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歌を上手に歌うなら。

「このタマゴにな、毎日お前の歌を聞かせてやれ。同じ曲はダメだ。毎日違う曲だぞ。手ェ抜いたらな、タマゴの中の奴は死んじまう。すぐには死なねぇ。ただ、お前の歌が毒なら死ぬ。こいつはお前の歌を喰って育つ。感情をそのままぶつけるな。ちゃんと食いやすく料理してやれ。上っ面のテクニックでうまくやろうとするな。調味料みたいなもんだ、加減しろ。じゃーな、うまくやれよ。」

頭が痛い。んで、吐きそうだ。完全な二日酔い。そして、目の前に白い玉子。高さは15センチくらいで、普通のタマゴより、デカい。あと、吐きそう。
・・・
吐いて、口をゆすぎ、着替えて、タマゴの前に座る。なんで、こうなった。

昨日は路上で歌って、いつもの居酒屋に行った。話しかけてきたおっさんに、メジャーになりたい、女の子にキャーキャー言われたいみたいなこと愚痴って…コイツを渡されたんだ。歌を喰う、だっけ。思い出してきた。よし、歌ってみるか。

・・・・・・

あれから1年。俺は言われた通りにしていた。毎日毎日、座布団に乗せたタマゴを前に部屋でライブ。おかげで、レパートリーがすごく増えた。しかし、かなり奇妙な光景だったと思う。色々あった。酔った勢いで歌ったら、すごい勢いで黒ずんで慌てたり、お気に入りの曲をなんとなく歌ってると気に入ったって感じでツヤが良くなった気がした。上手く歌ってやろうと頑張ったときに限って無反応だったこともあった。あれはショックだったな。

・・・・・・

「第5防衛線、突破されました!ユキトさん、お願いします!」
「おぅ、がんばってくるわ!」
俺は特製スーツを着て、ギターを持って、相棒の背に取り付けられたコクピットスペースに乗り込む。ヘルメットを被り、マイクのスイッチを入れる。
「さーて、今日も、きゃーきゃー言われようぜ!」
相棒はピィ!と高く鳴いて大空へ飛び上がる。今日もライブが始まる。化け物から東京を守るための、命がけのライブの幕開けだ。

to be continued...

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