を続ける限りは走るのをやめる訳にはいかない。

2010年の一度目の日本縦断では霧吹きを持参。暑くなってきたら身体中に霧を吹きかける。水で直接濡らすよりも冷感=心地よさを感じるので試してみて欲しい。

紫外線の強い砂漠では下手に皮膚を露出すると体力を消耗する。アームカバーを腕につけたり、フリルネックという日除けとなるカーテンがついたような帽子を被ったりして、太陽光線が直接当たらないようにしていた。サンローションは汗で流れるので使わない。変な薬剤が入っていると体にとって逆にマイナスともなり得る。

シューズで走っていても、足の裏から熱が伝わる砂漠の45度超え。実際に砂漠のハイウェイではアスファルトが溶けて柔らかくなっているのを目撃した。

自動車の黒いタイヤ跡が残っているのも…。タイヤもまた摩擦熱と道路の高温で溶けかけていたのだろう。

砂漠では夕方でも気温が高い。一度大地が熱されるとしばらく保温されるということか。太陽が沈むまでは高温は続く。テントで野宿する際に、夕方5時ごろテントを張ってテント内の気温を見ると45度。外気温よりも5度ほど高くなる。

当然暑くて入れないので日が沈むまで外で待機するも外も同じように暑い。テントに敷くアルミのシートを頭に乗せて日影を作り、そこで涼むのだ。

日が沈んでもテントの中は暑く、寝る際にはパンツ一丁で濡れたタオルを上半身に乗せて寝る。これが意外にも快適。団扇で扇ぎながら寝るけれど扇ぐのをやめたら暑くなってまた眠れない。その繰り返し。

しかし、明け方になると服を着て寝袋に入らないと眠れない。気温が25度まで下がってしまっているのだ。日本で25度というとやはりエアコンに慣れた体には暑いのかもしれないが、45度から20度も下がるというのは20度から0度に下がるのと同じ。砂漠の渇いた空気の中では気温差が20度というのは珍しくない。

暑さの中ではボトルに入れた水もお湯になる。クーラーボックスでも持っていればいいのだけれど、僕が持参していたのは折りたたみの小さなクーラーバッグ。買っておいたビールやドリンクなどをわずかの時間でも冷たいまま保存できるのはありがたかった。

冷蔵庫などが使えない状態で、少しでも冷たいものを飲みたければ、それなりに知恵と工夫を凝らさなければならない。

アルミのコップに水を入れ、濡れタオルでコップを包む。そして団扇で風を送る。ひたすら必死に団扇で扇ぐのだ。

20分ほど煽ぎ続けると水は冷たくなっている。その昔、理科の授業で学んだ「気化熱」の原理。水が蒸発する際に熱が奪われるというアレだ。

ただ、団扇で扇いでいる間、体力を使い続ける。それで汗をかく。まあ仕方のないことだけど(笑)。

水も決して一気飲みしない。喉をゴクゴクいわせて一気飲みするのは最高な気分かも知れないけれど、熱波の砂漠では不可能だ。運べる水の量に限りがある。

街や店が200キロない空白区間はオーストラリアのナラボー平原で経験。

1日50キロ走るとして3日間は野宿。4日目にロードハウス(道の駅のような施設)があるので水や食料は手に入れられる。

その200キロのスタート前日に約25リットルの水を購入。砂漠地帯なので水も安くはない。1リットルで200円程度。普通に買ったらその半分か3分の1の価格。量を買えば買うほど安くなるので10リットルのタンク2つと5リットルのタンク1つをバギーに積んだ。

他にも食料や生活道具一式などが推定45〜50キロくらいは積んでいたので、水を載せると実質70キロはあったかと思われる。

そんなバギーを押して走るという酔狂なことをやっていたのだから。

ただでさえ重い荷物を積んだバギーを押して走るのは大変。しかもそこに暑さや渇きが加わり、しかも人とも会うことのない、荒涼とした砂漠の僻地を黙々と淡々と走り続けるのだ。

旅の間、携帯できるエアコンと冷蔵庫があればいいな…と何度も思わされた。

しかし、どんな状況でも対応できる頭と体こそが実は大切なのだということも学ばされた。

ないならないで済ませる。あるもので間に合わせる。あるものは誰かとシェアする。

そういった教えを会得できたのも不便や不都合の中に常に身を置いていたからだろう。

暑さは人を成長させる。暑さは人にいろんなことを教えてくれる。

エアコンの効いた涼しい部屋でぼーっとしているだけでは得ることもない貴重な教えや学びがそこにはある。

*アドヴェンチャー・ランナー高繁勝彦のメルマガ「週刊PEACE RUN(第486号)〜♪ シリーズ PEACE RUN~人・町・風景」から(11部加筆&リライト)

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