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鉄腕アトムの著作権が切れたら自由にキャラグッズを作ってもいいの?

 著作権は原則として著作者が死亡した70年後の12月31日に消滅します。では,仮に鉄腕アトムの著作権が切れたら,誰でも自由に鉄腕アトムのキャラクターを書いて売ってもよいのかいえば,そういうわけではありません。

 著作権は創作した絵や文そのものに発生します。その絵や文のアイデアに発生するものではありません。ここは理解が難しいのですが,仮に鉄腕アトムという漫画の著作権が満了によって消滅したとしても,実際に私たちが自由にその著作物を利用できるのは著作者である手塚治虫氏が創作した絵や文そのものを,そのままの形で利用する分にとどまるのです。

 ですから,鉄腕アトムという作品から離れて抽象的な鉄腕アトムの絵をオリジナルで書いてそれを販売することは,著作権の消滅とは関係なく違法となる可能性が残ります。
 鉄腕アトムの著作権は切れているのに,鉄腕アトムの絵を作ったり,使ったり,売ったりしたら違反になる可能性がある場合とは,一体何が問題になるというのでしょうか。


 それは,鉄腕アトムの絵が掲載されていれば,虫プロダクションの商品であるとか,虫プロダクションと何らかの関係がある正規品であるという勘違いをお客さんに誘発してしまうという問題です。
 これを出所の混同といって,商標法や不正競争防止法といった,経済の取引秩序を守る法律が最も嫌っている事態です。

 鉄腕アトムのキャラクターは単なる創作物の域を超えて,特定の事業者を指し示す営業表示としての機能を発揮する著名度を有していて,鉄腕アトムの絵を使うことが誰か別の(この場合は虫プロダクション)事業者の製品になりすましてしまう可能性があるから,その場合は著作権法上は問題がなくても,商標法や不正競争防止法上の問題が問われるというわけです。

 実は,この辺りの法律判断は意外と難しく大企業でも必要なリサーチを怠ったばかりに回収騒ぎを起こす事例が割と発生しています。弁理士が見れば明らかに「それはだめでしょ」と即答できる簡単なミスであっても,その業界に詳しくない人であれば,プロであってもうっかり侵害品を世に放ってしまうことは珍しくありません。

 特に,知的財産権上の違反,とりわけ出所の混同を問題にするトラブルは一度引き起こしてしまうと回収以外に打つ手がない場合がほとんどです。確かに手間ではありますが,他人の知的財産を利用するビジネスを行う場合は必ず弁理士によるリーガルチェックを受けることが不可欠なのです。

 以前,人気漫画の著作権が切れたら自由に販売できるようになりますが,この漫画はあと何年です!といった記事というか投稿というか,そういう情報発信をされていた方がいらっしゃったのですが,人気漫画となれば著作権以外の様々な知的財産価値が生じています。
 その際たるものが,出所表示機能です。そのキャラクターや台詞を見れば聞けば,特定の事業者を想起してしまうというAといえばB,BといえばAという関係が出来上がっている場合です。
 この場合は,単なる著作物を離れて営業表示という別次元の価値を持ってしまいます。著作権の仕組みは文化庁が管理していますが,営業表示ともなれば経済産業省とその外局である特許庁がその仕組みを管理しています。
 雰囲気的にどちらが強そうかといえば単純明快ですが,現実も皆様の想像通りですので,他人の営業表示を使って誰か別の人になりすましたり,勘違いを誘発させてお客さんを掠め取るようなことはたとえ著作権法上は問題なくてもやってはいけません。守られている法律は1個とは限らないのです。

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鉄腕アトムの著作権が仮に切れた(満了した)としても,自由に複製したりパロディを作ったりしてもよくなるわけではありません。
著作権法以外の,他の法律による制限を受けることになります。

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弁理士・中川真人
フィラー特許事務所