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【著作権侵害】フリー素材なのに訴えられた!なぜ?

著作権フリー素材を集めた素材サイトが多く公開されています。しかし、フリー素材として提供されている画像を利用規約通りに利用していても訴えられるという事例が存在します。いったい何が問題だったのでしょう?

 大阪梅田でフィラー特許事務所を経営している弁理士の中川真人です。フィラー特許事務所では、知財の本場である米国で広く一般的に用いられている知的財産戦略のメリットを日本の法律の枠内でも極力再現できるように工夫した知財経営のノウハウを提供しています。

 今回は、「フリー素材なのに訴えられた」件について著作権法の解説をします。あくまで著作権法の解説ですので「実は利用規約違反でした!」なんてオチではありません。

利用規約違反と法律違反は違います

 著作権関連の記事の中には正確には著作権法についての解説ではなく、単なるYouTubeとかブログ設置サービス業者の利用規約についての規定を著作権法の解説として紹介しているものも多くあります。
 利用規約はあくまで利用者との約束事に過ぎませんから、決して法律上の拘束力が生じるわけではありません。著作権法違反は不法行為となりますが、利用規約違反は債務不履行にとどまります。なお、重複することはあるかもしれません。

 今回この記事を書こうと思ったきっかけも、「実は利用規約にこういう部分があったから、著作権法違反で訴えられたのですね!」という趣旨のあやふやな解説を発見したためで、利用規約を持ってこられてはそれこそ「何でもあり」となってしまいますから、本当の意味で、「利用規約でなくても」フリー素材を使っていただけなのに訴えられる例についてお話しします。

なぜフリー素材なのに訴えられたか?

 結論を言うと、そのフリー素材自体が盗品であり、本当の著作権者から直接訴えられた場合です。実は、このような「盗品の著作物」に絡む事件は枚挙に遑がありません。古くは少年漫画雑誌の懸賞イラストから、最近では下着メーカーのデザインに至るまで、オリジナルだと思って掲載したイラストや図柄が、実は誰かの作品を盗作したもので事後処理に追われるという事例は古今東西後を経ちません。

 そう言われると、フリー素材として公開されているイラストや写真が本当にその運営者のオリジナルかと言われれば怖くなってきませんか?
 たとえ利用規約通りに使ったとしても、盗品の著作物を掲載されていればその著作物を無断で複製し公開した場合は著作権法違反の責めを問われます。これが法律のルールです。

利用規約だけで事業ができるか?

 以前、企業間取引ではたとえ東証一部上場企業間同士であっても段ボール数箱分の信用証明書類を揃えなければコード一本納入できないと言うお話をしましたが、それはこのような事態を回避するために他なりません。
 確かに一般の方に利用規約以上の検討を行えと言うのは酷に過ぎますが、法律家であれば「そもそもこの人は権利者なのか」と言う検討から入ります。そして、本当にこのような規約の制限をかけられる権原を有してるのかを確認し、その対象となる取引物(この場合は素材画像)全てにおいてオリジナルの証明を取っていきます。
 これが、専門家に仕事を依頼すると言う意味です。やや厳しい表現ではありますが、利用規約を理解できる程度では事業はできません。その根底にある法律の理解をしていないと「それはそもそも盗品です」といった事例に対応しきれません。そのような、一私人では対応できない法的な活動の領域を拡張させるために、私たち国家資格を有する専門家がいるわけです。

専門家の存在理由はどこにある?

 一方で、どんなに周到に準備をしても捕捉しきれなかった検討事項はゼロにはできませんし、正当な事業を行なっていても面倒な人たちに「たかられる」ということも少なくありません。そう言う時に、私たちのような専門家が常に後ろで目を光らせていることは、それだけでも十分なトラブルの抑止力になるのです。

 残念ながらネットの記事には一口サイズに切り取られて本来の趣旨や目的から外れてしまっている法律の解説記事と言ったものが散見されます。とは言っても8割程度は正しく書けているので、ネットの記事をある程度選別できればそれなりの事業運営はできるかもしれません。
 問題なのは、正しくない2割の部分で足元をすくわれた時です。特に他人に販売を任せるとか、他人のために作品や商品を納入する場合です。その作品や商品に問題がある状態で納入し、取引先に予想外の損害を与えてしまった時、「利用規約を確認しました」は理由にはなり得ません。

絶対に自分だけでやってはいけないこととは?

 むしろ、「そもそもこの作品はオリジナルなのか」と言うところから検討を始められる体制を整えておけば、その他大勢から頭一つ抜きん出た立派な事業者と思ってもらえます。作品の良さやフォロワーの多さと言った要素で必ずしも仕事が取れたりするわけではありません。このような、取引者が安心して契約できる条件を整えてコンプライアンス違反の生じない体制を整えられているかと言った、事業者としての信用度で多くの場合仕事が決まったり、決まらなかったりします。

 そのための私たち専門家ですから、このような専門サービスを利用することにあまり抵抗を感じないようになることも事業運営には大切です。安心してください。ほとんどの大企業も法律事務所や特許事務所に判断を外注しています
 何でも自分でやるというのは大切な面もありますが、むしろ他人と関わるための根回しである法律判断の部分だけは絶対に自分だけでやってはいけません。返って取引先に不信感を与え、逆効果になる可能性の方がはるかに高いでしょう。

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弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp)