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ルルドの奇跡

2月11日はルルドの聖母の祝日。
フランスの南部にある町ルルドは、カトリックの4大巡礼地のひとつであり、大変人気の場所となっています。


人気の聖地 ルルド

1858年2月11日、ルルドのマッサビエールの洞窟で、聖母マリアが少女ベルナデッタに初めて現れました。ベルナデッタへの一連のマリア出現は、その後教会当局によって神聖なものとして承認されましたが、聖母マリアの導きによってベルナデッタが見つけた湧水がその後多くの患者の病気を治したことで、ルルドは国際的な巡礼地となりました。

ルルドのハイシーズンは4月から10月。その期間は毎晩ロウソク行列が行われ、「あめのきさき」をうたいながら多くの巡礼者が広場を行進します。様々な国の言葉で歌い、’Ave Ave Ave Maria’の部分は皆が同じ歌詞をうたい、手に持つロウソクを天にむかってかかげる光の光景はなかなか感動的です。しかし強い風にあおられ、天にかざしたとたん一斉にろうそくの灯が消え、あわててまたお互いに火をつけあう…ということもよくあります。

聖母マリアがベルナデッタに初めて現れた2月11日は、いまは「ルルドの聖母の祝日」「世界病者の日」とされ、この日の前後は巡礼者も多くなり、オフシーズンながらロウソク行列も行われますが、2年前のこの日、ちょうどルルドを訪問しました。目的はただひとつ、「ルルドの水を持って帰る」ためでした。

ルルドの水の「奇跡」とは

病気を患うある方のために、私含め4名でルルドに行き、スーツケースに詰められる分の水をくみ、持って帰るという、数日間の旅をしました。ルルドの水自体に「病気を治す」成分が含まれているわけではないでしょう。しかし、信者ではなく、これまでどちらかというと宗教とは真逆の生き方をしていたその方がルルドの水に全面的に頼り、希望を託してくれたこと、私にとってはそれこそが奇跡でした。

水を汲みに行くまでのいきさつ

もともとの始まりは、その方の病気を知った直後に、たまたまルルドに添乗で行く機会があったことです。私はその方はルルドの水を渡すには嫌がるような気がしていたため、ロウソクに火をともし、祈るだけにとどめていました。すると私がルルドに行ったことを知ったご本人から、思いがけない言葉が発せられました。どうやら知り合いの信者の方からルルドの水の話を聞いたことがあったようで、「ルルドの水を、飲みたい」と。すでにルルドを後にしていた私は、ルルドの水を全く汲んでもいませんでした。そこでご一緒していたお客様に事情を話し、少しだけ水をわけていただくことになりました。ありがたいことにお客様は、マリア様の形をした入れ物とともに、大切なルルドの水を私に分けてくださいました。

帰国直後に病院へ直行し、治療が始まる直前に水を渡すことが間に合いました。それはそれは喜んで、無邪気に水を飲む様子をみながら、こんなに喜んでもらえるなら、もっとたくさん水を汲んできたいと思い…ということで、それから約1か月して、4人で水を汲みにでかけたというわけでした。

驚きの「ガムテープ再利用」

スーツケースいっぱいの量の水をくみ、戻った私たち。すぐに必要な分として、とりあえず500ミリリットル入りのペットボトルにいれたルルドの水は、空港から家族が病院に直行し、すぐに届けたそうでした。数日後、病院を訪ねた私に、その方がうれしそうに「ほら!」と見せてくれたものがありました。手には先日届けられた500ミリリットルのペットボトルが。側面にはガムテープがはられています。それは、水がこぼれないように口をしっかり封をするために貼っていた2本のガムテープ。その方はそれをはがし、捨てずにちょうど十字架のようにして、側面に「ガムテープの十字架」として貼っていたのでした。なんとなく照れ笑いをするその方の前で、私は思わず泣き笑いをしてしまった、そんな少しのどかな冬の病室でした。

マリア様とともに

しかしながら残念ながら病気の進行には勝てず、約半年後天に召されてしまいました。最期はもうルルドの水のことなどどうでもよくなってしまっていたのではないか、と思っていました。ところがその方の仕事場を拝見させてもらったところ、机の上に山積みになった書類や本に埋もれて、マリア様の形のルルドの水のいれものが立っているのをみつけたのです。最初にお客様から分けていただいたときに入れていた、その入れ物でした。ルルドの水は飲み切って、とっくに空になっていましたが、生きる望みを決して捨てずに仕事を続ける中、傍らにはさりげなくマリア様の姿があったその光景を想像し、思わず涙しました。

2月11日を前に、ルルドの水の奇跡の意味をあらためて思い起こしています。ルルドにまた行けるようになったら、皆様をご案内してきたい、とひそやかな決意を新たにいたしました。


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