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[diary]08/21 君は確かに僕を

パートナーがオタクだという人が、知らず知らずのうちに身につけているスキルがあると思う。
「わからなくても受け流す際の、相づちのニュアンス」である。

たとえば、(私もたいがいオタクだが)私の恋人のオタク加減はひどい。とあるモンスターの度を超したマニアで、骨の数とか歯の生え方とか、スーツアクターがスーツのどこをいつ壊したとか、なんかそういうすさまじくどうでもいいこと(よくないんですよね、はい)を事細かに覚えている。データ重視タイプのオタクだ。
だから、おもいっきりデフォルメされたモンスターのぬいぐるみとかを見ると、かわいいかどうかよりも「正確には歯は×本必要だからこれはちょっと愛が足りないよ、悲しいな」とか言い始める。
知らんがな。
ていうかぬいぐるみなんだからかわいければ愛はあるんじゃないのかと思うのだが、そうでもないらしい。知らん。

が、そういうときに、「知らん」と言ったらカドが立つ。ので「へえ」とか「ふうん」とか「そうなんだ」とか言う。
けれど、このとき剣もほろろに言ってはいけない。「あっ聞いてくれない」と悲しませてしまう。
こういうときは、①「聞いてはいるけれどその論点について興味はないし、続きも特に聞きたいとは思っていない」という気持ちを示すための適度に適当な空気を醸し出しつつ、②「けれども君のそう言うところは好ましく思っているし、話したいなら話しつづけてかまわない(しかし私にはよくわからないし下手をしたら聞いてないかもしれない、ごめんね)」という好意的な気持ちもきちんと表現する。
「へぇ」という2文字のトーンに、①②両方のニュアンスを集約させるのである。
これを技術と言わずして何と言おう。

ところで、さっき「(私もたいがいオタクだが)」と書いたが、私もたいがいオタクだ。
タイプ的には解釈オタクの部類である。なので、恐らく今までもっとも良く使ってきたフレーズは、「これ、○○じゃん」だ。○○には、主にホラー映画の作品名、黒沢清、ダークソウル(あるいはブラッドボーン)が当てはまる。
特にダークソウルとブラッドボーンは頻発するため、恋人にもよく「すぐダークソウルって言う……」と変な顔をされる。ダークソウルは世界の雛型なのでそうなってしまうのも仕方ないのだが、彼にはわからないようだ。困った人だ。
(ちなみにダークソウルおよびブラッドボーンはフロムソフトウェアのとっても面白いゲームである。PS4とかで遊べる。やったほうがいい。やろう。)

そして最近、○○の部分に新たな要素が加わった。「ハクレン(あるいはkylux)」だ。あ、判らない方は大丈夫です。ええ。忘れてください。
で。
今日、私はチャゲアスの『SAY YES』フルコーラスを、ASKAの真似しながら熱唱していて、彼は非常に迷惑そうにしていたのだけれど、とあるフレーズにさしかかった瞬間、その時はやってきた。
「何度も言うよ 君は確かに 僕を愛してる」
ハ ク レ ン じ ゃ ん 。
えっこれめっちゃハクレンじゃないすごくないセイイエスがハクレンだったなんて知らなかったすごーいねえすごいねえうわ最高。
ノーブレスのオタク口調でまくしたてた私に対し、彼はたっぷり10秒ほど置いてから、静かに言った。
「そうなの?」と。
とても優しい声だった。
私は答えた。
「そうだよ」。
え、だって「何度も言うよ 君は確かに 僕を愛してる」だよ?レンじゃん。レンが将軍に言うやつじゃん。もうどうやったってハクレンでしょこれハッハー勝った。
ハクレンです、ハクレンですよ、以外の言葉を失った私に向ける彼の眼差しは、とても慈悲深かった。あ、彼も例の技術を身につけているんだな、と譫言のように喋り続ける意識の片隅で意識させられたのでした。
チクショウ、だってハクレンなんだもん!

(ちなみに本稿の趣旨は、「『SAY YES』はハクレン」です。歌詞はこちら。な?)