世界の漁業でなにが起きているのかー日本漁業再生の条件ー 第4章 ヨーロッパ—完了した第三次技術革新
※この記事は平成8年に発行された書籍「世界の漁業でなにが起きているのかー日本漁業再生の条件ー」の内容です。発行されてからかなりの年数が経過している為、現状と乖離している内容もございますが、何卒ご了承の上お読みください。
1 世界の漁業生産量はどうなる—海洋生物資源は共有の永久信託財産
ときどき奇妙なことを耳にする。たとえば、漁業技術の向上は漁業資源の枯渇につながる、漁業は自主管理が基本、などだ。地方でもお役人が魚をとる時代ではなく買う時代だと漁業者に言っているそうだ。中国12億人を誰が養うのかというレスター・ブラウンの言葉を冒頭に記した。世界の漁業生産量は、FAO(国連食糧農業機関)にしても、レスター・ブラウンやラバツにしても、またアメリカ国務省『2000年の地球』にしても、1億トンを限度におきこれ以上の増加は見込めないとしている。EUは資源保護を考慮に入れた新しい漁業秩序に入ろうとしている。強いて増加要因をあげれば、後進国発展途上国の外貨稼ぎのための一時的な漁獲増。これはあくまで一時的なものだ。したがって残すところは、アメリカの科学者が主張している「魚が食べている小型魚」ぐらいだ。海面養殖は万能薬でないとみるのが、世界の科学者の共通の考え方に変わってきている。これに対して減少要因の方が多い。
・発展途上国の工業化にともなう海の環境汚染
・人口増にともなう生活排水による海洋生物の減少(富栄養化)
・人口増に対処する各国の一時的漁獲努力の増の反動
・アクアカルチュアの増による生態系の悪化
・地球の温暖化
などがある。現在の漁業生産量の1億トンに対して10パーセント減の9,000万トン程度におさまるかどうかである。
表4-1
日本は外貨を、現在自動車産業とエレクトロニクス産業などが主体となって稼いでいる。このままだとさらに産業の空洞化が進む。『良い円高悪い円高』の著者クーが指摘している悪い円高である。優秀な産業が海外に進出し、優秀でない産業が日本に残る。大変な事態が予測される。そうなれば好むと好まざるとにかかわらず、その時期や為替レートは別にしても円安にふれざるをえない。そうなると安い魚を輸入する時代はいずれ終焉を迎えることとなろう。この間、世界の人口増と生活向上の両者で食糧不足基調が続くことになる。アメリカでは、1995年10月5日現在で審議中の「新農業法」の動向次第だが、ひとつは輸出奨励計画や生産者価格保証などの各種補助金制度の大幅縮小。いまひとつは土壌の荒廃化を防止するための化学肥料使用の減。ともに供給の減となることは必至だ。さらに先述したとおり、1982-1983年規模のエルニーニョが発生すれば南半球の食糧庫が破壊されることになり、買いたくても買えない事態も予想される。日本近海では600万トンから800万トンくらいの漁業生産は可能だといっている向きもあるが、それは海の自然変動が絶対ないことが前提の数字だ。食糧不足が顕著となれば、公海の漁獲に目が向けられる。そうなれば、回遊している200マイル内の魚は当然減少してくる。600万トンから800万トンの魚の安定供給という考え方は安易すぎるといっても言い過ぎであるまい。漁業は自主管理が基本などと言っていたらどうなるのか。遅ればせながら来年以降TAC(割当制度)を導入する方向で検討中だが、そのことはさておき、海を放置しておれば日本近海の海洋汚染や生態系の悪化が進む。そのことにより漁獲の減少が進めば、漁業者は仕事を放棄することにつながっていく。魚は日本人にとって貴重な食料タンパク源だ。だからほかの国の人が食べない魚までとって食べることが習慣となってきた。日本人をよく魚食民族だとかいって、牛肉類や鳥肉などよりも魚を好む民族のようにいわれているがそうではあるまい。歴史的にみて動物タンパクは魚に頼るしかなかったからだろう。そのような魚食民族の国なのだから、海と魚の管理は国が責任をもって行うべきだ。
漁業者30万人の内、30パーセントが60歳以上となっている。早く対策をうたないとその補充育成は簡単にはいかない。外国人雇用で急場をしのごうといっても大量難民時代が目前にひかえている。のんきなことを言っている時代ではない。砂山の理論というのがあるが、これはじわじわ小崩壊が続いたあと、ある日突然に一挙に大崩壊が発生するという理論である。漁業という産業はこの論が当てはまるのではないかと思っている。沿岸漁業従事者は別にしても、通常親子二代漁船員として従事している例は稀である。子供に継がせたくない職業の最右翼となっている。伝統的産業の中でも多少の家内工業が残っているのと同じように、多少の沿岸漁業は残っていくかもしれぬが、欧米先進工業国の例で見られるように、造船、鉄鋼、海運などかつては栄光をはなっていた産業でさえ衰退していったことを考えれば、ありえない話ではあるまい。
前述したように漁業技術を向上させたら漁業資源の枯渇につながるという論について、私は軽く反論したことがある。「漁業の二字を消して考えたらよい。技術向上をさせたら資源枯渇につながるといって、ほかの産業が技術向上にプレーキをかけているところがあるならば教えてもらいたい。」と。技術というのはあくまでも広い意味での漁業に関する技術・知識である。コストが安く、安全性の高い漁船で、精度の高い漁業予測により必要な時に必要な魚をとってきて生活の安定をはかっていく。漁具にしても漁法にしても不必要な魚をとらないような環境にやさしい方法を開発していく。資源についても新しい資源を開拓していかねばならない時代に入ってきている。このようなことが否定されるのだったら産業の維持発展を放棄せよと言っているのと同じだ。視野があまりにも狭い。今ひとつ加えれば、残念ながら日本の漁業技術は向上させたら心配になるほど進んではいない。これまで自国で技術革新らしきことをやっていないのだから。
よく日本は資源小国といわれている。それは陸地においてはそうかもしれないが、海についていえば200マイルが設定されたおかげで、その面積は一位アメリカ、二位オーストラリア、三位インドネシア、四位ニュージーランド、五位カナダ、六位旧ソビエト連邦についで七位となっており資源小国とはいえなくなってきた。順を追って明らかにしていくが、世界は漁業資源の食糧資源としての位置づけにおいて着々とその戦略を固めつつある。少なくとも私にはそう見える。世界の漁業技術がどうなっているのか、各国の漁業への取組みや漁業資源の動向とかいったものを日本で知ろうとすれば、その資料は皆無に近い。FAOの資料についても一般化されていない。したがって世界の動きが見えてこないので、ある日突然に200マイルが設定されたり、流し網漁法が禁止されたり、公海での取り締まりが行われているように、漁業に従事している者にさえそう写るのだから、一般の人々には海と魚の問題については全くわからないのが実情であろう。そして問題が発生してから慌てて対応することとなり混乱が生じてくる。詳細は後述することになるが、最近『The econiomist』が「Fish War」という表現で世界の漁業紛争の状況を報道した。魚の問題が世界の最高級誌の一つに扱われること事態が極めてめずらしいことであるが、見方を変えれば、それだけ「魚の問題」が世界的に重要視されてきたことになる。知らぬは日本人だけかもしれない。魚輸入大国日本にも海外の情報を
集め分析する漁業専門のシンク・タンクくらいあってもおかしくはないのだが、動きさえもみられない。こうしたことから数少ない資料から漁業先進国の動きを追っていくこととする。
1977年5月3日、カーター大統領は議会に環境教書を提出した。それは環境問題が国境にとどまるものではないことを指摘し、世界の諸国民が共有の環境を守る国際的な努力をしなければならない時がきたことを述べるとともに、その一環として、アメリカ政府の環境問題委員会および国務省に対して、環境保全局、国立科学財団、海洋大気局など関連部局の協力を得ながら、今世紀末に向けて、世界の人口、資源および環境の起こり得る変化について研究することを命じた。」この研究に参加した人々は100名におよび、三年の歳月を費やし完成させた。第一部が人口・資源・食糧編で、第二部が環境編となっている。第一部は一二章よりなり、人口予測、GNP予測、気候の予測にはじまり第七章で漁業予測が出てくる。この第一部の翻訳者だけで30名。この報告書がいかにぼう大なものかがお判りになろう。ここでは漁業予測のうち、関係が深い部分のみ記述を進めていくが、それにしても食糧大国のアメリカがここまで調査をしていくとは驚き以外のなにものでもない。それもあまり魚を利用していない国がである。
第六章食糧および農業に関する予測、と第七章漁業予測を同列においていることも見逃すわけにはいかない。ワールド・ウォッチ研究所の『地球白書』も本報告書と同じように必ずといってよいほど漁業問題をとり扱っている。ところが日本では食糧問題といえば、農業問題のみ扱っている。農耕民族のせいだろうか、それとも魚を食糧として位置づけをしていないせいだろうか。マスコミも漁業問題については滅多に扱わない。
