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世界史漫才03:ソクラテス編

 苦:今回は古代ギリシアの哲学者ソクラテスです。
 微:うわ、哲学者か。警察の次にお近づきになりたくない職業だな。
 苦:紀元前469年頃に生まれ、哲学者というよりも、ソフィストと呼ばれた弁論教師たちと議論で戦ううちに、気がつけば哲学者の位置を占めていました。
 微:昔からいるんだよな、教師の言うことに突っかかったり、言葉尻を取り上げる奴って。
 苦:今の日本の学校でもなければ、中学生、高校生でもありません。ですが、ソクラテスはソフィストだけではなく、アテネの市民たちにも嫌われ、市民からなる弾劾裁判で死刑判決が下されます。
 微:やっぱ、裁判員制度は必要だな。日本はそれに気づくのに2500年近くかかったのか。
 苦:余計なボケはいいから。弟子たちが逃亡を勧めても同意しませんでした。またソクラテスを失うことが大きな損失であると、再審を弟子たちは要求しますが、3000人弾劾裁判所で却下されます。
 微:却下の理由について「個別の案件については答弁を差し控える」と言いまくったんだろ。
 微:この潔い態度をカジノ法案をゴリ押しの職権で成立させた秋元にも見習わせたいな。
 苦:それこそ21世紀の日本の話だよ! 紀元前399年4月27日にソクラテスは死刑になりました。
 微:その時の法務大臣は鳩山邦夫(故人)だったんだよね。「死刑執行は機械的にやろう」って。
 苦:官房長官も「粛々と行うだけ」と、ってそれも21世紀の日本の話だよ! なんでこっちまでボケなきゃいけないんだよ!
 微:いいじゃねえか、裁判記録の公文書管理者が改竄を強要されて自殺したわけじゃねえんだし。
 苦:しばらく21世紀日本から離れましょう。ただし処刑の方法は、すりおろした毒ニンジンの杯を飲み干すというものでした。平安初期の日本ならトリカブトなんでしょうが。
 微:そんな缶チューハイを売り出すなよな。しかも、力強く「オレは無罪だ!!」って叫ぶためにストロング0を使ったり。
 苦:妄想はもういいよ! ペロポネソス戦争でアテネが敗れたのもソフィストと衆愚政治家のせいであるとしたいプラトンたちの創作がかなり入ってます。近年の研究、例えば東大の橋場先生によると、ペロポネソス戦争後にアテネ民主政は充実しています。歴史的ソクラテス、美青年を追っかけ回す文学的ソクラテス、そして哲学的ソクラテスは違うんです。
 微:バットマンに登場するヴィランのトゥーフェイスを上回るな。
 苦:時間がないので本題に戻ります。哲学者ソクラテスが最も重視した概念は、よい生き方としてのアレテー(徳、優秀性)です。包丁のアレテーなら「よく切れる」というふうに簡単に理解でます。
 微:じゃあ、最近の子どものアレテーは「すぐキレル」ですな。
 苦:それは否定的特徴だよ! 人間のアレテーは、魂をよりよくすることであり、また、アレテーを実践する者の人生は幸福であるともソクラテスは主張しました。
 微:そのアレテーと、さっきのソフィストとどういう関係があるんだよ?
 苦:ソフィストと呼ばれた職業教師は、ペルシア戦争(前492~前449年)後からペロポネソス戦争(前431~前404年)ごろまで、主にギリシアのアテナイを中心に活動した、金銭を受け取って徳を教えるとされた弁論家・教育家です。「智が働くようにしてくれる人」「教えてくれる人」といった意味があります。代表的なソフィストにはプロタゴラス、ヒッピアス、ゴルギアス等がいました。
 微:ウルトラマンに出てくる怪獣か?
 苦:黙ってろ! 予想できたボケだがな。ソロンの改革(前594年)、クレイステネスの改革(前509年)を経てアテネには民主制が形成されます。この世界史に初めて登場する民主政は、従来の有力・富裕氏族による専横を防ぎ、選挙・抽選によって女性・未成年男子・奴隷を除く市民のほとんど全てが政治に関わることを可能としました。
 微:さらに「※イケメンに限る」という限定もあるんだろ。しかし、くじ引きで役人を決めるなんて、崩壊した中学校や高校のクラス役員選挙みたいだな。
 苦:まあ、イケメンに限るでソクラテスが嫌われたわけではないんでしょうが。プラトンの対話篇に従うと、ペロポネソス戦争の頃から、冷静に政治的判断を行うべき評議会はその機能を失います。評議会には説得力のある雄弁を用いて言論を支配する衆愚政治家(デマゴーグ)が現れるようになり、戦争期の興奮の中、デマゴーグの誘導によって国家意志が決まるようになってしまいました。初期で将軍ペリクレスが死去したのは事実ですが、実際には衆愚政治化は否定されていますね。
 微:21世紀のアメリカやフィリピンを見ていると説得力あるけどな。というか21世紀こそ衆愚政治というかポピュリズムの純化形態だな。
 苦:そういう状況下、政治的成功を望む人間は大衆に自己の主張を信じさせる能力を必要としました。そこに、大金を出して雄弁の技術を身につけようとする者と、それを教えるとするソフィストの関係が成り立つこととなったわけです。
 微:要するに、口がうまければ誰でも、プロレスラーでも橋下徹でも政治家になれたわけだな。
