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【美容院開拓記】1. 旅の始まり

ショートカットの髪型になってから、もうかれこれ10年くらい経つ。

この10年の間に3回ほど、肩より下ぐらいまで髪の毛を伸ばしている時期があるけど、伸ばすのは1年も続かない。

最後に伸ばしたのはコロナ禍になってからで、美容院がどこも休業していたのがきっかけで伸ばし始めた。前髪だけセルフで切ったりお世話になっている美容院にお願いしたりして、前髪以外の髪の毛を伸ばした。今回こそはヘアアレンジとか頑張りたいなと思ってYouTubeとかでアレンジ方法を見漁ったりしたけど、もう不器用の度合いが異常なので2日練習して諦めた。ヘアアクセサリーに高価な金を出すか迷った結果100均で済ませたのは本当によかった。自分は自分のことをよくわかっている。

ショートカットのさっぱり感は心もさっぱりさせてくれる。何事もうまく行かないときはだいたい美容院に行けてなくて髪の毛が伸びきってるときだと思う。



ショートカットの維持は大変だ。

1~2ヶ月に1度は美容院に行って髪を切らないと、形は維持できないし伸びてきてる感じがしてしまうし、だんだん髪の毛が重たくなる。だから頻繁に美容院に行かなくてはならない。すると自然とお金もかかってくる。毎月の出費に3000~5000円はかかる見込みでいなくてはならない。

だけどそんなに毎月美容代にお金を費やしていられなかった私は、できるだけ安いお金で髪の毛を切ってもらうべく工夫しようと、見習い美容師さんの練習台として格安で切ってもらったりした。街を歩いていると美容院のキャッチに逢うこともあり、格安でやるとのことなので行ってみたりもした。だけど最終的にはホットペッパーのアプリで新規予約限定のクーポンを使い倒すことで落ち着いていた。

新規限定のクーポンで下北沢の美容院を転々とした。ときどき雰囲気の気に入る店があるとそこを2回目も予約をしてみたりしたけど、結局別のところでまた切るなどして定着はしなかった。


ある下北沢に用事があった日に、用事の前にさくっと髪を切りたいと思い電車の中でホットペッパーを見ていた。すぐに予約できる店がひとつしかなかったため、そこに予約をして向かった。

向かうとやたらと髪の生え方や頭の形を褒められた。どこかでモデルとかやってたことあるの?と聞かれたので、練習台はありますけどモデルはないですと答える。

帰りに、カットコンテストのモデルをやってほしいと頼まれた。頭の形とショートカットの似合い方が良いらしい。モデルをお願いする代わりに、次回からカット代はいただかないから、と言われたので即OKした。連絡先を交換して、その日からカットはその人にお願いすることになった。



というのがかれこれ6年前ぐらいの話。その美容師さんにはすごくよくしてもらってきた。毎年カットコンテストの時期が近づくと、そのために少し髪の毛を伸ばして、コンテスト前日に派手な色に染めてもらい、衣装合わせをし、コンテストに出場した。その美容院のスタッフさんとも仲良くなったし、コンテストや作品撮りがあるたびに、美容師さんたちの世界の一部を見ることができた。美容師さんたちってすごいんですよ。それはまた今度書きたい。

そうこうして仲良くなると情も湧くもので、「こんなにすごい技術と気配りができる人たちなのに私は一銭も金を払っていない…ちゃんとそれに見合った対価を払うべき…」と思っていた。たまに営業時間中にカットしてもらうと500円を請求されたけど、ワンコインだ。ワンコインのカット代って、1000円カットの半額ですよ。それなのに「新しいシャンプーにしてみたんだけど、どう?」「店で一番いいトリートメントつけてみたよ」とか言ってお試しで知らぬ間につけてくれる。普段いくらなんですかそれって聞くと、適当に値段を教えてくれるが、普通のお客さんだったら課金オプションだ。500円で切ってもらうなんてとても申し訳ない…


と思っていたところ、私は引っ越しをした。下北沢にはちょっと行きにくい街なので、引っ越す直前に美容院に行って、しばらくここに来れなくなりそうと伝えた。

私は、新しい街で美容院の開拓をすることに決めた。




8月某日

引っ越して1ヶ月ほど、忙しくてなかなか髪を切りに行けなかった。真夏だったのもありのびのびもっさりな髪の毛に耐えられず、休みの日に絞ってホットペッパーで美容院を探す。新規客限定のクーポンを使い、ひとつの美容院に予約をした。

家から徒歩10分。新規のクーポンでカットシャンプー込みで2500円。値段と距離は申し分なし。久しぶりにお金を出して本当の客として髪を切りに行くので心が躍った。飲み物が出されるといいなあとか、少しだけマッサージとかついてたりするといいなあとか、過去に行った美容院が"お客様"にやっていたサービスをいろいろ思い出し、少しだけ期待しながら家からその美容院までを歩いた。

40代のお姉さん美容師が切ってくれることになった。話も割とはずむ。まずシャンプーしますね〜と言われてシャンプー台に通される。

「夏限定のスカルプシャンプーが、今だけ500円なんですけどいかがですか?」

ああ〜こういうのあるよね〜〜その場で営業かけるやつ!この悩んだりするちょっとした時間も懐かしくて楽しい〜!と思いながら、せっかくだしお願いします、とやってもらうことにした。