同報告の海洋生物資源については興味深い記述がある。「漁業資源の大半は水深約275メートルまでの大陸棚の上の水域に生息する。各種は漁獲量が多いものであっても、平均的にはそれほど密に分布しているものではない。海底と密接な関係をもつ底魚についてみれば成魚は平均して1立方メートル一尾である。浮魚についても、およそ1立方メートル一尾が平均である。これらの成魚は0.1キログラムから100キログラムまでの範囲内の大きさのものである。水中を浮遊する小動物である動物プランクトンは重量が0.01グラムかそれ以下だが、1立方メートル中に約100個体が存在する。ほとんどすべての生物は広く均等に分布することなく、濃密な群れをつくる傾向があり、これが今日漁業を成功させる基礎となっている。」ここでどうしてもわからないことがある。底魚も浮魚も成魚が1立方メートルに1尾ということである。その根拠は明らかにされていない。逆算だろうか、それにしても興味深い。自然の神秘だ。さらに続ける。「われわれの最適性の概念は自然界の最適性とは非常に異なっており自然の系についてはわれわれはまったく何も知らないといってよい。したがって海洋の生態系の中で人間が活動をつづけると、長期的に潜在生産力を維持することは困難で、短期間で、生産力を減少させることになりそうである。・・・海洋生物資源は共有の永久信託財産として維持し管理すべきものと全地球的に考えられる。共有性の考え方については決まっていないが、最近沿岸規制水域の拡大というかたちで決まってきている。国境線による区分は資源の観点からすれば人為的なものであり、沖合いの規制境界についてもほぼ同じことがいえる。最適あるいは管理ということに対する考え方が違えば、同じ資源についても国家間で方針がまったく異なることもありうる。これは資源の永続的な最適利用に必須の人間と自然との間の調和をいっそう悪化させることになる。現在この点は、漁獲の影響に関して問題となっているが将来は汚染やその他の海洋環境の人為的改変に関していっそう問題となろう。」
サイエンス分野で常に世界をリードしているアメリカでさえ、自然の系についてわれわれはまったく何も知らないといっている。科学者としての謙虚さに敬服する思いだ。海洋生物資源については、共有の永久信託財産として維持管理すべきという考え方を、15年前の1980年に打ち出している。漁業は自主管理などと言っていたら笑われる。世界の潮流である。公海の管理が出てきても不思議はない。この時点で海洋汚染やその他の海洋環境の人為的改変も国際的に問題となってくるであろうことを示唆している。養殖や栽培漁業の放流の問題もいずれ国際的テーマになってくるだろう。
潜在生産力については、「海洋生物資源の生産力を推定するには、二つの一般的方法が用いられてきた。一つは一次生産力の推定にもとづくもので、光合成による原形質あるいは炭素の生産量を推定し、このエネルギーが食物連鎖の上の方にどのように流れるかを計算する。まず海洋に入射する太陽光の量、植物プランクトン(あるいはクロロフィル)の現存量、炭素固定量のそれぞれの推定値、あるいはそのいくつかの組み合せを使って計算を開始する。この実験的基礎をこえて食物連鎖の他の構成要素の生産を外挿で求めるときはいくつかの実験で裏づけられてはいるが、栄養段階間の転換効率の仮定的な理論値を用いることになる。
潜在生産力の推定は、生産の対象とする栄養段階、あるいは生物種のグループをどう決めるかで大きく違ってくる。この決定あるいは判断で推定値は10倍から100倍も違ってくる。それぞれの段階にどんな動物が想定されているか、あるいは現実にいるのかということが、つねに明らかであるとは限らない。もう一つの推定方法は、現実の漁業生産量と資源の現場調査の観察結果を利用するものである。」として、潜在生産力の推定がいかに難しいか、誤差が大きいかを明快に示している。そして「どちらの方法をとるにせよ、推定値としては、世界全体としての総潜在生産力がもっとも確かなものである。つまり地域ごとのあるいは種ごとの推定値の合計をとれば推定値の誤差が平均化されてしようからである。地域ごとの推定値は使えるデータの量と分析方法によって精度が変わるだろう。・・・開発が非常に進んでいる水域の伝統的漁業対象種の生産量についてはこれらの推定値に含まれているが最近ふえていない。すでに多くの水域で、いわゆる非伝統的種類も最大維持生産量の水準で漁獲されるようになっている。(たとえば北大西洋のシシャモとイカ)したがって増加すると仮定されているうちの大部分は、現在の生産量に潜在量が加わったものではなく、実は代替種の生産量なのである。潜在生産量の推定値には生態学的制約がある。その他にもっと実際的な社会的(経済技術管理)制約が将来拡大すると推定されている潜在生産量をフルに利用する妨げとなろう。」そして再生可能な総資源については「こういうことから考慮すると、現在の海産魚の総漁獲量の約6000万トンという値は維持漁獲量として考えればもうこれ以上ふえないだろうという結論に達する。そしてそれも漁業をよく管理し、海洋環境の保護をして、はじめて維持されるだろう。自然の生産物を利用することによる海洋の再生可能資源の世界総収穫量は、西暦2000年までにかなり増加しておそらく1億トン程度にまでできるかもしれない。しかしこれを達成するには厳しい社会的経済的制約を克服しなければならないだろう。また、海洋生態系のつりあいと平衡がひどく乱されたりすることのないように、開発は十分に注意深く計画的に行わなければならない。実現性の問題はひとまずおくとしても、生産量を持続的に増大する現実的な可能性を評価するための十分な情報はない。」
この漁業予測の西暦2000年時点の世界総収穫量1億トンについては、海面養殖を含め1992年9,800万トン、1993年1億トンとなっている。この予測は大体正しい。漁業総生産について、ワールドウォッチ研究所は「根本的な問題は漁業者の漁獲能力が強化されたことと、収穫逓減が起こって漁獲量が落ち込みはじめてからも、さらに多くの人と船を漁業へ引きつけた政府の反生産的な政策にある。何十年もの間より大きな船を建造し、より進んだ捕獲技術を導入しつづけた結果、海はほとんど限界まで獲り尽くされている。国連食糧農業機関(FAO)の専門家たちは、検証した漁業活動の三分の一に乱獲が見られ、また世界の沿岸水域でストックの涸渇した魚介類があることを確認している。これまでに海からの漁獲量の限界を数量評価しようとする研究が数多く行われた。
今日漁業分野の科学者たちは、商業利用の対象となる海洋生物種について、予測可能な将来における利用可能な最大量の大まかな推定値を年間1億トンとしている。これは1993年の漁獲量を約1,000万トン上回る数値である。このような推定はもともと不確定なものであるが、主要漁場の衰退や世界の総漁獲量の近年の停滞を見ると、漁業は自然の限界に直面しつつあるようである。
FAOによれば、「魚介類のストック管理を適切に行わなければ、一億トンの漁獲を達成して、その水準を持続することはできそうもない。乱獲に加えて、海洋環境は年間数百万トンもの可食魚介類の損失をもたらす汚染や生息環境の破壊によって痛めつけられている。この一つの問題は河川や湾、入り江、河口域、沿岸湿地帯、サンゴ礁、半閉鎖海で、少なくとも一生のある時期をすごす魚介類に対して、とりわけ大きな影響をおよぼしている。こうした水域は海洋生態系のうちで人間がもっとも劣化させてしまったところである。人間の手によるさまざまな開発は、たとえば世界の沿岸湿地帯のおよそ半分はそこに生息し、産卵する生物もろとも破壊してきた。」この年間数百万トンの可食魚介類については、別の書『Abandoned Sea(見捨てられた海)』で明らかにしている。
・サケの損失は少なくとも年間50万トンーバルティック海やチェサピーク湾のような河口域、半閉鎖海。
・黒海やアラル海などで50万トンの損失。
・沿岸湿地帯での損失年間400万トンの生産力を減少させている。
・サンゴ礁の破壊で年間50万トン。
・マングロープの破壊で年間エビ120万トンを含み年間潜在漁獲量470万トンの損失。
・世界のサンゴ礁の5〜10パーセントの破壊で資源の潜在生産力が年間25万トンから50万トン減じられることになる。
