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流れに沿って

勤務校はようやく春休みへ。
年度末に体調を崩し、新クラス編成や最後の指導要録や学籍の点検なども学年の先生方に迷惑をかけてしまったけど、最終日までに何とか終わらせることができた。
他の学年の先生まで点検に協力してくれた。本当にたくさんの人に支えられてるな・・と感じた1ヶ月間だった。
おかげで、あまり体に大きな負担をかけずに大変な年度末の仕事を乗り切ることができた。

先週末の勤務日最後の日、「任期満了の会」と名づけられた送別会があった。
退職する人は若者も含めるとまだいるのだけど、今回は定年退職をする先生3名のための会だった。
コロナ禍でずっと中止になっていた歓送迎会形式で、約3年ぶりにホテルの会場を貸し切っての、スーツで参加のフォーマルな会だった。
とはいえ、中心となって企画した先生方がポップな人たちだったので、笑いの絶えない楽しい会となった。教職員ってつくづく変な人が多い。
(自分は棚に上げる・・・)

私は体のことを考えてお酒は控えたけど、オレンジジュースだけでも酔っ払ったみたいに大爆笑してしまっていたし、私のいたテーブルは普段から楽しい人が多くて盛り上がっていた。

ちょうど私の隣になったのは20代後半の体育の先生で、3年目だけど今回退職する。
次の職はジムのパーソナルトレーナーだそうで、ボディービルダーにもなりたいそうだ。確かに、ここ一年でえらく体が大きくなっていた。もともと明るい性格の青年だけど、ボディビルのことを語るときは本当に幸せそうだ。
もう自分が知らない世界過ぎて、みんないろんなことに興味あるんだなと思いながら聞いていた。

もう一人退職するのは20代前半の音楽の先生で、ずっと2年間一緒に働いた学年のメンバーだった。別のテーブルにいたのだけど、そのテーブルが盛り上がってなかったのでこちらに呼んで、私の椅子に半分ずつ座ってみんなで話した。

彼女は辞めることを決めてからもずっと、次の仕事についての詳細を語らなかった。私はそういうとき無理矢理聞くのはよくないかなと思って、彼女が自分から言うまで聞かないようにしようと思っていたけど、テーブルの他のメンバーはそこら辺は容赦がなかった。どんどんヒントを語らせて、ついには突き止めた。

そしてなんと、まさかの「タレント」業だった。 

芸能プロダクションに合格し、バラエティーのタレントを目指して4月からいろいろなレッスンを受けるという。バンジージャンプとかやりたいそうだ(!)。
ユニークな人だったけど、そうかー、そっちの世界に行きたかったのね、とちょっと納得した。小さな頃からずっとテレビに出たかったのだそうだ。大学卒業の時にプロダクションを受けたけど受からず、ずっと受け続けて去年の夏に年齢ギリギリで合格したので、第二希望だった教師の職をここで辞める決心をしたという。

そうかと思えば、辞める先生たちのスピーチもいろんな人生があることを示していて、本当に興味深かった。最初は校長で、この人はとにかく仕事を早く辞めたい!と公言して憚らない人だった。スピーチでは、「自分に意見した副校長は今の副校長だけだ、だからこそこいつは信用できる!」みたいなことを話していたけど、あまり心には残らなかった。

もう一人は、個別支援学級の手伝いのような感じの先生で、今年一年しか勤務校にはいなかった。いつも年休をフル活用して3時頃に帰っていくし、仕事もあまりしないので評判がすこぶる悪かった。職場でも全然喋らない人だった。
けど、実は目がかなり悪くなってしまっていたこと、娘さんと共著でKindleで絵本を出していて売上1位になったことがあること、YouTubeにもチャレンジしていることなど、知らなかった姿が次々に明らかになって驚いた。

最後の一人は、やっぱり個別支援学級の先生で、この人は主任だった。
他の先生方から「聖母」と言われるくらい、大変な生徒をたくさん面倒見てきたすごい先生で、私もとっても尊敬する先生だけど、元々は体育の先生だった、昔フィギアスケートをやっていた、など断片情報しか知らなかった。
今回のスピーチで、ちょうど私の年齢くらいの時に突然、紫外線アレルギーになり、それでもなんとか日光を防ぎながら体育教師を続けようとしたけど、そうしたら心臓に負担がかかって長生きできないと医者に言われ、泣く泣く体育教師ではなく個別支援の先生になった、ということを知った。そんな経緯があったなんて・・・・。

その先生が最後に言った、「自分には何かでトップを取ったとか誇れることは何もないけど、この仕事で本当によかったと思います。」という言葉に感動を覚えた。

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先日、病院に検査を受けに行った帰り、思いのほか時間が早かったので、町田まで出て気になっていた作品展を見に行った。森田MiWさんという詩画作家さんの作品展だった。

企画した学芸員さんが知り合いで、「絶対いいから来て!」とお薦めされていたこともあった。

詩と絵が響き合い、独特の世界観が本当に素敵な作品展だった。
その作品展の中にあった詩の一つを、賑やかな会の最中に唐突に思い出した。
その詳細な文章は正確に覚えてないけど、確か、

私たちは上へ上へと努力して登っていくのがいいと思っているけれど、
実は、流れに沿ってずっとずっと下っていく、それが人生というものなのかも

というような詩だった。
絵は横長の作品で、長い川を船に乗った女性がぼんやりと前方を見つめている。風景が穏やかで色美しく、好きな作品の一つだった。


流れに沿って。・・・・・

フワッと腑に落ち、涙が出そうになった。
みんなそれぞれの流れに沿って生きてきたんだな・・・・。

そして私もそうならば。 
ならば、流れは一体どこに続くのだろう。

絵の中の女性は、とても穏やかな表情だったし、風景もとても美しかった。


今までは向上心がそれなりに強かったから、必死で走ってきた。いろんなことに興味をもち、目指したいものはたくさんあった。だから周囲を見る余裕はほとんどなかった。それは、自分に自信がなかったから、自分以外の何かをずっと追い求めていたんじゃないかと最近思う。

でも今まで自分がやってきたことや積み重ねてきたものをもっと信じたいし、また日々、これからも少しずつ積み重ねていきたい。
自信とは自分を信じることだから、もっと自分を信じてあげたい。そして心穏やかに、周囲の美しいものをゆっくりと味わいながら生きていきたいなと思う。
おそらく、本当はそれが一番、自分が望んでいたことなんじゃないか。

新しい一年がまた始まるけど、きっと今までとは違う一年になると思う。









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