見出し画像

知的財産法(2)••知財尊重三原則•パクリと言われないために

はじめに・・パクリ炎上の時代

インターネットの発達、SNSの発達により誰もが自身で情報発信できる時代となった。それに伴い、発信した情報がいわゆる「パクリ」と言われ、知的財産法(1) で紹介したように、SNSなどで炎上してしまうケースも多々見られる。

これら事件を見ると、炎上の原因として、知財リテラシー不足があることが多いことに気付かされる。

その一つ目は、創作側当事者に知財リテラシーが欠けていて、知的財産法に抵触した作品を作ってしまう場合、もう一つは、評価する側の公衆に知財リテラシーが欠けていて、単に似ているからと言って「パクリ」と評価してしまう場合である。

パクリ炎上が目立つようになったのは、ネット時代の特徴であり、容易に情報が得られ(模倣容易性の増進)、また、情報の対比も容易に行える(模倣評価の容易性の増進)ようになった所産であろう。その結果、公衆の目が厳しくなり、知的財産法に抵触する場合はもちろん、そうでなくとも、少しでも似ているとやれパクリだと騒がれるようになってしまっている。知財リテラシーの欠如を考慮したとしても、この点には注意しなければならない。

このような状況が、本来の知的財産法の目的を達成する上で良いのかは検討すべきであるが、事業を行う者がパクリ疑惑をかけられたとしたら、それだけでマイナスイメージとなってしまうので、ネット環境に身を置く者たちには、知財リテラシーを持って欲しいと思いつつも、法を遵守するだけでは避けられないパクリ疑惑を受けないような行為規範を自ら身につけなければならない時代である。

知財尊重三原則

このようなパクリ炎上の時代に、どのような心構えで創作に取り組めばよいだろうか。この点につき、筆者は知財三原則をというものを提唱している。

まず大前提として、人間の成長には模倣が欠かせないということ。

ここでいう模倣とは、ガブリエル・タルドが言うところの「それが意図されたものであるかないか、あるいは受動的なものであるか能動的なものであるかにかかわらず、精神間で生じる写真撮影のことである」

模倣の法則・ガブリエル・タルド:河出書房新社 p12

人が何かを創造するということは、ゼロからの創造はありえず、そこには、先人から伝えられたなんらかの情報がコピーされそれらの融合・組み合わせにより新しいものが生まれているのである。すなわち、創造とは既存知の組み合わせに他ならないのである。シュンペーターも次のように言う。

To produce other things, or the same things by a different method, means to combine these materials and forces differently・・・Development in our sense is then defined by the carrying out of new combinations.(Schumperter 1934,pp 65-66) 「他のものを創造すること、あるいは同じものを異なる方法で創造することは、これらの構成素材・影響要素を異なるやり方で組み合わせることである。いわゆる開発とは、新しい組合せを試みることにほかならない」

入山章栄:世界の経営学者はいま何を考えているのか 英知出版 p127

知的財産法は、このような人間の活動の中で、産業の発達や文化の発展を目的として、それらに貢献するために、模倣を時には制限し、時には許容する。そしてどちらが優先されるかというと、情報は原則的には自由に利用できるという立場であろう。パブリックドメイン、自由技術、模倣の自由という概念がそこにはある。その一方、産業の発達や文化の発展を阻害するような模倣行為はこれを排除するのである。

以上のように、人間の創作活動は、先人の知識、知恵を利用せざるを得ないのであるから、その利用には先人に対する敬意がなければならない。知財尊重三原則とはその敬意の表し方、リスペクトの仕方を示すものである。

第1の原則:礼を払う

他人の知識・知恵を借りたときは、その旨を宣言しよう。引用・参照したことを明示し、謝意を表する。

これは、著作権法では、「引用」という形で合法化されている。引用以外の方法でただ単に、他人の知識や知恵を利用しました、と宣言しただけでは法律違反になるので注意ですが、まずは、礼儀として、X氏創作のYという知識・作品を参考にしたとか、利用した、あるいは改良したとかを宣言するのは必要でしょう。

第2の原則:対価を支払う

これは智恵を買うということ。ロイヤリティを払って利用許可を得るということは、原作者に対する礼儀であり敬意の一つの表し方である。原作者などにコンタクトして利用許可を願い出ると、時には、無償で利用させてくれる場合もあろう。なお、利用不可と言われるかもしれないが、その時は、先人の意思を尊重し、利用はいさぎよくあきらめ、下記の第3の原則に従おう。

第3の原則:凌駕する

先人の知恵を凌駕する斬新な創造をする、ということ。プロ野球などで、あるチームから戦力外とされた選手が、別のチームに拾われ、古巣のチームと戦って勝利したとき、「古巣のチームに恩返しした」とか言われる。

参照した元の創作物に対し、それを超えた斬新な創作物が完成したとしたら、元の創作者はおそらく何も言えないだろうし、むしろ、喜ぶのではないだろうか。


パクり疑惑をかけられないために

まずは、上記の3つの原則を順守すれば、おそらく、知的財産法にあまり詳しくなくともパクリ疑惑は避けられるであろう。しかし、さらにリスクを低下させるには、知財リテラシーを向上させることが重要である。

noteでは、noteに参加しているクリエータへの助言として、創作を後押しする著作権の考え方 という記事を掲載しているので参考にされたい。noteでは、著作権法を主に説明しているが、創作は著作物に限るものではない。他の知的財産法にも興味を持っていただくことが望まれる。今後提供するこの知的財産法を読んでいただき、特許・実用新案・意匠・商標さなには不正競争防止法にも目を向け、知財リテラシーの向上に努めていただければ幸いである。

ピカソの作品で考える

画家として著名なピカソを知らない者はいないだろう。そのピカソについて、ピカソ 剽窃の論理 (ちくま学芸文庫) 高階 秀爾  (著)という本がある。そこに、ピカソの作品として、クラナッハによる婦人像というのが紹介されている。

画像1

カラー画像は、ここを参照ください。

この絵は、左のクラナッハによる夫人像のモチーフを抜き出し、自身の特徴ある表現手法で描き直した作品であり、ピカソは、先人へのオマージュ作品としてこの手の作品を多数制作している。

オマージュは、リスペクト(尊敬)や敬意のことをさし、 尊敬するアーティスト、その作品に影響を受けて、それに似た作品を発表することであるから、誰に対するオマージュなのかが明らかにされるなら、その時点で第1の原則:「礼を払う」を満たすので、パクリ炎上とはならない。パクリ炎上が起きてから、言い訳のように、本作品は原作品に対するオマージュだと述べる方がいるが、オマージュであるなら最初から原作者に対してのリスペクトは表示しなければならない。

では、クラナッハによるということを全く言及せずに、ネット時代の今日、この作品を発表したらどうであろうか。モチーフが似ていることから、SNS上では、パクったと言われる可能性は出て来よう。著作権法では、表現の模倣は許されないが、アイデアやモチーフの模倣は規制対象ではないので、著作権法上の問題はないとされたとしても、である。

ここが、現代のネット時代におけるリスクである。知財リテラシーが足りないぞ、というのは簡単だが、模倣への嫌悪感が増していることは必ずしも悪いことではないかもしれない。真似をしないという意識(タルドはこれを「反模倣」という)があれば、より創作的な作品ができることは間違いない。


最後に、ピカソの絵をもう一つ。アルジェの女たち。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?