養殖漁業については万能薬でないとしている。「人間は何千年も魚を飼ってきたが、世界の魚介類の供給における養殖の寄与は、最近の40年以前は無視できるものだった。養殖はここ10年でもっとも速い成長を示した魚介供給源だった。今日、淡水養殖の生産が伸びた結果、二種の淡水養殖魚が、海産魚にとって代わって海洋と淡水を含めた漁獲上位10種のなかに入った。それはコイ科の大型淡水魚であるハクレンとソウギョである。ハクレンは年間160万トンで7位。ソウギョは年間130万トンで10位を占めた。海からの漁獲量が伸びないために、人々は供給拡大のため魚介の養殖を行うようになった。ところが養殖は海洋漁業の限界から人々の目をそらさせている。政策決定者たちは、沿岸住民の福祉や栄養状態にごくわずかな寄与しかしていない。海洋養殖は、沿岸地域の生物の生息環境を破壊する主要な原因である。そうなると海洋漁業の基盤は突き崩される。マングローブ林——世界全体では半分は破壊されてしまっているが伐り倒される大きな理由の一つは、小エビ養殖の人造池をつくるためである。しかし沿岸湿地帯は天然の漁業にとってもぜひとも必要な生育場所であり、そこを破壊することは海洋漁業の基盤そのものを損なうことである。ホンデュラスでは小エビの漁業者と養殖業者のあいだに生じた緊張によって、双方が武装するにいたった。エビの生息地を守ろうとした漁業者が養殖業者たちに雇われた自警団員らに殺されたという訴えもされている。小エビ養殖をめぐる同様の衝突は世界中で燃え上がっている。小エビ養殖をはじめとする海洋養殖は沿岸生息環境の破壊だけでなく、沿岸での水質汚染——外来種の新たな病気の侵入、そして野生生物の多様性の損失の原因となっている。」公海漁場の問題については、「公海の魚介類ストックをめぐる衝突によって、1993年7月から国連で国際交渉が始まったが、現在のところ合意に達していない。おもに大漁場をもつ国々からなる陣営は、国際条約締結を望み、遠洋漁船団を抱えている国々はガイドラインの制定を望むというふうに、二つの陣営が生まれている。しかし、公海での漁業をめぐる国際緊張を緩和しようとする国際交渉当事者たちは、海洋漁業ではもはや公海の自由の原則は成り立たないと認めざるをえなくなるだろう。ちょうど米国西部のフロンティアが牧場の柵で囲い込まれていったように、海はやがて公海漁場の保全をめざす外交によって、各国の権利下に完全に分割されることが避けられないだろう。」としている。そして海には限界があるとしている。
「要するに遠洋漁業には限界があり、水産業界は乱獲によって自然の生態系を根源から突き崩しているのである。漁業者も漁業経営者も操業能力の過剰が漁業衰退の主要原因であることは認めているのだが、失業という不気味な可能性があるために漁場保全の立場で強い主張をする政治家はほとんどいない。そのため状況は悪化の一途をたどっている。・・・もし、漁業者、規制者、そして沿岸地域社会が現状のままの道を進めば、海洋漁業は衰退しつづけ、何百万人が失業し、沿岸地域社会と低所得消費者が苦しむことになる。しかし方向を転換して、力を合わせて漁業管理の改善に当たれば、予測可能な将来にわたって海は魚——そして経済的社会的恩恵——を生みつづけることができるのである。」
以上が『地球白書95-96』の要旨だ。先述したとおりこの書は27カ国に翻訳されている。世界的に影響力のあるこの研究機関が、世界の海と魚の問題をぼう大な参考文献をもとに客観的にまとめあげ、世界の国々にフィードバックするのだから、どんな鈍感な国でも食糧問題を軽視しなくなってくるのは当然である。中国も農業強化の方針を打ち出してきた。レスター・ブラウンは悲観的だなどといってはおれないだろう。
公海漁場の問題もある日突然起こってくるのではなく、それなりの世界の動きがあってはじめて、規制の波が出てきたのだ。世界は魚を食糧戦略の一環として着実に動き出してきている。
2 食糧安全保障時代——先進漁業国の動き
1994年のことだったか、Newsweek誌に『エムプティ・ネット(網の中に魚が入っていないこと)』の記事が出た。カナダの漁業問題のことである。ところが、その記事を読んでインドネシアの方から漁業資源管理についての問い合わせがあった。このとき私は東南アジアは英語圏だなと実感した。政官財界の優秀な人は欧米の大学を出ている。したがって海外の情報は直接入手することができる。日本の場合は残念ながら海外の技術を含む高度な情報は翻訳されて国民に伝わることになる。新聞の場合でも海外情報は限定される。本の場合だったら売れそうもない情報は翻訳もされない。水産関係がその例だ。いろいろな見方ができるが、英語圏人口はインドを入れると20億人をこえることになろう。国際的な英語情報が入ってこなければ、日本は世界の過疎地と言っても言い過ぎであるまい。そうなれば、偏見が先行し、好ましからざるおごりも出てきて誤った方向に進むことにもなる。日本の漁業がそのような状態におち入っているのではなかろうか。
・The Economist —— 『海の経済学』(1995年3月)
世界の高級紙といわれているロンドン・エコノミストが漁業問題を扱うことは滅多にないのではなかろうか。カナダとスペインの漁業紛争に関連して上述の記事『海の経済学』を1ページんわたって掲載した。その要旨は「20年前英国とアイスランドはタラ戦争を、また昨年の夏はスペインとフランスの間で流し網の使用によるマグロ漁をめぐって論争があった。ほかにも多くの紛争がある。将来はさらに頻繁になるだろう。FA0は世界の漁業資源の70パーセントが維持可能なレベルかそれを超えて漁獲されていると言っている。漁船勢力が削減されなければ、資源の多くは崩壊するだろう。大西洋のタラがその例だ。世界の漁獲量は、1989年に低下して以来この10年間着実に上昇してきた。しかし各国政府は補助金で自国の漁業者を保護するのに忙しい。FA0の見積りでは、世界の漁船は毎年およそ540億ドルの損失を出している。そのほとんどは補助金で埋め合わされている。これらは単に過剰漁獲を奨励しているだけだ。漁業資源が減少するにつれて「Fish War」が多様化されてきている。
・論争は各国内の海域で起こっている。アジアでは時に小型漁船グループの伝統的漁場が入漁料を支払ってその海域に参入してくる外国人に占有されてきた。今年インドでは、伝統的な漁業者がストライキを行い外国漁船を妨害するとして脅迫したため、外国漁船へのライセンスを元に戻すことになった。
・セネガルの小型漁船の漁業者も最近ストライキを続けている。その海域に入っているヨーロッパの漁船が過剰漁獲をし資源減少をさせている理由だからだ。
・魚は二つの国の海域を回遊する。その権利は誰にあるのか。カナダは自国の河川にもどる途中でアメリカ海域を通るパシフィック・サーモンでアメリカと激しい議論がかわされている。
・大規模漁業が発展途上国で発展するにつれて、資源の配分がさらに論争の対象となってきそうだと英国の海外援助当局に対し、漁業問題の担当者が述べている。アンゴラ・ナンビア・南アフリカがこのグループだ。
・漁獲対象になっているほとんどの魚は200マイル内である。いくつかの海域では、豊かな資源が公海にまでおよんでいる。そこでは国際法でかろうじて規制されているもののほとんど参入は自由だ。そのひとつの例である沿岸200マイル水域の内外にまたがって分布する資源(ストラドリング・ストック)でありカナダとEUの間で、今グリーンランド・ハリバット(カレイの一種)をめぐって論争が展開されている。
・別の例はニュージーランドの海域で見つけられ成長の遅いオレンジ・ラフィーである。オーストラリア・日本・ロシア・韓国・ノルウェーの各船が漁獲している。過剰漁獲だとニュージーランド人が怒りを表わしている。
・北太平洋のピーナツ・ホールやドーナツ・ホールのようなほかの海域においても漁獲は劇的に低下し、国際的な論争をひき起こしている。事実、これらストラドリング・ストックの公海の魚を規制するための新しい条約が、国連で議論されている。しかしその交渉は厳しいものになっている。日本のような大きな漁業国は、漁船の隻数の削減を避けたがっている。
このロンドン・エコノミストの報道に関連しては四月に『Fishing News International(F.N.I)』は「遠洋漁業への脅威はつのる」として、一方的な200マイルを超える宣言のことや世界の海洋資源の管理の点までふれている。そして同紙は次のように伝えている。
「沿岸国は排他的経済水域をこえて、保護または管理する措置の拡大規制を求めている。しかし旗国は、遠洋漁船を排除に導くため、このことを恐れている」
もう一度今までの記述を振り返ってみよう。
・ワールド・ウォッチ研究所『地球白書』は「不可避な海の分割」のところで「海洋漁業ではもはや公海の自由の原則は成り立たないと認めざるをえなくなるだろう。海はやがて公海漁場の保全をめざす外交によって、各国の権利下に完全に分割されてしまうことが避けられないだろう」との見解を示している。
・そして1995年3月にエコノミストがFish Warを掲載。実は4月にも魚の問題をトップに準ずる扱いで、同じような見解を主張している。
・4月にFAOの後押しで誕生したといわれる国際的なF.N.Iが「200マイルを超える宣言がでるかもしれないぞ。」と衝撃的な記事を掲載。
そして8月に合意を見たわけだ。すでにおわかりのように世界の海洋資源問題については海の環境を含めて、FAO主導で進められている。うがった見方をすれば、カナダ・スペイン紛争はFAOが仕掛けたのかもしれない。私の推論が正しければ、今後日本は、食糧問題(漁業問題をふくめた)、海の生態系を含めた海の環境問題などについては、FAOや世界の世論形成をしているといわれているワールド・ウォッチ研究所の見解を無視するわけにはいかなくなる。その研究所長のレスター・ブラウンが、世界の穀物消費量に対する在庫の比率が、安全水準といわれる18パーセントを大きく割り込み14パーセント台に落ちていることに関連して、「今後は食糧安全保障が軍事安全保障にとって代わり、より多くの国家予算が使われるようになる。とくに世界の食糧価格が劇的に暴騰したときには、食糧安全保障が優先事項となる。食糧価格の高騰は経済的な不安定だけでなく、政治的不安定をもたらすからだ。」と述べている。
