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ラヴクラフト好きなら観るべし。「アルカディア」は「ミスト」を超えたか?

ラヴクラフトのクトゥルフ神話を引用した作品は数あれど、構造や設定をしっかりと組み込んだ映画となれば西の横綱「ミスト」(フランク・ダラボン2007年)東の横綱「崖の上のポニョ」(宮崎駿2008年)をおいてほかになかろう。「なかろう」と言ったのは単に私がクトゥルフ神話に明るくないからだ。何かしらの理由で垣根が壊れて異界のなにかが現世にあふれ出てくるというのが基本で、前者は軍が行った異界を覗く窓実験が暴走した結果百鬼夜行が現出、後者の場合は異界=海としており、きっかけはポニョの脱走である。ネット上では従前ポニョのキャラクターが諸星大二郎栞と紙魚子」に出てくるクトゥルーちゃんとかぶる、パクリではないのか!と糾弾する声もあるわけです。クトゥルーちゃんは名前の通りクトゥルフ神話を下敷きにしていることは当たり前なのだが、その昔諸星さんが宮さんに会っていることは「高橋葉介 怪奇幻想マンガの第一人者」 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)で私確認済みなので、互いに作品を意識していることは間違いない。前置きがずいぶん長くなったが、「アルカディア」(ジャスティン・ベンソン、アーロン・ムーアヘッド 2017年)を昨晩観た。異界(むこうがわ)が現世(こちらがわ)にはみ出してくるという常套を捨てて、よせばいいのに主人公たちが向こう側へ出かけて行く構成。ところがこの映画、いらんところに出かけて行って怪人や怪物の餌食になる凡百のホラーものとは大きく異なる。主人公は兄弟(あに・おとうと)の天涯孤独な二人きりで、10年前にどこかの森の中にあるカルト集団キャンプから逃げ出してきたものの人付き合いが下手でどうにも貧乏。しっかりものの兄は弟に過剰なくらい、それはそれは支配的にふるまうこともあって、日常に不満を持つ弟は、懐かしく美化されたカルト集団が暮らすキャンプに挨拶がてら出掛けたい、と懇願する。で、出かけた先が実は異界だったという・・・。ジャンル分けするならSFホラーサスペンスとなりましょうか。どこにも出かけられないこの週末いかがでしょうか?


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