 苦:まあ、弟子のプラトンは確かにレスラーで、プラトンの名も「リングネーム」ですけどね。ソフィストという名は当時からすでに悪い意味で通用することが多かったんです。彼らが金銭と引き換えに弁論というか詭弁を教えたこと、その顧客というか弟子が主に富裕な人びとだったことや、目に見えない論理の力というか、言語にある隙間を使ってでも無理やりに相手を打ち負かす詭弁の方法を教えているという噂が、大衆の反発を買ったことは当然の結果です。
 微:まさに維新の会だな。やっぱ、金に汚くて減らず口を叩く奴ばっかりになったわけだろ。
 苦:そんなレベルではありません。プラトンに従うと、「演説はうまいが病気を治せない医者」「口はうまいが事務作業がまったくできない役人」がアゴラで開かれる民会の選挙で当選しまくったわけです。
 微:別に今の日本と変わらないじゃねえの? 元大臣の息子やバカ娘、元ヤンキーアイドルが当選しているのと同じだろ?
 苦:それを言われると返す言葉がないですね、確かにアテネでも名門出身の人間は当選しやすかった。しかし、ドリル小渕とか「きちんと説明する」と言ったいきりの政治家はいなかったから、アテネの方がマシに思えてきたな。
 微:人は忘れやすいから、こうやって世界の片隅ででも、いじらないとな。
 苦:さて、ソクラテスが憎まれた理由ですが、そのアレテーを弁論にあてはめると、「弁論の優秀性・存在価値は何か?」「民主制は何のためにあるのか?」ということです。それは、「アテネが直面している問題は何か、を明確にすること」であり、「その問題を解決するのに最適な人物は誰か、を判定すること」です。弁論も公職もはこれらの目的を達成するための手段にすぎない。
 微:ま、そうだな、Go To~なんとかを見ていると、しみじみ思うよ。
 苦:しかし、ソクラテスの採ったソフィスト退治方法がまずかった。有名なデルフォイの神託のエピソードを聞いたことある?
 微:知ってる、知ってる。カイレポンという詐欺師がデルフォイ神託銀行のATMでお金をおろそうと思ったら「ソクラテスに貸すお金はない」って表示が出たって事件だろ。
 苦:それはお前の銀行口座だよ! 「ソクラテスに勝る知者なし」の神託を聞いたソクラテスはその意味が理解できなかった。けどデルフォイのアポロン神殿に行って入り口に刻まれていた「汝自身を知れ」の文字を読み、自分は自分が無知であることを自覚しているから、その一点においてソフィストよりも優れていると理解した、って話。「無知の知」ね。非常に嫌みな構えをとった。
 微:オレはムチムチの太腿がいいな。
 苦:昭和のオヤジギャグはいいよ、もう! それに死語だよ、第一! とにかくソフィストたちは自称無知のソクラテスに問答で負かされ続けた。ソフィスト側の連戦連敗が続きます。
 微:今なら「東大王」だな。セットの後ろで宇治原が悔しがっていて・・・
 苦:今のクイズ番組じゃねえよ! 話を戻すと、ソフィストとの対決以外で、ソクラテスが問答の相手に選んだのが、なんと、アテネの美青年たちでした。これはクセノフォン情報ですが。
 微:そりゃ大事な跡取り息子がハゲデブの真っ赤な顔したおっさんに追っかけられたら、親としては告訴したくなるわな。
 苦:古代ギリシアでは少年に対して成人男性による同性愛を通じての市民教育が行われていましたしね。『走れ!メロス』の背景もそれだし。なので、ソクラテスに捕まったら、もうこれはヤバイ!
 微:KABA.ちゃんに追っかけられる状態だな、ジャニーズ系の新人たちが。
 苦:喜劇作家アリストファネスの作品には、美青年を追いかけ回すソクラテスが出てきます。君も、もし隣にソクラテスがやって来て、「君は魂への配慮を怠っていないかね? 良く生きるとはどういうことか、オジサンと一緒に考えてみないかい?」ってアプローチされたら?
 微:交番に駆け込むな。
 苦:こわいだろ。友人つきあいはおろか、ご近所つきあいもイヤだろ? それは置いといて、ソクラテスの思想に共鳴する若者たちは弟子集団となっっていったわけです。それと、ソクラテスは、故野村紗知代を上回る妻クサンティッペでも有名です。表にまとめました。

① ある時クサンティッペはソクラテスに対して激しくまくしたてが、彼が動じないので水を頭から浴びせた。ソクラテスは平然と「雷の後は雨はつきものだ」と語った。
②(ソクラテスのつぶやき)「セミは幸せだ。なぜなら物を言わない妻がいるから」
③ 宴会での弟子へのアドバイス「ぜひ結婚しなさい。よい妻を持てば幸せになれる。悪い妻を持てば私のように哲学者になれる」
④友人「そんなにひどい妻なら別れたらいいじゃないか?」
ソクラテス「この人とうまくやっていけるようなら、他の誰とでもうまくやっていけるだろうから」

 微:だけど、これで自ら死刑になったのも理解できたぜ。妻から逃げたかったんだろうな。それで、最後の夜に逃亡を勧める弟子たちに「悪妻もまた妻なり」って言ったんだな。
 苦:「悪法もまた法なり」だよっ! (ペシッ!)

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