いずれにしても、魚資源の問題はもとよりのこと生態系をひっくるめた海の環境問題についても国際的な監視の目が厳しくなってくると考えて間違いない。日本だけの論理は世界で通用しなくなってくる。先進国日本、食糧輸入大国日本としては総合的かつ長期的な食糧戦略が必要になってきた。
1995年の後半になって、漁業・食糧問題についての世界の一流誌の論調が目立つようになってきた。
この章のしめくくりとして、いくつかの情報を簡潔に紹介しておこう。
・SCIENTIFIC AMERICAN —— 危機に瀕した世界の魚
「1989年にピークに達した漁獲量は以降停滞。地域のなかには厳しい減少がみられる。漁業の崩壊を防ぐには慎重な管理が必要。養殖魚が野生魚を脅威にさらしている。」
・NATIONAL GEOGRAPHIC —— 減少する資源
「海洋の豊かさに限界が見えた。次の10年間は魚をめぐる大混乱が予測される。」
・The Economist —— 1996年の世界
「食糧政策は、これまで以上にヒステリックなものとなろう。ついに人口が食糧生産に追いつくのか?緑の革命は終わり新しい飢餓の時代が始まるのか?」
3 ヨーロッパでの技術革新 —— 拡がる新しい技術革新の波
北欧、英国、アイスランド、アイルランドおよび西ヨーロッパ全土で、漁船漁業の技術革新がほぼ完了した。この新しい技術は世界各国に普及しつつある。漁業管理、資源管理、漁船、漁具漁法などの新しいノウ・ハウが拡がっている。日本はこれまで独自に技術革新らしきことは手懸けてきていない。なにも漁船漁業に限ったことだけではなかろう。ほかの産業もそうだ。借用技術や翻訳技術が主流を占めているといっても言い過ぎでもあるまい。書店の洋書コーナーで山ほど積み上げられている書物はコンピュータ・ソフト関係だ。しかし、これからは今までどおり先進国の技術を簡単に手にするわけにはいかなくなってきている。日米欧はメガコンペテイション(大競争)時代に入っている。独自開発が必要になってきたということだ。
「日本は技術立国でない。研究開発費の充実を」と開銀レポートは伝えている。その要旨は、「日本開発銀行は国内製造業の技術を分析、将来の技術空洞化を防ぐための条件を考察したレポートをまとめた。技術貿易の収支から見て、現状では技術立国と見なせないと指摘。国内の研究開発支出が92年以来マイナスに転じていることから、基礎技術を中心に充実させていく方策を考えなければ、今後の経済成長に深刻な影響を与えかねないと警告している。レポートは、国内の現状を技術立国になっていると見るか、技術空洞化が進んでいると見るか、どちらの立場がより現実的かを分析している。総務庁統計によれば、93年度の技術貿易は初めて黒字に転じているが、日銀の国際収支統計は依然として入超だと指摘。地域別に見ると対欧米で入超、対発展途上国で大幅な出超であり、基礎技術を欧米から導入し、生産した財を輸出する従来の構図は変わっていないと見る。結局現実は技術立国ではないと結論づけている。」
漁業に限っていえば、わが国は、独自で技術革新を行っていない唯一の先進国。技術革新と改善とは異質なものだ。技術革新は国をあげて産官民の多種多様な技術陣が知恵を出しあい、それ相応のかなりの経費をかけて取組むもので、新しい秩序(ニュー・オーダー)に入る場合避けて通れるものではない。それは歴史が証明している。
写真4-1.
現在漁船漁業の技術革新がヨーロッパ各地で起こり、その波が日本を除く各国に普及しているのが現実だ。
日本では、漁業者や造船をはじめとする漁業関係では閑古鳥が鳴いているようだが、ヨーロッパでは多忙をきわめているというような報道がF.N.IやF.Nで伝えられている。いくつかの例を紹介しておこう。
『インドネシア50隻のロング・ライナー(延縄漁船)を発注』 —— 2億ドルのサシミ漁船
・スペインの造船所はインドネシア向けのマグロ・カツオのロング・ライナー50隻を組立式で建造のため、2億ドルの注文をとることになっている。
・スペインの銀行と中央政府によってファイナンスされた契約により、インドネシア造船所で50隻のロング・ライナーが組み立てられる予定。インドネシアでは漁業専管水域または群島水域で資源を捕獲していくことになれば、今後3年から5年間で1,000隻以上の大型の漁船が必要となる。現在のサシミ漁船は老齢化している。高品質の漁船でも15年経過しており改造が必要となってきている。
・カツオは缶詰または日本向けのカツオ節にする。カツオ節は高値なので供給者は缶詰よりもこのカツオ市場を選ぶことになる。
・ロング・ライナーは、スペインのガリシアまたはビルバオの造船所で建造予定。インドネシアの法律は、現在船舶所有者が、海外で建造された完成漁船を購入することができないことになっている。(1994年8月)
『スペイン・カメルーンの受注にファイナンス』
・スペイン政府が、ファイナンスを提案したことにより、カメルーン向けの50隻のビーム・トロール船とスタン式トロール船の大型の契約が行われる予定。スペイン政府が好条件でファイナンスを提案。私達はカメルーン政府からの確かなギャランティを待っている段階だ。(1994年8月)
『ノルウェーの造船所 —— 新しい受注の波』ノルウェーの造船所はここ数ヶ月の間で、アルゼンチン・アイスランド・スコットランド(シェトランドをふくむ)およびアイルランド向けの漁船建造の受注を予約している。(1994年7月)
『スペイン・ガリシアの造船所受注増えつづける』
・スペイン・ガリシアの漁船船主が発注した5隻のロング・ライナーが造船所の中に新しく完成した建造格納庫で現在建造中である。最近、チリー沖で操業する予定になっているビゴを基地としたスペイン船主向けの43.5メートルのロング・ライナーの追加注文を受けている。また、スペインおよび北アフリカ向けの40メートル級のトロール船の予約注文にも強い希望をもっている。北アフリカ向けのトロール船は250立方メートルの魚倉容積、1,200馬力の主機関となっている。(1994年10月)
『スペイン大転換を進行中』
・スペインは毎年モザンビーク沖で漁獲される8,000トンのエビでかなりの利益をあげている。ペスカノーバ社は現在進行中の新しい政治的環境の中で繁栄をめざして、新しい会社の設立を検討中。ナミビアでは、たとえば80パーセント以上の漁業会社がスペインの影響を受けている。南アフリカの最初の合弁企業もスペインとの間で設立された。(1994年10月)
『ノルウェー タイで造船所を計画』
・ノルウェーのノウハウと設備を利用しているタイでは、ロング・ライナー・巻網・トロールの追加の可能性をノルウェーの海軍造船技師と供給者のグループが、調査研究中。ノルウェーにとって、将来タイが漁船の装備の重要な供給市場となる。(1994年8月)
『ニュージーランド —— ノルウェーの工船トロールを購入』
『中国漁船シミュレーター訓練で記録的な漁獲』
・中国で2番目の漁業シミュレーターは舟山の学校に設置された。この訓練により記録的な漁獲をおさめた。英国のハル社が設計し、製造したシミュレーターの装置は英国のコンサルタント会社がオーガナイズした。その資金はEUが準備した。
その特徴は、魚群の密度、大きさ、速度が実際の魚群と同じように写し出される。船を操船する場合はインストラクターが機関馬力、ウインチ馬力やほかのパラメータを自由に変更できる。巻網・トロール・延縄のシステムが組み込まれており、巻網は特に現実的な方法となっている。(1994年9月)
『シミュレーター・洋上での訓練時間を短縮』
・最近の漁船はエレクトロニクスが組み込まれているので、乗組員の技術訓練の必要性が増してきた。洋上での訓練ではかなりの経費がかかることになり、シミュレーターの必要性が高まってきている。航海と操業のシミュレーター訓練のメリットは次のとおり。
・操業中の生命の危険性と装置の損傷の可能性を減ずる。
・操船と漁業技術の能力を最適化する。
・漁獲を増大させる。
シミュレーターは底曳、中層曳トロール、ペアトロール、巻網、延縄やエビトロールの深海操業と沿岸漁業の漁業技術を訓練するコンセプトにもとづいている。
操船・操業シミュレーターは実際の船舶の装置と同様のものとなっており、学生を訓練できるように設計されている。(1994年10月)
『ノルウェー漁船 ソート・グリッド(選択漁法)を採用』
・バレンツ海で操業している60隻近くの底曳トロール船は小さな魚の漁獲を減少させるため、厳しい選択装置、ソート・X・グリッドを使用している。装置の使用は義務づけられていないが、ほとんどの漁船がここ3〜4ヶ月間でこのグリッドを購入した。このようなソート・Xシステムは、研究機関、漁業者、漁具製造者の協力により完成。1989年10月最初のテストが開始され、それ以降ノルウェーの水産科学大のラーセンにより開発された。このグリッドはソート・Xで商標登録され、ノルウェーで特許を取得した。(1994年1月)
