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【弁理士による解説】ハンドメイドの違法な作品、違法な商品紹介の簡単な判別方法

 ハンドメイド作品をいざフリマアプリやECサイトで販売しようと思ったとき、一番気になるのが「この商品を売って捕まらないか?」という疑問でしょう。
 ネット上には様々な解説ページが溢れていますが、その中に法律の専門家である有資格者からの情報発信はほとんどありません。
 中には法律違反と契約違反と自主規制のお願いまでを全部ひっくるめて「違法だからやめとけ!」という乱暴な記事も含まれており、インターネット上の情報の健全化のために、クリエイターの方がご自身のハンドメイド作品が違法でないか、商品紹介が違法でないかの簡単な判別方法を知的財産権法の専門家である弁理士の中川真人が解説します。


法律違反と契約違反と自主規制のお願いの違いについて

 法律違反は、文字通り法律違反です。ハンドメイド関連で想定される法律違反は、意匠法違反、商標法違反、不正競争防止法違反です。警察が出てくるような事件です。
 契約違反は、誰かと利用方法などについての約束をして買い付けた材料などを、約束を破って目的外に利用するような信義に背く行為です。弁護士が出てくるような事件です。
 自主規制のお願いは、法律上の根拠も何の契約も成立していないけど「私のお願い聞いて!」という依頼です。聞かなかったからと言って、法的なぺナルティはありません。
 ここで、みなさんが注意すべきなのは「法律違反」と「自主規制のお願い」です。
 契約違反は、原則として材料などを契約の上直接買い受けたような場合に問題になりますが、みなさんは大抵の場合小売店を介してしか材料を購入できないと思いますので、契約違反が問題になる場合はあまり想定できないと思います。

法律違反か否か

 法律違反に該当するかどうかは、自分で調べることが可能です。物品のデザインは、特許庁に意匠登録をすることが可能です。登録された意匠(デザイン)と同一か、または似ている意匠は無断で販売することはできません。
登録意匠はインターネットで誰でも自由に確認することができます。
 あなたがこれから売ろうとしている作品の物品名で検索をかけ、同一か、または似ているデザイン(形状、模様、色彩などの結合体)が既に登録されていたら販売することはできません。
 また、あなたの作品の中に文字や図形(マーク)を含んでいるときは、他人の登録商標と同一か、または似ている文字、図形を含んでいないかも確認する必要があります。
 登録商標もインターネットで誰でも自由に確認することができます。あなたがこれから売ろうとしている作品のジャンル名(指定商品と言います)で検索をかけ、同一か、または似ている文字、図形が既に登録されていたら販売することはできません。
 これらに違反して販売を強行すると、意匠法違反、商標法違反で逮捕される場合があります。登録意匠、登録商標であることを知らなかったとしても、関係なく逮捕されます。
 事業者である以上、登録意匠、登録商標のサーチもしなかったあなたが悪いという考え方が採用されているからです。刑事法の世界では「法の不知はこれを許さず」という諺がある通りです。

不正競争防止法違反とは?

 次に、厄介なのが不正競争防止法違反です。登録意匠、登録商標は調べればわかりますが、登録意匠、登録商標ではなかったからと言って無条件でそのデザインや文字・マークを使って良いというわけではありません。
 そのデザインや文字・マークが誰かの出所であることがわかるまで有名であれば、意匠登録、商標登録がなくても不正競争防止法違反で逮捕される場合があります。
 不正競争防止法違反になる基準は、そのデザインや文字・マークを使ったことであなたの商品がより売れるようになり、お客さんが「誰かの出所であること」を期待して買ったのにあなたの商品でがっかりした、という事情があるかないかです。
 緑と黒の市松模様のマスクを単体で売る分には問題ありませんが、週刊少年ジャンプと並べて展示するとか、一言で言うと「正規品だと勘違いしかねない紛らわしい売り方」をすると不正競争防止法違反になり得るわけです。

著作権法違反は?

 ここで「大事なのは著作権法ではないのか?」と思われた方も多いと思いますが、著作権法がハンドメイド作品の販売で問題になることはあまりありません。これは漫画のキャラクターを貼り付けて売ったりしても大丈夫と言う意味ではなく、私たちが考える著作権法違反の作品を販売すると、漏れなく意匠法違反か、商標法違反か、不正競争防止法違反には該当しているからと言う意味です。
 そして、これら意匠法、商標法、不正競争防止法は健全な経済活動の実現を図るべく、経済産業省と経済産業省特許庁が管理しています。かたや、著作権法は文化発展の実現を図るべく文部科学省文化庁が管理しています。
 意匠登録や商標登録がされていたりするデザインや文字・マークを勝手に使い、正規品だと勘違いしかねない紛らわしい「売り方」をするような事件があれば、健全な経済秩序維持のために意匠法違反、商標法違反、不正競争防止法違反が発動されて捕まえにやってきます。これらの法律を産業財産権法と呼びますが、お金と商売が絡む産業財産権法は、著作権法などに比べてはるかに高い戦闘能力があり、罪も段違いに重いのです。

ネットに溢れる違法の事例は「自主規制のお願い」違反であることがほとんど

 日本の刑事法は「罪刑法定主義」と言い、事前に「これは犯罪であり逮捕する」という条件(要件と言います)を列挙して誰でもわかる状態にしておかないと、警察は勝手にその人を逮捕することができません。登録意匠や登録商標がインターネットで誰でも自由に確認できるのも、事前に「このデザインや文字・マークを使ったら犯罪であり逮捕する」という条件を公衆に知らしめておく必要があるからです。
 つまり、レシピ本の再現とか、デザイン生地の転用とか、既製品の組み合わせとか、それを行うことが誰の目にも「犯罪」であることが要件として明確でない行為自体を取り締まることはできません。その結果として作られた作品に、意匠法違反や商標法違反や不正競争防止法違反があるかないかで、その作品を売っても良いかが決まるわけです。
 ですから、法律上はレシピ本の再現も、デザイン生地の転用も、既製品の組み合わせも、それ自体を法律的に禁止することはできません。これらはあくまで「自主規制のお願い」であり、それに従わなかったからと言って「違法」ではないのです。

顧客からの印象と取引業者との関係性を考慮して

 だからと言って、違法でなければやってもよいと言うわけではありません。「自主規制のお願い」であったとしても、法律上禁止はされていないというだけで、やってもいいと言う許可があるわけでもないのです。
 つまり、その「自主規制のお願い」を尊重して自重するか、強行するかは多くの場合ビジネス判断となります。それをした時の顧客からの印象や取引業者(フリマアプリ業者や他のハンドメイド作家)との関係性を考慮して、総合的に判断するようにされると良いと思います。
 以上が、法律家によるクリエイターの方がご自身のハンドメイド作品が違法でないか、商品紹介が違法でないかの簡単な判別方法です。かなりの概略ですが、これだけでみなさんの肩の荷はだいぶ軽くなったのではないでしょうか。
 わからないことや疑問があれば、お近くの特許事務所にご相談されてみるのも良いかもしれません。私の特許事務所では、これら小規模事業者・スタートアップ事業者の支援をするサービスを行なっていますので、ご興味ある方もない方も、ぜひ一度訪れてみてください。

https://youtu.be/NtFuK2L8X_o

フィラー特許事務所(https://filler.jp)
弁理士・中川真人