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各音楽の出会いと深化 ~Prog Rock編

私はプログレッシヴ・ロックが好きです。無論、多くの音楽ジャンルの中の好きな一つではあるんだけど、HR/HMの次に自覚的に入れ込んだこともあって、思い入れは相当に深いと思います。

きっかけは、FMラジオでした。昨今のラジオ事情を鑑みると、著作権的なこともあるし、サブスクの発達も相まって、クラシック・ロックを流す番組はなかなか無いのが現実です。
ですが、80年代は流行りの洋楽が主体ではあっても、70年代のロックやフォーク、60年代のロカビリーやR&B、ドーワップ、イージーリスニング、映画音楽等をかける番組がいくばくかありました。

そして、ハードロック好きならば、70年代のその手のものを扱う番組をエアチェックしていくことになります。パープル、ゼッペリン、ヒープ、UFO、ジミヘン、クリーム、フリー…なんかを必死にテープに収めてたんですな。そして、この系統とやたら一緒に取り上げられる、ハードでないが複雑でやたらテクニカルな感じの音楽形態がありました(実際クリムゾンやELPはそれなりハードだから、“ハードロックでない”が正しいか)。

それが、俗にいう英5大プログレを中心とした一派だったわけですね。たまにムーディーズやキャメル、ルネッサンス、VDGGあたりもとりあげられてた気もしますが、記憶はあいまいです。

そこまでなら、単なるブリティッシュ・ロック好きですが、ここですぐその手の雑誌を買って探求しだすのが私の性(さが)です。いまでこそ「EURO-ROCK PRESS」というありがたい媒体がありますが、当時あったのは(音響系でもアイドル系でもない)、薄っぺらい自費出版みたいで一般流通していない謎小冊子といった感じの「MARQUEE」誌。ここから沼にハマっていくわけです。

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さてここで、この頃…1986~88年の英プログレ事情を振り返ってみましょう。クリムゾンはお休み中です。イエス、ジェネシスは過去と違う音楽性となり、プログレッシヴ・ロック的にいいか悪いかは置いておいて大ヒット継続中、ELPはPがコージー・パウエルになるという大転換、そしてピンク・フロイドはいよいよ再編か?…という感じだったでしょうか。
しかしながら、エイジア、GTRといった五大バンド関係を含め、基本的にかつての大仰で芝居掛かった展開とは違う方向を模索していた印象です。
大型新人もなかなか出てきません。マリリオンやマグナム、FMあたりは健闘しますが、ムーヴメントと呼べるほどの復権には程遠かったかゆえの“ポンプ・ロック”の呼称でしょう。
結局のところ、ベテランからポンプ勢までが、ある程度ポップに寄りかかった展開を求められていたことが、なんとなくうかがえます。

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そこで当時の「MARQUEE」誌がやっていたこと、これに度肝を抜かれました。もう、今のプログレに希望はないと言わんばかりに、かつての音像の遺産を世界中で探しまくる…という考古学みたいな紙面展開をしていたのです(一応、国内ナウシーンは力を入れてたけど、ヴィエナやフロマージュを含めたその話はまた今度)。
つまるところ、読者が聴きようのない希少盤や僻地のものばかり紹介して、幻想ばっかり膨らむ…お金のない中学生には生殺しというか凄い雑誌でした。
もう、プログレの啓蒙以前に、マニアしか相手にしてないような内向きな編集方針は、実際当時も賛否両論であったように思います。これは、キングレコードがかつて仕掛けたユーロピアン・ロック・コレクションが成功したという、下地があったのも大きかった思います。このシリーズは70年代後期にイタリアやフランス、ドイツなどを中心として、埋もれたプログレ遺産をリイシューしていた企画で、アトールやニュー・トロルス、オザンナ、ゴブリン、アレア等の名をその筋の方々に根付かせました。

ちなみに、この手のバンドで私が一番好きなのは、イタリアのPFM(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)というバンドで、ELPと関連の深いマンティコア・レコードからデビューし、国際的に活動し、75年には来日もしています。

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そして、87年の秋ぐらいだったでしょうか、ユーロピアン・ロック・コレクションが、CDとして新たなシリーズとして再編されるということで、レコード店にチラシが置いてあり興味を持ったのです。
とはいえ、当時の高校生がそうしたバンド名を知っているわけがありません。チラシの筆頭にはPFMの名があり、頭に入れてはおいたのですが、それと前後してギターマガジンでフランコ・ムッシーダの特集が組まれていたので、まずはこのバンド聴いてみよう!と思ったわけです。

で、たまに行く名古屋のHR/HM系のレコード店でプログレの扱いも多かったようなので、場違いな質問かもしれないと思いつつ、思い切って“初心者向けのプログレのお薦め“を聞いたら、「PFM」との答えをいただきました。ここで、運命に導かれるがごとく、まだ店内に在庫のあった国内盤LP『Photos of Ghosts(幻の映像)』(’73)を、衝動買いしてしまったのです。

ところが、一聴して驚きました。異様な演奏力は素人目にもありあまり、儚く美しく力強い旋律、展開。難波弘之氏がオールタイムベストと言うのも頷ける凄まじい傑作です。
とりま、一曲目「River of Life(人生は川のようなもの)」を聴いてみてください。
こ、このイントロよ。一滴の水滴が、やがては大河になるがごとくの各楽器の畳みかけ…これがインギ―やレインボーが大好きなHR少年に、そしてネオ・クラシカルや様式美に魅せられた厨房にこれがこないわけがない(かも)!
人生が変わる一瞬ですねw

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で、次に何を買っといいますと、ニュー・トロルスの『Concerto Grosso PerⅠ(コンチェルト・グロッソ)』でありました。またとんでもないものに手を出しちゃったな。
まずは、再発も含めた各時代の解説を見てください。

「ヨーロッパロック史上、いやロック史上にこれほど美しい旋律をかなえるグループがあっただろうか」
たかみひろし
「生涯消えぬであろうこの美しい感動をニュー・トロルスに捧げる」
伊藤政則
「この感動と衝撃をいったい誰に伝えればいいのだろう?」
祖父尼淳

一連のこれは、基本オーケストラとの共演によるLPのA面「コンチェルト・グロッソ」のことを指していると思います。このサイドは映画のサントラでもあり、バンドの友人でもあった映画音楽家ルイス・エンリケ・バカロフが協力して仕上げています。

このドラマチックな展開…カメリア・ダイヤモンドのテレビCMと使われたというから、それなりのインパクトをもって人々に伝わったことでありましょう。

ちなみにB面にあたる大曲「Nella Sala Vuota(空間の中から)」はジャズ的インプロヴィゼーションなので、最初は拍子抜けしますが、やがては、その異常な演奏力を伴ってスルメのように味が出てきます。

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…そんなわけで、よりによって、今思ってもイタリアン・ロックの最高峰の2枚に手を出してしまった以上、もうあとは転げ落ちるかのごとくです。さらにクエラ・ヴェッキア・ロカンダと、ムゼオ・ローゼンバッハ、マクソフォーネ…と手堅い所をいきましたから、以降シンフォ沼に突入です。
世間的にはプログレ(っていうか、シンフォ・ロック)は冬の時代。クラスメイトに布教も味噌もなかったので、このジャンルに関しては孤独に聴いておりましたw(とはいえ、ヘアメタルも、NWも、ビートパンクも、ハードコアも、アイドルも同時に聴いてけどね)


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