わたしの進歩性対応マニュアル(仮)

完全ノープランで参加表明させていただいた知財系Advent Calendar 2020。
良い機会なので、最近ようやく自分の中で固まってきた「進歩性対応の検討手順」を整理してみました。まだまだ未完成なので(仮)です。

知財ガチ勢の方々から見ると当たり前のことばかりかもしれませんが、温かい目でご覧いただけたら嬉しいです!

1.進歩性対応クレームチャート

基本的には、次のようなクレームチャートを埋めながら検討しています。

画像11

2.進歩性の枠組み(読み飛ばし可)

クレームチャートの説明の前に、まず進歩性の判断基準について簡単にまとめておきます。
以下は、よくある進歩性判断フローと大体同じなので、慣れてる方は3.実際の検討手順まで飛んでいただけたらと思います。

画像11

① 副引例があるか?

進歩性は、本願発明と主引用発明との間に相違点があることが前提となります。
この相違点を(a)~(c)のどれかで埋められれば進歩性なし、(a)~(c)で埋められなければ進歩性ありとなります。

(a)副引例
(b)設計事項
(c)副引例+設計事項

なお、本記事では、「どの引例にも開示されていない特徴はあるけど進歩性なし」という場合、便宜上その「引例に開示はないけど進歩性に寄与してない発明特定事項」をザックリと「設計事項」と呼びます

この辺、言葉の使い方がすごく雑だし、審査基準とも違っていてすみません。「設計事項」以外にいい名前があるといいなぁと思っています。
審査基準の言葉を使うと、「一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化」+「一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用」というイメージです。

副引例がない場合は➂(左側)に進みます。これは(b)設計事項ルートです。

画像14

② 主引例+副引例=本願発明の構成?

副引例がある場合は、主引用発明に副引例の記載事項を適用すれば本願発明の構成になるかを検討します。
本願発明の構成になる場合は④に進みます。これは(a)副引例ルートです。

画像14

一方、本願発明の構成にならない場合は➂(右側)に進みます。これは(c)副引例+設計事項ルートです。

画像14

③ 残った相違点が設計事項か?

➂への進み方はフロー中で左右2種類ありますが、いずれにせよ➂に来たということは、本願発明の一部の特徴が引例に開示されていないということ。
その不開示の特徴(残った相違点)が設計事項かどうかを検討します。

私は今のところ、ざっくり「ある特徴が設計事項ではない≒その特徴に技術的意義がある」と捉えています(たぶん異論めっちゃある)。

そして、進歩性判断における「技術的意義」とは、超ざっくりと「その発明特定事項があると何が嬉しいの?」ということだと捉えています(これもたぶん異論めっちゃある)。

その特徴(発明特定事項)が発明の課題解決に不可欠であれば技術的意義あり、ただし課題がしょうもなければその限りではない、というイメージ。
「おまえじゃなきゃだめなんだ!!!」ということです。

残った相違点が設計事項でなければ、めでたく進歩性ありとなります。
相違点が設計事項であれば、(b)設計事項ルートだとそのまま進歩性なし
(c)副引例+設計事項ルートは(a)副引例ルートに合流して④に進みます。

画像15

④ 動機付けがあるか?

④では、「主引例+副引例で本願発明の構成になること(または相違点が残っても設計事項であること)はわかった。でも、そもそも主引例と副引例との組合せってそう簡単に思いつくのか?」といった具合に、動機付けの有無を検討します。

審査基準では、主引用発明-副引用発明の間で技術分野・課題・作用機能が共通するか、組合せの示唆があれば動機付けあり(主副引例の組合せが容易)と説明されています。
裁判では、上記に加えて、本願発明-主引用発明の間での課題の共通性なんかもよく検討されています。

なお、ここでいう課題とか作用機能とは、発明全体の課題・作用機能ではなく、本願発明と主引用発明との相違点に係る構成の課題・作用機能を指すと考えています。

動機付けが見つからなければ進歩性ありとなります。動機付けを否定できない場合は⑤に進みます。

画像16

⑤ 阻害要因があるか?

主引用発明に副引用発明を適用しようとしたとき、これを妨げる事由があるかを検討します。
阻害要因の具体例は審査基準に載っており、例えば副引用発明を適用すると主引用発明の目的に反するとかが阻害要因といえます。

この反論がバッチリ決まると気持ちいいです(あんまり決まらないけど)。

十分な阻害要因があれば進歩性ありとなります。阻害要因がないか、あっても大した阻害要因じゃない場合には⑥に進みます。

画像17

⑥ 予測不能な効果があるか?

動機付けが否定できねェ。阻害要因もねェ。。と追い詰められた最後の手段です。
予測不能な効果が認められれば進歩性ありですが、「その構成ならそんくらいの効果あるよね」という程度だと進歩性なしとなります。

ここまで来てしまったら、化学・バイオ系以外は大体ダメです。
基本的には、実験で「こんな意外な効果が出た!」と証明されている必要があります。

画像18

3.実際の検討手順

私が進歩性の拒絶理由に対応するときの検討フローは、以下のような感じです。

画像19

① 本願発明・主引用発明の概要を把握

何はともあれ、肝心かなめの本願発明・主引用発明の概要を把握します。

まず、本願クレーム中のキーワードっぽい単語を3~4個ピックアップして、明細書全体で一括検索→色付けします(Adobe Acrobat ReaderでもCtrl+Shift+Fで一括検索が可能)。
図面があれば、どの構成が上記色付けした単語かくらいはわかるように書き込みます。
それから、課題とクレームをさらっと読みます。

従属クレームまで読めば、なんとなく「書いた人はこの辺をポイントと思ってるのかな~」くらいはイメージできることが多いです。

主引例も同様に、課題、主な図面、クレームだけざっと読みます。
これでなんとなくどんな感じの発明か把握できます。

この時点で「本願と主引例に距離感あるな~」と感じる場合は、簡単に進歩性欠如を解消できることも多いです。

また、クレームチャートの本願・主引例の技術分野・課題、本願請求項1の内容を埋めておきます。

画像18

② 審査官の指摘を理解する

結構大事なステップ。何を言われてるのか理解してないと正しい反論もできませんよね。

まず、本願のクレームごとに、どの引例に開示されていると指摘されているのか、あるいは設計事項扱いなのか、審査官の認定をまとめます。

画像5

次に、拒絶理由と、引例中の拒絶理由の指摘箇所+図面を集中的に読みます。
ここでは、引用発明の内容というより拒絶理由の内容を把握することが目的です。

クレームチャートも埋めていきます。
審査官の引用発明の認定や本願発明との対応付けに怪しいところがあれば、適宜クレームチャートにメモしていきます。

画像18

③ 審査官の指摘が妥当か検討する

審査官が言ってることを大体把握したら、上記の進歩性判断フローに沿って拒絶理由の突っ込みどころを探します。

画像18

クレームチャートに進歩性フローの各ステップに対応する欄があるので、本願請求項1の発明特定事項ごとに○×で埋めていきます。
ここでは、本願発明に関する検討は後回しにして、主に引用発明の認定や組合せ容易性を検討します。このため、本願発明の技術的意義に関連する動機付けや設計事項についてはあくまで仮検討となります。

②では拒絶理由で指摘された箇所を中心に引例をサク読みしましたが、③ではもう少し真面目に読みます。
特に、引例にどんなストーリー(課題-解決手段-効果)の発明が書いてあるのかを意識します。

画像17

よくある反論ポイントは、②「主引例+副引例で本願発明になるか?」④「動機付けがあるか?」あたりでしょうか。

「主引例+副引例で本願発明になるか?」
「相違点に係る構成は引用文献2に記載されている」とかでポォンと拒絶理由を打たれることも多いですが、真面目に検討すると、副引用発明の構成そのままでは主引用発明に適用しようがなかったり、本願発明と主引用発明との前提構成の違いのために、適用したとしても本願発明の構成に到達しなかったり、ということは結構あります。
あと、普通に引用発明の認定が間違ってたりとか。
特に副引用発明については、ちょっと無理のある認定や抽出、上位概念化もしばしば見られます。
②で審査官の認定を引っくり返せると、大体そのまま特許されることが多い印象です。

