見出し画像

なぜ送料を負担してまで、他人にパクチーを送るのか #パクチー育てる89日間国民運動

パクチーの種、さしあげます。5月13日から8月9日の89日間、「パクチー育てる」89日間国民運動を実施している。昨年に引き続き2回目。

種の配布を始める

「パクチー銀行」を2007年1月1日に始めた。日本パクチー狂会の設立(2005年)当初から、パクチーの種をほしい方に渡し、育てる人を増やす努力をしてきた。最初の種は怪しいおぢさん(mixiのハンドルネーム=ケララの風モーニングオーナーの沼尻さん)から受け継いだ。

受け継いだ、というのは怪しいおぢさんがmixi上で「100名にパクチーの種をさしあげます」というキャンペーンをやっていて、その発送作業を僕がやることになったという意味だ。切手を貼った封筒を送ると、そこに種を入れて返してくれるというやり方をしていた。最初は僕もそれで種をもらったうちの1人。mixiのさまざまな投稿を見ていると、返送作業は面倒な様子だった。

種をいただいたことへの感謝と、日本パクチー狂会を名乗り始めた人間としての勝手な責任感から、その作業をボランティアで引き継ごうと思った。怪しいおぢさんに連絡し、100人分の種を受け取った。

種の返送作業は、思ったよりもずっと面倒だった(!)。しかも、種を送ってもほとんど反応が見えない。パクチーが日本のどこかで育っているシーンを心の中に思い描くのだが、当時の僕はまだ修行が足りなかった。100人中3人ほどしか「その後」の状況をお知らせしてくれないことを嘆いていた。

ノーベル平和賞

パクチーの種の配布を始めて1年半ぐらい経った2006年末、バングラデシュのムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞した。グラミン銀行という、貧者の銀行を立ち上げ、一般の銀行が融資しない農村の女性に少額を貸すことで自立を促してきた。担保でなく信用で貸す。救われた人の数もすごいが、一般の銀行より返済率も高く(利益も高く)ビジネスを通じた社会課題の解決事例として際立ったものだった。

ノーベル平和賞の受賞スピーチを聞いて感銘を受けた僕は、グラミン銀行を超えるような銀行を作りたいと思いついた。信用で貸し付けもいいが、信用がなくても融資することができないだろうか。いっそのこと、返済の義務も無くしたらどうなるだろうか・・・。

その妄想がある日、パクチーの種の配布活動と結びついた。植物の種は数百倍・数万倍に増えるので、返してもらえなくても問題ない。というか、すでに1人が採った種を数百人に配布できている。返済の義務はないので、融資でなくプレゼントしているのと同義だが、「融資」「貸付」という言葉を使えばなんとなく負っている感を感じるかもしれない。

同量の種を返す必要はないが、パクチー普及活動に協力してくれる人が増えていくのではないかと予測を立てた。そして2007年1月1日に、パクチー銀行を設立した。

返したい気持ち

「パクチーの種あげるから栽培してね」

こういう言い方をして種を渡すと、栽培を始めない人が多い。パクチーを普及させたいから、みんなに種を配ってるんだろうなと思われるからだと思う。駅前で配っているティッシュペーパーのように、特にありがたみを感じないのかもしれない。鞄やポケットにしまったまま、その存在を忘れてしまう。

「パクチー銀行から種を融資します」

これはマジックワードだ。返済の義務がないにも関わらず、「返さねば」という心情が生まれる。融資する際に、種を返すことよりも、できたパクチーを美味しく食べるとか、栽培記録をSNSに書いてみるとか、パクチー料理を作ってみるとか、とにかくパクチーを楽しんでくださいと伝える。

このやり方をしてから、パクチーの種を受け取った方からの反応は飛躍的に増した。こちらに返ってくるものだけでなく、それぞれが友人や家族に個別に伝え、渡す事例も多いようで、それぞれが自分にできる範囲内で、気軽にパクチー普及活動を実行している。

支店も続々

パクチーハウス東京の店舗でも数えきれないほどの融資を実行した。また、自分で栽培するだけでなく、パクチー銀行の活動に参加したいという人もどんどん出てきている。現在、パクチー銀行の支店が全国にある。パクチーの種の配布や、パクチー栽培から種の採取、地域での普及活動などを行ってくれている。支店長は今の時点で全国に27人いる。

支店長たちは種の配布に積極的なだけでなく、本店やほかの支店のための種を用意してくれている人たちもいる。また、取れたてのパクチーでパクチー料理を食べる会などを企画して、各地域のパクチー度を上げてくれている。

やっぱりパクチー専門

COVID-19に関して緊急事態宣言が初めて発出され先の見えない不安感を一様に抱いていたころ、素敵なニュースを見た。タイで、「野菜を育てる国民運動」が推奨されているという内容だった。世の中がどうなるかわからない。輸出入が完全に止まるかもしれない。もしもの時のために、自分たちで食べるものを確保できるようにしておこう。漠然とした不安を煽る報道ばかりの日本のメディアに辟易としていたが、この、できることを推進していくという態度に感銘を受けたのだった。

同様の呼びかけをしたいと思ったが、農業や畑をやっているわけでもない僕が「野菜を作ろう」と呼びかけても説得力がない。また、やったことのない人にとってハードルが高い。いや、だからこそトライして状況を打破することが大切なのだが、今の日本の一般人にその点で火をつけるのはとても難しいと感じた。

僕の唯一の専門であるパクチーに絞れば、少しは心を動かす人がいるかもしれない。栽培期間も短いし、放置しておいても大抵は生えてくる。そう考えて、2020年4月某日、「パクチー育てる」89日間国民運動を発表した。

参加者求む

パクチーの種を渡す活動は随時やっているが、このキャンペーン中は送料すらこちらで負担することにした。1人でも多くの人に、栽培にトライしてほしいからだ。パクチーを普及させたいというのはこの16年の強い願いだから当然なのだが、植物栽培に楽しみを感じて、自力で食料を調達する喜びを体験してほしいからだ。

昨年は約200人に種を渡した。今年もすでに150人に種を送り、恵比寿(七福餃子楼)と松陰神社(コワーキング100works)に新しい支店ができたので、すでに昨年より多くの人に種が渡ったのではないかと思う。

申し込みはキャンペーン終了時までとしたので、パクチーの日までにこれを読んだ人はどうぞ国民運動に参加してください。

感謝

パクチー普及のための覚悟として送料も負担することにしているが、送料等実費支払いプラン・投げ銭プランでこのキャンペーンに賛同してくれる人も結構います。また、多くの方が暖かいコメント、栽培への期待など、コメントをくれるのでとても励みになっています。この場を借りて感謝申し上げます。



パクチー(P)コワーキング(C)ランニング(R)を愛する、PCR+ な旅人です。 鋸南(千葉県安房郡)と東京(主に世田谷と有楽町)を行き来しています。