『ノルウェー新造船の価格上昇』:設計者語る。(1995年8月)
・ノルウェーの漁船設計者は今後の2年間で、ノルウェー・オランダ・スペインの8つの造船所で完成予定となっている8隻の漁船の設計にあたっている。これは変化している漁業に対して、船主が新しい船を必要としているからで、注文は増加し忙しい時期をむかえている。新しい漁船の価格は上昇傾向を示している。というのは魚の価格も上昇しており、新船の船価を支払うのに充分ペイできる水準に達し、船主は代船を建造する余裕ができているからだ。建造予定は次のとおり。
P145の表が入る(横書きに修正)
『フランスの中層技術はどこでも使用できる —— 40隻のペア・コントロール、マグロ漁へ』
・フランスは、今やマグロを漁獲するのに中層曳網を使用している。40隻のペア・トロールは長さ16メートルから50メートル。(400馬力から2000馬力)網のデザインは前部で、16メートルから20メートルの大きな網目となっている。網の高さは25メートルから60メートル。曳網速力は4ノットから5ノット。曳網時間は4時間。中層トロールの方が装備が安く、複雑な手続きを必要としないからだ。(1995年1月)
『インド・ノルウェーの協力により選択漁法の開発へ』
・インド・ノルウェーの3年間の共同プロジェクトは、選択的エビトロール漁法の開発のため、グリッド・タイプとスクウェア・メッシュをふくむ漁具の評価を行っている。その主要目的は、インドの東海岸の重要なエビ漁場で捕獲されるかなりの量にのぼる小型船のバイ・キャッチ(混獲)した魚をを生きたまま逃すことにある。(1995年1月)
F.N.I.(1995年4月)の報道をピック・アップしてみる。
『タイ、変化をはじめる』
・ニュージーランドはタイの368億ドルの漁業の能率化と改善の方法をアドバイスする立場をとることとした。タイの漁業は過剰漁獲と漁業資源ならびにエビの養殖漁業が汚染にさらされてきた。
『中国、最初のヨーロッパ型漁船の建造に着手』
(中国は、EUディべロップメント・プロジェクトからの援助で、最初の近代化マルチ・パーパス(多目的漁船)の建造に向かう。1,000馬力、35メートル級の巻網、トロール兼用船が中国の伝統的漁業に先進的な漁法が導入されることになる
『スペイン18隻建造計画』
・近代化計画がガリシア地方政府によって加速化されてきた。(詳細後述する。)
ベトナム・ニュース(1995年5月)
『デンマーク、漁業マスタープランを作成』
・昨日当地ハノイで終了した三日間の討議はデンマーク開発協力計画からの財政的援助で漁業の開発プランの作成に取り組みはじめた。海産物省によれば、マスタープラン
は2000年までに漁業の近代化をはかるように計画している当局の基本施策として役立てるため今後の12ヶ月で準備されることになる。そのプランは漁業の維持発展に影響を与える制約と機会の幅広い分析を含むことになる。沿岸漁業は過剰漁獲によってひき起こされた現在の問題に取り組む必要があるとともに深海資源を開発していく能力を高めていく必要が迫られていることが広く認められている。
デンマークの1000万ドルから1,500万ドルの年間の資金で、当局は商品としての魚の質の向上をはかりながら資源評価への全体の能力が強化されることを期待している。その資金は、漁業の監督、管理、制度の開発を改善し、環境に配慮した安全な裁培漁業の発展を支えることになっている。
1991年11月のF.N.I.『スペイン・ノルウェー・英国はロシア向けの工船トロールを建造するためにどのように協力したか』
・デリバリーが西側の造船所で行われた最大の漁船建造契約で始まっている。先日スペインの一つの造船所で誕生した105メートル級の高能力スタン式トロール工船は15隻シリーズの最初の2隻である。次の3年間でのロシア向けのデリバリーの総コストは36,000万ポンド。
ここで「多目的漁船(マルチ・パーパス)」について説明しておこう。『The Stern Trawler(Fishing News Books Ltd.1972)』
「2種またはそれ以上の漁業種類を行える漁船というものは決して新しいものではない。流し網、トロール兼業船がその例で最近まで英国の北海海域で操業する船型としてよく知られている。25メートル以下の多くのスコットランド船はトロール網操業型から延縄、二艘曳きトロールや巻網とそれぞれの事情にあわせて改装されたものである。より大型のサイド・トローラーほど深海延縄や巻網への改装(またもとの型にもどす場合もある)がうまくいっている。同様なことはスコットランド・アイスランドおよびノルウェーで行われている。しかし、これらすべてのケースで漁船は通常一時にいずれかのひとつの漁法しか実行できない。そしてほかの漁法に変えるということは母港に帰り数日をかけて装備がえをするのである。この場合、またここでも船尾式の方がフレキシブルであるように思われる。この手の装備はいわゆるコンビネーション漁船として知られており、カナダ漁船で実現されて数年が経過している。現在採用されているものの中で最もよく実績を出している。多目的船として使用できること、すなわちある漁法から他の漁法への転換がドックに入らず、すばやくできることは非常に魅力的にちがいない。すばやく、ある種の漁法から他の漁法にかえることができるということは、タラが海底や海底から浮いた状態で発見されたり、またニシンが表層で発見されるといったふうに重要な対象魚種の分布状態が異なる北大西洋のような海域では重要である。しかしながら表層トロールは近年漁具が大型化しており、漁撈甲板に空間的に余裕があり、またパワー・ドラムを装備できるといった点でスターン・トローラーに向いたものとなってきている。ネットソンデ付き単船曳網方式中層トロールはかなり小型のサイドトローラーでも操業可能であるとシェルフは指摘しているが現在使用されているような大型の漁具はスターン式トローラーの方がずっと扱い易いと思われる。」
この文献は1972年(昭和47年)のものである。現在ヨーロッパで建造されている多目的船は技術革新が進み、その効率性、生産性は高い。一方、中層の浮魚操業では、いわゆるポンプ漁法がトロール漁法に組みこまれ投揚網作業や製品処理作業の点で、労力の軽減化、省力化、省人化が図られており、大衆魚のサバを漁獲してその商品を日本に輸出しても採算がとれるシステムが開発されているのだ。そのイノベーション(技術革新)された操業システムと資源管理のシステムが東南アジア、中国にまで普及してきていることは先述した通りだ。効率経営に徹している漁業立国アイスランドはマルチ・パーパスが主力となっている。このことは後述する。
4 技術革新はどのようにして行われたか
技術革新を最初に起こした国はノルウェーであることは推測できる。スペイン・フランス・アイスランドが1993年頃終了。その後デンマーク・ドイツ・オランダがこれに続いた。その詳細を把握することは容易でない。新しい技術は各国とも機密にするのが当然だからだ。幸いにして、1993年にヨーロッパ漁業調査団に参加の機会をえたので、その状況をつぶさに目にし、貴重な資料を入手することができた。このイノベーションはヨーロッパの漁船漁業の技術の歴史において、第3次技術革新といえる。世界の漁業は新秩序をむかえている。旧秩序から新秩序に入る場合、技術革新を迎えるのが古今東西を問わず世の常だ。その事例を紹介していく。
『HALIOSプロジェクト』
これはEUREKAプロジェクト、EU-99の中のロボティクス部門の漁船漁業版である。その前にEUREKA(ユーレカ)計画について説明しよう。「このプロジェクトは1985年フランスのミッテラン大統領の提唱により発足した欧州先端技術共同研究体のことである。ヨーロッパではアメリカや日本に追いつくために、ジェシー計画、ユーレカ計画、エスプリ計画、ヴィジョン1250など全欧規模の努力が進行中だ。どの計画も主要産業におけるヨーロッパ企業の競争力強化が目標だ。ヨーロッパ各国の政府はGNPの1.75パーセント(イギリス)ないし5.5パーセント(イタリア)を自国産業の育成に投入している。アメリカがドイツなみ(GNPの2.5パーセント)の割合で産業の援助育成に投入するとしたら、1990年で1,400億ドル以上になる。(レスター・サロー著『大接戦』)
ヨーロッパでの漁船漁業の技術革新のコンセプトは①生産性②効率性③安全性④国際競争力⑤責任ある漁業となっている。このプロジェクトは漁船ならびに漁業技術などの全面見直しで、選択漁法や新しい安全・衛生基準が組み込まれるようになっている。どこまで目標を達成したかは定かではないが、アフリカをはじめとした諸外国への漁船などの輸出状況から判断すると、その実績が認められた証左になる。これからの日米欧の国際競争のクライテリアン(基準)は安全、衛生と環境だと言われてきている。そうだとすればこの技術革新でハードルが高くなったことになる。ハードルを超えられない技術は失格となる。言葉をかえれば非関税障壁だ。このプロジェクトの結果は加盟各国に提示されることになっている。ヨーロッパ各国への技術の普及は早い。やがて漁船の安全衛生基準は国際化となり条約化されていくことが予想される。その時日本は対応していけるだろうか。「昔から貿易のルールは最大の市場へのアクセスをコントロールする者が決めてきた。その市場でモノを売ることがどうしても必要ならば、決められたルールに従うしかない。19世紀には大英帝国がルールを定め、20世紀にはアメリカ合衆国がルールをつくった。世界最大の市場を持つ者としてヨーロッパが21世紀の貿易ルールを書くのは当然だ。世界のほかの国々はヨーロッパのルールに従って競争に参加する以外に選ぶべき道はない。」とレスター・サローはその著『大接戦』で述べている。