④「動機付けがあるか?」
こちらは「主張の余地はあるけどあまり引っくり返らない」印象です(私が主張下手なだけの可能性……)。
審査基準に明記されている主引用発明-副引用発明の比較なんかは審査官もしっかり検討していると思うので、「主引用発明のコンセプトを前提にすると、わざわざその構成を採用する動機はないよね?」のように、阻害要因チックな主張の方が通りやすい気がしています。

ちなみにクレームチャートの「相違点」欄には、永野周志先生の『特許権・進歩性判断基準の体系と判例理論』に則って、進歩性の類型(要件置換型・要件付加型・要件除去型・要件限定型)を記入しています。類型によって考え方が変わってくるためです。
とても良い本なので、ご興味ある方は冬休みのお供に是非!

画像18

④ 本願明細書を読む

やっと本願明細書です。拒絶理由と引例を先に読んでるので、引例に書いてなかった事項を探しながら読んでいきます。

引例に記載されていない差別化ポイントは、クレームチャートにリストアップしていきます。

画像19

ちゃんと技術的意義を意識して、その特徴があると何が嬉しいのかをクレームチャートにメモしながら差別化ポイントを抽出するのが大事だと思います。
併せて、本願請求項1の各発明特定事項についても、技術的意義をしっかり抽出します。

画像20

⑤ ポイントごとに進歩性の主張を検討

リストアップした差別化ポイントごとに、再び進歩性フローに沿ってクレームチャートを埋めていきます。

画像18

同時に、④でメモした請求項1の各発明特定事項の技術的意義に基づいて、➂の検討結果も見直していきます。

●引例の組合せで本願発明の構成になるか?

差別化ポイントとして引例に書いてない事項を拾っているわけなので、基本的には引例を組み合わせても辿り着けない相違点となるはずです。

●相違点が設定事項じゃないか?

差別化ポイントを拾い出すときにちゃんと技術的意義を言語化しておけば、「設計事項じゃないよ!」という主張も比較的容易です。

●相違点に係る構成を主引用発明に適用する動機付け/阻害要因があるか?

当然この時点では相違点に対応する副引例もないので、動機付けなどは観念しづらいのですが、差別化ポイントが記載された副引例が追加で引用された場合に備えて、「主引用発明に相違点に係る構成を適用する動機付けがない」「主引用発明に相違点に係る構成を適用するには阻害要因がある」などと主張できそうな理由付けを思いついたときは、クレームチャートにメモしておき、その特徴で補正することになった場合には意見書で主張します。

差別化ポイントを抽出するときに、引用発明のストーリーを前提として動機付け・阻害要因を探す目線を持つと、多少の理由付けは案外思いついたりします。

⑥ 優先順位を付ける

最後に、これまでに洗い出された差別化ポイントに優先順位を付けていきます。
具体的には、実施品をカバーしているか侵害発見の容易性進歩性の主張の説得力などに基づいて、どの方向性が好ましいかを考えます。

この辺りは、特許事務所サイドでは把握しきれないファクターも入ってくるので、実際には複数の補正案として提示することが多いです。

優先すべき差別化ポイントが決まったら、それに基づいて補正案・意見書の主張案を作成します。
主張・反論ポイントはクレームチャートに整理されてるので、構造化した主張を展開しやすいと思います。

まとめ

ざっくりと整理してみましたが、進歩性については大体こんな流れで日々考えています。
まとめとして、私の進歩性検討フローを再掲しておきます。

画像19

こうした検討の順番や整理の仕方って人によって全く異なると思うので、他の方のやり方もとても気になります。
「ここ違くね?」「効率悪くない?」「○○の検討抜けてるぞ」などなど、優しい突っ込みやアドバイスをお待ちしています!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?