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歪んだ正方形の部屋

 目が覚めると白い正方形の部屋にいた。各壁にドアがある。物は何もない。
「マジか」
ひとりごちる。流行りの異世界転生し、これから神様みたいなのが来て、チートな人生、とかにしてくんねぇかな。まぁ、違うよな。
一つ目の扉を開く。赤い部屋。
二つ目の扉を開く。青い部屋。
三つ目の扉を開く。緑の部屋。
四つ目の扉を開く。黄色の部屋。
やっぱりな。ありえねぇ。俺は寝っ転がる。
「CUBEの真似か?再現出来るわけねぇだろ。」
監視カメラで見られているはずだ。挑発してみるが、返事はない。
CUBEは、映画界の革命といっても過言じゃない作品だ。似たような映画や小説も読んだが、完成されたオリジナルは真似では超えられない。
 さて、どのくらい本気だろう。ここまでするなら何人か死なないとつまらねぇよな。俺は2、3番目に死ぬモブか。考えながら、そのまま寝た。

 起きると美人がいた。
「あの……あなたも閉じ込められたのですか?」
「そういうのいらないから。俺、なんもする気ねぇし、他に仲間を見つけるなり、計算したり、お約束通りに動けば?」
「え?お約束ってなんですか?ここのこと、知っているのですか?」
「あんた、映画とか本とか読まねぇの?CUBEって映画やそれに似た設定の話が良くあるんだよ。」
「見たことありません。でもそれなら貴方はここから脱出する方法を知っているってことですよね?」
俺は彼女を観察する。俺の給料1ヶ月分は軽く超えそうなほど美しい質感を醸し出す洋服、話し方も気品がある。なぜそんなお嬢様をここに?胸の中に小さな違和感。
「仕方ねぇな。フィクションだから、ここと同じとは限らねぇけど、大体こういうのは、色の違う同じ部屋がたくさんあって、その中には死に至る罠があったり、生き延びるアイテムがあったりするんだよ。あとは規則があるんだ。その規則が分かれば、罠を回避したり、脱出できるのが、お約束だ。」
「そういうものなのですか。私は全く知りませんので、貴方が助けてくださると嬉しいのですが。」
「やる気ねぇから無理。他を当たってくれ。」
「でもこのままでは死んでしまうのではないですか?」
「8:2、いや9:1くらいで死ぬな。可能性はここが出口の可能性があること。面倒だから、俺はそれにかける。」
「ここが出口という可能性があるのですか?」
彼女は嬉しそうに言う。
「あぁ、大体の話が最初の部屋が出口ってことが多い。だが、出口になる前に餓死する可能性の方が高いぜ。この部屋を覚えておいて、他の部屋を探し、仲間を見つけた方が生存率は上がる。」
彼女は悩ましげに考えている。
「いろいろ教えてくださりありがとうございました。私、西園寺月子と申します。以後よろしくお願い致します。」
「自己紹介の必要ねぇと思うけどな。俺は西野だ。」
「では、私は探索して参ります。」
「頑張れよ。」
俺はスニーカーを渡し、それで罠を避けられる可能性を教えた。
「申し訳ございません。私が至らないばかりに、西野さんの靴をお借りして。この恩は返します。」
「いいよ、別に。どうせここから動く気ねぇから、必要ねぇし。」
西園寺は会釈し、青い部屋に入っていった。

 西園寺って西園寺グループの娘か?それなら西園寺グループの敵が首謀者かもな。でもなぜ俺もなんだ?思い当たることがないとは言わないが、敵なら関係ないはずだろう。

 「西野さん!」
西園寺の声で、意識が戻る。
「水を飲んでください。あと栄養ブロックを見つけましたので、食べて下さい。」
意識が朦朧としている俺は、一気に水を飲んだ。
「あー、生き返った。悪りぃな、大切な水全部飲んでしまって。」
「西野さんのアドバイスのおかげで、私は罠を潜り抜けてまだ生きています。アドバイスと靴のお礼です。」
西園寺はにっこり微笑む。西園寺と俺の渡した靴を見る。
「それでどうだ?なんか手がかりは見つかったか?他の人間は?」
「手がかりは見つけられていません。扉や部屋の入り口など隅々まで探しましたが、数字も見つからず……ただ水分と栄養ブロックだけは、定期的に補充されているようなので、気にせず飲んで下さい。他の人にもまだ会えていません。」
「定期的に補充ね……狂ってやがる。」
「では、私はまた行って参ります。食料は置いていきますので、死なないで下さいね。」
西園寺は部屋を出て行く。水分と栄養ブロックで頭が働き出した。そういうことか。