HALOSプロジェクトの概要を説明する。
漁業は伝統的な家内産業から高い経済的な負担を必要とするグローバルな企業まで多岐にわたっている。最近では船上で使用される技術がますます機能的となり、資本を必要としてきた。しかしなら新しくかつ高度な自動化情報システムの技術を採用することにより、この分野でさらに急激な変化が予想される。このようなことからHALIOSと名づけられたEU-99が計画された。
HALIOSはEUREKAプロジェクトの中にあり、異なった技術を有する専門家が最高水準の相乗効果を発揮できるよう一同に会している。スペインはヨーロッパ最大の漁業国であり漁船建造国の一つであるので、数々の専門家を擁している。プロジェクトのイニシャチブをスペインに与えたフランスはハイテク分野で優れておりこの分野で貢献する。アイスランドは広範な漁業経営を有しており、漁業活動の分野で参加。
・スペイン
海洋分野の研究機関が協力。造船所、漁船建造関連業者、漁船設備製造業者、行政の代表が株主として参加。
・フランス
海洋資源の調査開発の技術ではヨーロッパで一流といわれている海洋調査開発機関のIFREMERがあたる。
・アイスランド
漁業を促進管理する組織ァイスランド産業連盟(FII)が加わっている。アイスランドの漁業は輸出が75パーセントを占めている。
このプロジェクトの計画期間は5年間で3つの段階に分かれ、第1第2段階はすでに進行中で設備システムの設計と開発に関わっている。1990年から1993年迄の第3段階で、プロトタイプ船が建造され、すべての船上技術テストが行われる。このプロジェクトで行われているR&Dの特別の目標のひとつは魚の処理と船上加工のオートメーション・システムの設計。これには魚の選別や衛生状態の管理も含んでいる。この分野は通常難しい条件のもとで高水準の労働が主体となっていたの、これまでオートメーション・システムが、ほとんど導入されていなかった。オートメーション・システムは加工ラインでコストを節減し、経済効率の改善や魚の質の向上をはかることになる。漁具漁法の自動化の導入は遅れている。HALOSはロボットを充分活用することにより、より速くより弾力的なシステムを開発していくことになる。自動化を導入する他の分野は保存と保管、漁獲物の積付け、揚げ荷である。現在、大きなエリアで氷蔵、凍結パックとなっているが、このシステムでは魚の質の低下を招く。陸上の製造業と同様に短時間で漁獲物が自動的にコンテナまたは凍結され保管されることになれば、長期間鮮度を保つことができ損失を削減することができる。
積付け、揚げ荷、船内の消毒も人手で行われている。ここでも自動化システムが導入できれば、経費を削減し退屈な仕事から解放されることになる。他の新しい技術もこの計画のもとで開発されている。たとえば情報とコントロールシステムで、すべての船上の情報と特殊な自動操作を集中する中央プロセス・システムの設置である。コンピュータ・システムは船橋から機関室までのあらゆる情報をコントロールし、効率性を向上させる。探知と位置のシステムも改善されてきている。水深400メートルで、ごく小さい魚を測定できる新しいエコー・サウンダーの設計やカラー・スクリーンのディスプレイが製造されてきている。海底のパナロマ化、岩と魚群の区別もできることになる。必要としない魚種や保護すべき魚種を減らすことにもなり、経済的、環境的な利益も享受することになってくる。漁業は最新のナビゲーション、通信システムで行われることになり、安全基準と同様、文書や会話のコミュニケーションの改善となる。これらすべてのファクターが結合することにより、省力、省エネがはかられ、効率性を向上させることになる。乗組員と船の快適性や安全性の改善に役立つ。
HALIOSはトロール船の船型の定義づけや最適性の検討を指示しているほかサブ・プロジェクトも構成されている。
(HALIOSプロジェクトの具体的内容)
(イ)プロジェクトのタイトル
・HALIOSプロジェクト
・未来型漁船の技術開発
(ロ)プロジェクトの段階
・A段階 —— 設備とシステムの技術開発
・B段階 —— 上記の設備とシステムの海上での試運転、適格性とテスト
・C段階 —— 設計技術の開発、シップ・プロジェクト、プロトタイプの建造
(ハ)参加国と団体
・スペイン
A, B, C —— SOERMAR
・フランス
A, B —— IFREMER
C —— CMN
・アイスランド
A, B —— F.I.I
・これらの同体は管理と調整を監督する責任を有する。
・国際的な協力をスムーズにするため、各国の団体から提出された案件をサポートする。
・供与や借かんを得る手続きを容易にする。
(ニ)スペインのほかの協力組織
・工業、エネルギー省
・農業、漁業、食糧省
・漁船の設備、金属などの製造業の連合体
・中小企業造船界
・漁業者 ペスカノバ社、中規模漁業者
(ホ)期間と資金
・A+B 1988-91 2,600万ECU。
・C 1989-93 3,600万ECU。
(へ)各国負担割合
・スペイン 57パーセント
・フランス 38パーセント
・アイスランド 5パーセント
(ト)技術開発目標
・A+B段階
これらの段階は定義、設計、開発、システムのテストと認可
・第1分野 —— 船上データ・プロセシング
この分野の目的は船上情報の集中システムによって得られたデータのプロセシングや提示。船上で生じたデータと情報の量は非常に広範囲にわたっているので、最終データにするには経費もかかり複雑なシステムとなってくる。そのため漁船の特別な機能に関わる特殊な情報の整理を研究する。
・市場に参入しやすくするため、異なった開発段階で市場で了承をえられるシステムの可能性を検討する。
・第2分野 —— 深知と位置のシステム
・魚群の深知で魚種の区別ができていない。一方船舶は曳網する海底の状態を完全に把握していない。
・技術・手段・探知のシステム・位置・魚の認識など必要性をカバーしていく。
・第3分野 —— 航法と通信システム
・この分野の技術は漁業分野にのみ応用されることではないが、非常にダイナミックなものとなる。
・今日、船舶の判断を援助する諸条件はあまり整備されていない。
・漁船の特殊性に適応したシステムの開発。
・口頭と会話の通信手段の改善。
・操業中の船舶の安全性を改善する諸設備の開発。
・第4分野 —— 漁業技術
・漁具漁法の自動操作システムは現在存在していない。漁具の操作はほとんど人手によるところが多い。荒天時の場合、特に困難な事態に直面し事故故障の発生をみている。
・漁撈作業と漁撈機器(ウインチ・ケーブル・漁具・オッターボード・漁撈甲板)の自動化と最適化。
・新しい素材の使用により、操作をより容易にかつ安全な配置と悪天候時の漁撈作業の問題の解決への試み。
・第5分野 —— 船上加工と処理
・魚の選別と加工は困難な労働環境の中で多くの労働力を必要としている。別の問題として、市場における需要の変化や漁場の不安定さがこの分野に存在している。魚の選別と加工の自動化、魚の衛生状態、鮮度の改善、新漁場に適応した船上システムの開発。
・利用されない漁獲物や副産物から利益を享受することは漁船の収益の増加につながる。
・第6分野 —— 保存、保管、積付け、荷揚げ。
・保存は氷蔵または凍結による。バルクでの保管が広まっているがしばしば魚の品質を低下させている。
・積付け、荷揚げは人手によるところが多い。ランニングコストを増加する要因となっている。
・この分野で提案されていることは、
・バルクを含む魚の保存保管の自動化
・可能な限りのコンテナの標準化
・凍結装置・製氷装置の動揺防止小型化
・氷・層・不衛生なものを吸引することにより艙内の清浄化
・第7分野 —— 省エネ、推進力
・洋上でのエネルギーの管理は適正化からほど遠い。異なった船の運転状況から消費を減少させる設備とシステムの開発。
・単一の問題として、・欠陥のある保護システムの改善・振動の減少・船尾シャフトの充分な保護がある。
・第8分野 —— 船舶と乗組員の安全
・船の複雑性により発生した事故や遭難
・事故原因のシステマティックな分析が船舶の設計建造運航の段階で充分に考慮に入れられていない。
・一方漁船の現在の状況では多くの労働事故を起こしている。漁船と乗組員の安全因子の自動化した管理が適していると考えられる。
・第9分野 —— 居住性と人間工学
・漁船の福利厚生は他の船舶の基準にはほど遠い。
