明かりを発する。

発明は光である。
読んで字のごとくである。しかし、その光が強ければ強いほど影の部分も色濃くなる。刃物しかりダイナマイトしかり爆撃機しかり。
すなわち発明は影でもある。

フランスで「rebot」が発明された時、世界中で話題騒然となった。これは光なのか影なのか、さまざまな人々が、さまざまな意見をネットやテレビやラジオで述べた。

rebotは、人体整形装置だった。
医師の立ち会いのもと、技師がクライエントの体の情報を入力し、任意の数値や情報を入力する。クライエントがrebotに入る。

すると、豊胸だろうが、脂肪吸引だろうが高身長化だろうが、二重まぶただろうが、美白だろうが、あらゆる整形手術が短時間で一度に行うことが出来た。

rebotは、要するに、なりたい自分になれる装置なのだ。

最初、人々はrebotに対して猜疑的で否定的だった。副作用があるんじゃないか、機械だから失敗があるんじゃないか。
rebotを知ってはいるけれど、利用する人は当初少なかった。

しかし、ハリウッド女優が使用した。
すると、セレブ達が使用した。
ユーチューバー達が使用した。
インフルエンサー達が使用した。

半年ほどで、世界の世論は一転する。

「もう、昨日の私じゃない。」
「なりたい自分へ。」
「一度の人生、アソビ尽くせ!」

さまざまなキャッチコピーで、雑誌や新聞やネットの広告が世に放たれた。

その後、さまざまな類似製品も販売される。韓国製、日本製、ドイツ製のものは、フランスのrebotの性能を超えていた。どの装置も正式名称はあったものの、人々は結局rebotと呼んだ。

さまざまな装置が出現することで、数万円でrebotすることが出来るようになる。
辞書には、名詞と動詞として、“rebot”の文字が載った。


人々は老若男女問わず、服を着替えるようにrebotするようになった。すると、不思議な減少が起こり始める。

男女のなりたい顔ランキングが雑誌やネットで公開される。すると、町中にランキング上位の顔が溢れるのだ。

世界中でその現象は起こった。新しい映画が封切りになる度に、世界中で主演男優や主演女優のと同じ顔の人間が現れた。

この現象は、雨が降ったあとにマッシュルームが大量に生えることになぞらえて、アメリカでは「マッシュルーム現象」と呼ばれるようになった。

ニュースも最初は、ただの社会現象としてとりあげた。けれど、この現象はただの社会現象レベルでは収まらなかった。



事の発端は、アメリカの有名映画俳優の顔にrebotしたとある中国拳法習得者が、映画会社に出演交渉したことだ。

「俺の方がうまくアクションも出来るし、うまく喋れる、俺で映画を撮らないか」

と言うのだ。
無名だからギャラも安く、スタントも要らず、そしてなおかつ演技力もあり、英語のアクセントも鼻につかなかった。

映画会社はその日のうちに無名の彼と契約。数週間後映画を撮り始めた。

映画が封切りになる。
話題性もあり、ネットでの視聴が映画界過去最高の記録を作り、無名の役者が何十億という興行収入を叩き出した。オリジナルの俳優よりもアクションがリアルで凄い、という意見が目立った。

これに猛反発したのは、オリジナルの顔を持つその映画俳優。
著作権侵害だとして、裁判に発展。
論点は、著作権という部分。

しかし、顔が瓜二つの人間は世界中にたくさん存在する。それだけで著作権の侵害だというのであれば、オリジナルも誰かの著作権を侵害していることになる。

そして、本人がオリジナルを完全に真似て、あなたの財産を侵害するために映画撮影をしました、と自白しない限りは、ただの表現の自由となる。

よって、この裁判はオリジナルの敗訴となった。

この裁判によって、世界中で、自分の技能と誰かの顔を掛け合わせた人々が、さまざまな映画やテレビに出演した。



昔、オランダの貴族達が、珍しい色や形のチューリップを集め、それを貴族同士で見せびらかしあっていた。

そのうち、珍しいチューリップは、貴族に高値で売れるようになった。最高での買取金額は、熟練職人の十年分の年収。

オランダのたくさんの人々が本業そっちのけで、一斉にチューリップの栽培を始めた。

球根を大量に買い込み、開花させ、売る。これだけで本業よりも儲かった。するとさらに球根を買い込む。売れる。さらに買い込む。売れる。さらに買い込む。

しかし、ある日突然、事件が起こる。

貴族たちは、チューリップに興味を失ったのだ。

するとその日から、一つの球根も売れなくなった。

人々は大量の球根を抱え、路頭に迷った。

この現象は、世界で初めてのバブル。
チューリップバブルと呼ばれる。





世界各国の人々が有名人たちのオリジナルを真似る。そしてその顔が流行の最先端を越え、飽和状態になると、古いダサい格好悪い、と言われるようになった。
その矛先はオリジナルにも向いた。
オリジナルは仕事が激減し、なぜか誹謗中傷を受け、オリジナルであるのにも関わらず、顔を変えるものが現れ、さらには、命を絶つ者までが現れた。
韓国では、この現象の事を
「顔バブル殺人」と呼んだ。


自分が姿を変えることで、誰かを傷つけ、命を奪うことになる。有名人の顔をすることは、殺人の片棒を担ぐかのような風潮が世界中で生まれた。


「私を誰にも渡さない。」

という化粧品のキャッチコピーが出た。
その化粧品会社は、
誰かを真似るのではなく、自分の良さを輝かせることの方が価値があるというブームを作った。

流行を追うのではなく、それぞれが己の流行を作る。真似をすることは自分の頭で何も考えていない、時代遅れの行為である。と、暗に語った。
そんな風潮の中、徐々に人々は姿を変えることをやめていった。


ただし、rebotは大火傷を負って人前に出たくないと悲しむ少女など、様々な人の光になった。
やはり、発明は、光であり、影なのだ。







はたしてこの作品が「小説」なのかわかんないけど!

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