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#94 柳美里「JR上野駅公園口」
1933年生まれの主人公は福島県相馬郡出身。東北に関心のある僕は、そういうところから本に興味を持ち読み始めることも多い。
全米図書賞という話題作でもあったが、あまり新刊にアンテナをはっていなかったので、読んだのは発売から少し時間が経った頃か。
手に入れた文庫本を読み進めるとそれはそれは暗く悲しい小説だった。
大好きな東北はどうも不当な扱いを受けることが多い。過激な言い方になるが、歴史的に見ると東北はまるで植民地なのかと疑いたくなるような時代もある。
東北から、東北本線や常磐線で東京を目指して降り立つ駅は上野駅だ。主人公も上京の際に上野駅に降り立ち、二度目にはそのまま帰るあてもなく上野恩賜公園でホームレスとなっている。
自由で平等なだけではどうしても救われない人が生まれる。それはその人が弱いからではなく、語弊を恐れずにいえば「運が悪かった」だけかもしれない。
それでも、「運が悪かった」というのはその人が何かを諦めなければいけない相応の理由にならないから、なんだかモヤモヤが残る。
かと言ってこれという打開策も見えないから、今こうしている時も屋根のない場所で朝を待つしかない人たちや、どうしても立ち上がれない人に思いを巡らせても、結局何をすることもできない。
日々苦しいことがあってもそれは本当に些細なことだと再確認できる。上を向いてもがける自分に与えられた環境に感謝して過ごすしかない。
ちなみに文庫本の解説、原武史さんの「天皇制の〈磁力〉をあぶり出す」は実に読み応えがある文章だった。少し落ち着いたらもう一度解説を読んでから小説本編を読もうと思う。
※追記
YouTubeのおすすめに急に出てきた柳美里×河合隼雄の対談動画。ゴールドラッシュという小説について語られている。
『ゴールドラッシュ』は「酒鬼薔薇聖斗」と名乗る少年が起こした児童連続殺人事件に関連して書かれた、これまた重たい小説のようだ。
「人は物語るために生まれる」
たしかに。本来生まれて死ぬまでの間の時間に意味なんてないはずなのに、言葉を使い、他者と比べ、人生の意味を考えてしまう。
意味づけをしないと生きていけないのが人生なら、悩むのも当たり前か。
自分の人生に意味づけを。
それが苦手な子どものサポートを。
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