・居住性と労働環境 —— 騒音、振動、広さ、照明、キャビン、職場の人間工学的基準の使用。
・以上のことは、HALIOSプロトタイプ船で再提示された類似船舶に応用する。サブプロジェクトだけで検討することなく、他の用途の漁船の適用も検討する。
・C段階
・この最後のプロジェクトは船舶の特別な設計技術の開発にある。共同製作のプロジェクト、建造のプロジェクト、原則的には三つのプロトタイプ船のプロジェクトから成る。この段階では主に船舶技術研究所、造船所、船舶所有者が主に関係してくる。
・この段階の対象は
・プロトタイプHALIOS船に代表される漁船船種の定義づけ。
・プロトタイプ船の定義づけ —— 原則的に三つのタイプ
・将来の漁船がプロジェクトに組み込まれることになっている設計技術の開発は定義された漁船を優先する。
・数隻のプロトタイプ船の建造。
(チ)EUREKA各国の企業との協力
EUREKA各国の各企業との技術的な協力を奨励する。
(リ)サブプロジェクト提案の手続き —— 略
(ヌ)提案評価への資格基準 —— 略
(ル)資金 —— 略
以上がHALIOSプロジェクトの具体的内容である。このことに関連して、F.N.I.は1993年7月に次のような報道をしている。
『スペイン、ガリシア州、全漁船の再構築』
「スペイン最大の漁業地域北西部ガリシア州は17,000隻(250万馬力)を有している。南北両大西洋で操業している遠洋漁船から沿岸の小型漁船まで多岐にわたっている。しかしこれらの漁船に従事している30,000名の漁業者にとっても時代の変化はあまりにも早い。ガリシア州の漁業省はその地域のおよそ8,000隻の全漁船をスクラップにし、およそ3,000隻の新しい“より大型で安全性の高い”漁船にリプレイスする計画を発表。この10年計画の全コストは13億5,700万ドル。
「私たちの提案していることは全船を更新することだ。私達は現在の漁船が非経済的で安全性が低ので、更新しなければならないと考えている。」とガリシア州漁業長官の談。漁船の更新は今後10年間で、7,839隻から3,032隻に削減する合理化計画と一体のものだ。このことにより非常に効率性の高い船をもつことになり、競争への道を開いていく。この全船をリプレイスするプログラムは、漁業省発行の874ページのレポート『ガリシア州の漁業と漁業資源の計画』の中に表わされている。この計画では、「現在の166,287GRTが138,963GRTに減少することになる。建造資金の調達は補助金総額を60パーセントとし、ガリシア州政府15パーセント、マドリッド中央政府10パーセント、EC35パーセントを予定している。」
HALOS計画が完了し、プロトタイプの漁船が建造されたあと先述の計画に入っていくことになるわけだが、この計画が軌道にのっているのか、またECの35パーセントの建造補助金が予定通り支払われたのか気になるところだ。残念ながらその後報道が途絶えている。しかし、この新しい技術がEC各国に紹介されていることは、1993年9月のF.N.I.が伝えた。
「ECとEC域外の各企業間の新しい技術革新と技術を奨励する目的で、9月のアイスランド・フィッシャリーズ・エキシビションに先立って、レイキャビックで技術フォーラムが開催されている。このイベントは新方式の漁法、操作、加工というシーフードのマーケティングを開発するECのHALIOS計画(EUREKA計画)の後援で企画されている。
革新的な漁業装置はすでにこのプロジェクトから結果がでており、いくつかの国で販売されてきている。たとえば、開発試験のための資金を用いたアイスランドのK社は内臓除去機械を開発。一方スペインの一社は深海トローラー用のウインチを開発した。全体のプロジェクトはオランダ、スペイン、ノルウェー、フランス、トルコ、アイルランド、スウェーデン、デンマーク、英国、ポルトガル、アイスランド、ハンガリーの共同計画だ。このイベントは潜在的なヨーロッパのビジネスや漁業技術の分野で研究開発関係者に会合できるチャンスを与え、この期間中に少なくとも12ヶ国の営業担当や専門の研究者と会うことができる。」
そして、デンマークも本格的なプロジェクトを組み『未来型漁船』建造にむかっている。デンマークは未来型漁船を究極の漁船と自負している。各国への売り込みにも力を入れている。ベトナムがその例だ。その状況を、1994年2月のF.N.I.が報道した。
「Fiskeskib 2000(漁船2000)は産業界、政府、EUの未来型漁船へ向けての青写真の共同開発計画で、各船舶は近代化に再スタート。一方このプロジェクトは国際市場に開発パックとして最終商品を販売することを目的としている。研究者は現在、船の設計、漁具漁法、漁撈機械、魚の処理、エレクトロニクスなどを研究中。それぞれの研究は来年プールされ、30〜35メートルクラスの多目的プロトタイプ船がトライアルする予定。しかしプロトタイプはテストシップではない。Fiskeskibは株式会社であり、開発ローンの資格を有しているので、コンセプトがバイヤーをひきつけるマーケティングの手段として船を活用する。ローン返済は8年から10年かかるだろう。EU資金が地域基金を経由して入ってくる。参加企業体はエンジンメーカー、研究機関、銀行、漁業会社、造船所などとなっている。青写真では異なった漁法をカバーするようになっている。集中コントロールシステムが開発された段階で情報をアクセスするので、スキッパーはコンピューター・ターミナルのみを必要とする。このシステムは船上の機械類を監視し、航海中や操業中の特殊な行動に対しては独特の情報を提供する。操業経費や漁獲物の価格評価のような長期間の活動も計算する仕組みになっている。現在開発段階だが、一年以内に建造する予定。
(オランダの取組)
オランダはユニークな取組をしている。そのことを、F.N.(1994年5月25日)が報じている。
『オランダ調査研究を民営化』
オランダの漁業調査は主として漁業調査機関(RIVO DLO)と農業経済調査機(LEI-DLO)が実施しているが、現在民営化に向けて進行中。ほとんどの調査はDLOによって行われその経費は漁業省がファイナンスしている。しかし、ほかと契約した収益源からも収入があり予算の一部となっている。国内的、国際的な他の調査機関とも協力体制を敷いている。「収益のあがる漁業が水産政策の重要な部分である。」とDLOの談。
調査機関の重要な役割は、漁業分野の維持の可能性と継続性の要素に加えて、全体的な生態系の保護を保証することにある。ここ2〜3年は漁業と自然の機能との関係を研究していくことになる。クォータ制はオランダ漁業分野の収益をかなり圧迫してきているが、このクォータ制がなければ、ある魚種の漁業は不可能となることがわかってきているから不平は少ない。ある魚種の個体群の成長過程を管理し、予測するためには、漁業と海洋生物の生態系に関心を払わねばならない。シミュレーション・モデルは漁業と環境の中に示される可能な漁獲結果を論証する方向に進展してきている。たとえば、ある年齢の魚のみを漁獲し、漁業環境をやわらげることも重要である。海底の環境が底曳によって傷めつけられたり、バイキャッチにより多くの非商業魚や他の海洋生物が必要もなく殺されている。これらをどのようにして少なくするかということだが、あらゆる分野に研究不足がみられる。
(ノルウェーの漁業政策)
ノルウェーは漁船漁業と栽培漁業の両者を国家的な基礎におき、特に地域的背景を考慮に入れ重要な部門として位置づけている。
その主要業務は、
①資源保護
②沿岸定住者の維持
③雇用の維持
④経済効率制の促進
となっている。
1990年代の初め、漁業は過剰船舶数と低水準のクォータに特徴づけられ、沿岸ぞいに漁業に依存する多数の漁業と地域社会に経済問題をひき起こした。しかし情勢は主要資源の再構築により、現在改善されてきている。バレンツ海で1992年のコッドのクォータは、1991年の全漁獲に比較して25パーセントアップとなった。1993年も25パーセント増加した。1986年から1991年までのバレンツ海のシシャモ漁業の禁止により資源も改善された。シシャモ漁業は1991年から再開を許可したがシシャモを餌とするニシンとコッドの資源が増加したため、再び保護とした。漁獲努力や漁獲行動の制限はこれまでにも満足すべき水準までに過剰能力を減らすことができなかった。過去に経験した数種の魚種の厳しい資源状態が私達に教訓を与えた。資源状態が改善されるにつれて当局が漁業のクォータ増のプレッシャーに耐えたことが重要なことである。漁業の可能性や将来の世代の雇用の確保のため厳しい管理を追及しなければならない。数年以内に当局は、水産業の収益性の改善に主要な措置をおいた安全な資源管理政策と過疎地の雇用の確保に検討を加えていく。この背景にあるものは、当局が多種多様な管理システムを課していくうえにおいて、更に進展させることを目的としている。・・・以上は『ノルウェー漁業政策 —— 1993年8月23日』の抜粋である。
ノルウェーの教育訓練と研究調査は充実している。「トロンダイムにある漁業調査委員会とベルゲンにある海洋調査機関が漁業調査に関する漁業省の諸問題の諮問機関である。委員会はノルウェーの漁船漁業と養殖漁業の調査の協力機関でトロムソの機関も同様である。1992年4億NOKが漁業と養殖調査に助成された。委員会は海洋資源と環境の管理ならびに産業の発展を促進する研究調査に重大な役割を果たしている。現在4年間にわたる長期漁業調査研究計画を実施中。海洋研究機関は主として、・沿岸と海の環境・魚資源とほかの海洋生物・栽培漁業と海洋牧場の調査に関わっている。この機関は三つのセンターに分かれている。
・海洋環境センター
・海洋資源センター
・養殖センター
ノルウェーの漁業調査研究は、海洋資源、魚の健康状態と栄養状態、漁業技術、産業開発、商取引の問題、魚のマーケティングなど広範な分野を擁している。漁業に関する教育と訓練は沿岸地方のいくつかの高校で、水産科学の高い教育は海事単科大で行われている。水産科学の学士号はトロムソの水産科学大で取得できる。」
また『ノルウェー貿易委員会』は漁業技術などについて次の説明をしている。
「クォータ制を実施した世界で最初の国のひとつとして、ノルウェーの漁船漁具などの供給は、10年前から『責任ある漁業』をコンセプトにして取り組んできている。ノルウェーはヨーロッパ最大の漁業国であり、また世界で最も効率的な国のひとつでもある。具体的には国際的な同型船と比較しても、乗組員数は2分の1程度となっている。本来漁獲効率を改善するために設計した技術が、今では、海洋資源を研究している研究者にとって重要な資産となってきた。新しい研究分野は、魚の大きさや魚種を選択する漁法の開発を促進させた。小さな魚を保護する方法や装置を使用することにより、将来のクォータの減少を防止するのを手助けすることとなった。1970年代、80年代の調査研究が、現在ではさらに質の高いものとなり継続されてきている。漁業調査委員会の1993年の予算は、500万ドルで1991年の使用額の2倍となっている。最新鋭のリサーチ・シップに設備しているシムラッド社のエコー・サウンダーの最新の世代は魚の大きさを知ることができるだけでなく、方向と速度もわかる。その結果、明日の漁業者は一層の選択性を可能にするだけでなく、更に深部の新しい資源(以前には漁獲困難な海域)を開発することが可能になってくる。選択漁法を目的としたほかの成果は、ソート-Xシステムである。これは、研究機関、水産科学大、漁業者、漁具製造者の協力の結果である。このシステムは、厳しい網目で傷を負いながら抜けていく方法ではなく、小さな魚を急速に逃げさせていく方法だ。(トロール網に入った魚をソートする格子を使用している。)造船界と漁業界との結合が両産業に大きな利益を与えてきている。国内漁船の設計者は複雑な技術を装備した漁船を製造することで有名になってきた。これらの漁船は悪天候のもとでも操業をしている。世界中の漁業者は、航法、操船、推進力、甲板上の漁携作業および乗組員の安全のための技術などの分野で、ノルウェーの専門家から指導を受け利益を享受している。最近では、造船業者と漁具などの製造業者は「環境にやさしい船」の開発に重要な役割を果たしてきている。これは「責任ある漁業」の重要な部分である。1993年の調査研究委員会は「環境にやさしい船」の調査研究に1,600万ドルを指定した。」
ノルウェーには、以上の研究機関、組織とは別に世界中にマリン・テクノロジーのR&Dのサービスを行っている『Marintek(The Norwegian Marine Technology Research Institute)』というのがある。この機関はヨーロッパ最大の契約研究機関、SINTEFグループの中にあり独立している。海洋調査研究では40年以上の経験を有している。
5 発展途上国、後進国へ新技術が普及する
開発された新技術は商品となり世界各国に普及している。日本の漁業関係者では一部の人を除いてほとんど知られていない。そのような状況を知らないから、いまだに一流だ一流だと思い続けている。よく考えたらこっけいな話だ。そのからくりは簡単だ。日本を除く世界各地で展示会や技術会議がほとんど毎月行われている。F.N.I.(1995年7月)によるとそのイベントは次のとおりだ。
・1995・7〜8
・パン・アフリカン漁業エキシビジョンと会議 —— ケニア・ナイロビ
・40回大西洋漁業会議 —— カナダ
・1995・9
・バイ・キャッチの減少と環境の影響の研修会
・フィッシュ・エキスポ —— シアトル
・エキシビション —— FA050周年記念行事 —— ケベック
・ツナ1995 —— マニラ
・1995・11
・パシフィック・フィッシング1995
・フィッシュ・アフリカ1995
世界各国(主としてヨーロッパ)の最新の技術の紹介。高品質の商品の展示。
・1995・3〜6
・フィッシング1996 —— アバディーン
・フィッシング1996 —— ドイツ
・第2回世界漁業会議
テーマ:世界漁業資源の開発と維持
・1996・9〜11
・アイスランド漁業エキシビション
・海洋の生態系でのの捕食魚の役割に関する国際シンポジューム。
なぜか、日本では国際食品展を除いてこのような会議などは開催されていない。漁業関係の技術知識情報については鎖国状態が続いている。ここで「なぜ、大衆魚のサバが遠いノルウェー・アイスランドあたりから日本へ輸出して収支が見合うのか」ということを考えてみよう。円高だから、コストが安いだけでは単純だ。これまでの調査研究から次のことがわかる。
・産官民で漁船漁業の技術研究が常時行われている。
・その結果、漁船はもちろんのこと漁具その他のコストダウンがはかられている。
・自動化、省エネ化、省人化、多能化、マニュアル化が進んでいる。人件費のコストダウンが著しい。多能化というのは甲板部機関部の別をなくすということで、技術水準が高いということだ。マニュアル化は自動化が進めば必要になってくる。航空機を想像するとよい。
・技術革新が行われれば、トレーニングをしなければならない。操船、操業、保守点検のシミュレーター訓練で技術向上をはかっている。
・操業にムダが少なくなってきている。魚の生態と行動の研究が進んでおり、魚群を探知把握する技術水準も高い。
・海洋の研究も進んでおり、漁場を高いレベルで知りつくしている。
・漁船はマルチ・パーパスが主力となっているから効率性が高い。表中層曳の技術水準は世界をリードしている。
・発達している表中層曳きと深海操業技術によって新魚種(クォータ外)の別途漁獲が可能となり、コストダウンが図られている。
・新しく開発した技術も商品となって、他国に売られていくことによりコストダウンとなる。資源管理技術も他国に売ろうとしているのだから、すごいにつきる。
・漁船建造にも補助金を出している国が多い。
・販売システムもコンピュータ化された入札システムを導入することにより、流通経費を大幅にダウンさせている。
・マーケティングに対しても国が強力に支援し、官民一体となって実施している。
私の知っている限りでは、大体以上だ。少なくともノルウェー・スペイン・アイスランドでは外国人を乗り組ませていない。その他EU各国もおそらく同様だろう。標準化、マニュアル化を実施してゆくには、国内はもちろんのことEU域内の水産漁業に関する用語が統一されていなければならない。日本では各地区でさえ漁業用語が異なっている。簡単にはマニュアル化はできない。マルチ・パーパスというのは、ょい例えではないかもしれないが、農業でいうと米も麦も野菜も作ってよろしいということで特別なことではない。なぜか日本では導入する気配すらない。私は以前アルゼンチン沖に出漁するトロール船にイカ釣り機を設置したらどうかと提案したら、担当者から即座に許可がでない言われた。その後許可されたそうだが、日本の200マイル外でこの調子だからマルチ・パーパスは効率性が高いといっても実現性は薄い。その結果、効率性の高い国の魚が日本に入ってきて、日本の漁業者は苦しめられるばかりとなっている。皮肉なことだ。魚は国際商品だということを忘れているのでは。ノルウェーのサパは、今は円高だから国際競争力の強い点はわかる。それにしてもどの位の円安まで競争力があるのだろうか。まるで日本の自動車業界のようだ。
1992年9月、F.N.I.は『台湾 —— 全自動化のトロール操業の調査船』を報道、「台湾の新調査船はボタンを押しさえすれば魚をとることができる。この船はラップ・ハイデマA/S.ICS-4000インテグレイティッド、キャッチ・システムを搭載した最初の船。ノルウェーは昨年ICS-4000を世に出したが、これはウインチコントロール、エンジン回転、プロペラピッチ、サテライト・ナビゲーション、自動操舵魚群探知システム、トロールギア、ポジショニング・システムなどを備えている。大魚群が記録されるとICS-4000は最も多い漁獲が見込まれる魚群を選択し漁獲を行うべきか否かを船長に指示を求める」というものだ。この調査船のトロールウインチワープは3,000メートルとなっている。水深1,500メートルまでは操業可能。台湾はどこを調査しようと考えているのか。
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