発明盗んで卒業リンチ
昔より企業の不正や不祥事が明るみになりやすくなった感がありますが、その一つに退職者の外部通報といったある種の内部告発がやりやすくなったから、そして、不正や不祥事に加担させられていた従業員による復讐という意味合いも強くなったという事情は無視できないでしょう。簡単な言い方をすれば、退職者による卒業リンチを企業が受けやすくなったのです。
昔であれば、ある意味定年まで働くことを約束されていたため、そのような不正や不祥事に関わったとしても見て見ぬふりをして働き続けるという選択肢も現実味があったのかもしれませんが、そのような商慣行を手放す代わりとして、自社の社員に在職中に知り得た業務上の不都合な情報を持ち出され、それを理由に報復を受けるリスクが生じたというわけです。
私がまだ会社で働いていたとき、「あんなショッボい公報出てるの恥ずかしいから片っ端から無効にしていってや!」と冗談半分、本気半分のお話をされたこともあったのですが、現実問題として開発者にそれ相応の恨みを買って退職されると、その見返りに過去の特許を◯号違反だといって片っ端から潰しにかけられるという事態もリアルに想定しておかないといけません。
また、外国では発明者の署名がないと出願ができないという国もあり、これはたとえ発明者の一部が退職者であっても、連絡を取って署名をもらう必要があります。ここでも、その退職した発明者に恨みを買われていた場合、いろいろな嫌がらせを受けて出願自体ができないという事態も起こり得ます。
このような事態に備えるには、そもそも卒業リンチを受けるような扱いを従業員にしないという対策を行うほかありません。過去、特許法でも特許を受ける権利を発明者ではなく会社に最初から帰属させるとか、いわゆる報酬をなるべく払わなくてもよくするという法改正(職務発明の規定)がされたのですが、これもまだまだ退職者の卒業リンチを想定した時代のものではありませんでした。
このような締め付けはもう諦めて、公正な営業を続けることが一番安上がりで効果も高いのです。とはいうものの、持続可能な〇〇には「公正手続・不正根絶」というテーマはなかったような気がします。昨年度の倒産理由の第一位はコンプライアンス違反によるものという話がありますが、私はまぁそうだろうなという印象を受けています。
弁理士・中川真人