そのスカルプシャンプーとやらは、頭がスースーするやつだった。歩きながらかいた汗とか暑さとか、そういうのがスッと引いていく。ヘッドスパっぽいのも5分ほどやってくれた。ああ、お金を出すって最高だなと、心の中でずっと思っていた。顔にかけてもらうガーゼの中で眠りかけながらもニコニコ顔の私。


そして髪の毛をカットする椅子に移動して、カットをしてもらう。

マスクをしたままで説明しづらかったので、断りを入れてからマスクを外して、顔のここらへんまで切ってほしいと伝える。美容師さんも鏡ごしに私の髪や顔、頭を見て、どこをどのぐらい着ればいいのかよく観察してくれた。

カットしている間、最近引っ越してきた話から始まり、この街の便利なお店や近隣の駅にある公園の話など、いろんな話をした。美容師さんはこの街に住んでいて、自転車でこの美容院まで通っているというので、まだ新参な私よりもずっとこの街に詳しかった。今度行ってみますとか、そんなとこあるんですねと、心から思って相槌を打った。


そうこうしているうちに仕上げに入ったと思われる。ドライヤーで髪を乾かして仕上げのカットをしたらおしまいだろうと思い、おしゃべりが弾みすぎて全く手をつけていなかった麦茶を急いで飲む。ドライヤーで乾かしてみて衝撃的なことがわかる。

エッ全然切っとらんやん。さっきと全然変わってない気がする。

鏡ごしに自分と目を合わせよく考える。いつもの髪切るペースは短くても1ヶ月ごとだよ?今の髪の毛の長さで1ヶ月伸びたらって考えて?耐えられる?うん?耐えられない?耐えられないよね?????

「あの…すみません。私のカットの時間ってあとどのぐらいありますか?もうあんまりないですか?」

「15分ぐらいありますけど…どうされましたか?」

「すみません。今の長さから前髪も含めてあと2センチずつ切ってもらってもいいですか?」

2センチですか?この形のまま?大丈夫ですけど、大丈夫ですか?みたいな感じで戸惑いの確認が入る。私も2センチは言い過ぎかなと思いながらも、どうせ伸びるし、今のままじゃ明日また切りに来ることになるレベルで耐えられないと思い、はい、大丈夫ですすみません、お願いしますと返事をする。

美容師さんは壁にかかっていた時計を見て、さっきまで縦に入れていたハサミを完全に真横にしてジョキジョキと切り始めた。勢いがすごい。毛先はもちろんぱっつんだ。私はすみませんと何度も言い、美容師さんは大丈夫ですよ〜と言いながら容赦なくハサミを入れまくっていく。ジョキジョキと。


しばらくして、髪をはらうためにドライヤーを当てられた。私の髪の毛は、ぱっつんの短いおかっぱヘアーになっていた。ちゃんと2センチ、前髪まで切られている。ドライヤーが終わってから後ろの仕上がりを見せてもらう鏡を当てられて、私の心にやっと平安がおとずれた。これで2ヶ月先になっても安心だ。麦茶を一気に飲み干した。

私はホットペッパーで予約したクーポンの500円上乗せの金額を払い、店を後にした。店を出る最後までぺこぺこと頭を下げ、真夏の太陽に見下ろされながら再び新しい街を歩く。


5メートルほど歩いたところで、背中が無性にかゆいことに気づいた。服の中に細かい髪の毛が入ってしまっているようだ。しかも触ると何本も手に髪がつく。歩けば歩くほど汗をかき、余計にかゆくなっていく背中。なんだこれは、と思った。こんなことは人生で初めてだ。なんでこんなにかゆいんだ。

本当はスーパーに寄ろうと思ったのに、予定を変更して真っ直ぐ帰ることにした。自然と早足になる。家についてまっすぐお風呂に向かった。服を脱いで鏡に背中をうつす。そこには細かい髪の毛が大量についていた。取り外したブラジャーにも、背中部分だけでなく前側にも毛がついている。こんなに髪の毛が服の中に入っているの、本当に初めてだぞ!

シャワーを浴びて、着ていた服は洗濯機に放り込んだ。とても腹が立った。後に予定を入れていなくてよかったと心から思ったけど、あの美容院を予約した人々はその後予定があったら一体どうしているんだ?と疑問に思った。
そのうち、もしかして私が行ってた下北沢の美容院は、髪の毛をほとんど入れたことがなかったけど、実は世間一般ではこれが普通なのかもしれない…と思えてきた。なんだよそれ、あの首に巻くタオルとクロスの意味ねーじゃん!!!

ペコペコすみませんと言ってる自分が馬鹿だったなとさえ思えてきて、もし良いとこだったら次はクーポン使わないでちゃんと予約しようと思っていたけど、この髪の毛大量投入事件が私にとってはショックすぎたので、次の開拓地に向かうことに決めた。




おまけ

今回のビフォーアフター(必ずしも切った直前直後の写真ではないです)
思ったよりばっさりいったなあと思ったので掲載。よく伸びていたね。

左の写真の長さも最近の私の中ではかなり長めになってしまった。右のほうが見慣れてきた。


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