 2、3日経っただろうか。腕時計はあるが、日が当たらないため、昼夜の判断が難しく、日にちの経過が曖昧だ。
「西野さん、ご無事でなによりです。なにも手がかりが見つからず、申し訳ございません。でも食料はありますので、安心してください。」
西園寺が食料を抱え、部屋に戻ってきた。腕に包帯を巻いている。
「どうしたんだ、その腕。」
「扉を開いた瞬間ボウガンでしょうか?飛んできまして……でもその部屋に応急セットがありましたので、問題ありません。ご心配して下さり、ありがとうございます。」
これで役満だな。
「いい加減茶番は終わりにしようぜ。」
「なんのことでしょう?」
「しらを切っても無駄だよ。説明すんの面倒くせぇ。お前が主犯だろう。」
「なにをおっしゃるのですか!?私は腕も怪我しているのですよ!」
西園寺は包帯をとり、傷を見せる。かすり傷だ。
「その傷もお前が主犯と物語ってんだよ。扉を開いて飛び出した矢がかすり傷ですむか?致命傷になるようにするだろ。あと俺は計算とは言ったが、部屋に数字があるとは言っていない。CUBEを知っている証拠だ。極めつけはその服と俺のスニーカー、綺麗すぎるんだよ。多分1週間くらいは過ぎていて、お前は動いていたと言う。それなのに最初と会った綺麗なまま。スニーカーも傷1つない。お嬢様は汚れた服を着ることに耐えられなかったか?ここを出て、優雅に俺を眺めていたんだろう。見合いを蹴ったはらいせか?」
「……悪あがきはやめましょう。やはり貴方は素敵なかた。貴方が仰る通りです。ただ腹いせではありません。私は貴方のことが好きなのです。貴方から頂いた靴は宝物。お見合いも断られ、どうしたら良いか考え、吊り橋効果に目をつけたのですが、失敗のようですね。でも少しは私を見て下さる気持ちになっていただけましたか?」
「吊橋効果でこれってどんだけぶっとんでんだよ。おかげではっきり言える。親の脛かじって、好きな男に嘘をつくような女は、天地がひっくり返っても愛せねぇ。」
「残念です。でもそう言われても私の気持ちは変わりません。」
そう言い西園寺は俺の右腕を締め上げた。
「西園寺グループの娘となると、いろいろ危険がありますので、護身術を身につけております。苦しいのは一瞬ですので、安心して下さいね。」
きめられた腕の痛みとは別に注射が刺さったような痛みを感じた。毒か?意識が遠くなっていく。

 目が覚めた。毒ではなかったのか。しかし結局同じ部屋で、西園寺はいない。

「目が覚めたようですね。今度はきちんと出口があります。罠の部屋もありますが、命に別状はない範囲にしています。お食事もお届けしますよ。私と結婚するならすぐに解放致します。また動けない傷を負った場合も、私が一生面倒を見ます。でもチャンスをあげましょう。自分で出口を見つけたら、貴方の前から消えるとお約束致します。ヒントはきちんとあります。面倒くさがり屋で、本当は賢い貴方は、どちらの道を選ぶでしょうね?私は、苦しんでいる貴方を見たくないので、早く降参してほしいです。」
天井から、西園寺の声が響く。想像以上に狂ってやがる。あったまきた。いいよ、本気出してやるよ。

「降参なんかしねぇ。約束守れよ。」

運が悪いな、こんなサイコ女に目をつけられるとは。でも俺は天才なんだよ。面倒だから隠していたけどな。解けないパズルは今まで1つもない。「以後よろしく」からすでに違和感あったんだよ。そんな甘いお嬢様に負ける気がしねぇ。やるからには少しは楽しませてくれよ?

俺のゲームはこれからが始まりだ。

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