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PASSTOマガジン vol.3 | パストしたモノってどうなってるの?

こんにちは。
PASSTOマガジン編集長のガクです。
今回は「パストしたモノってどうなってるの?」ということで、実際にパストしたものがどのように選別され、どうやって次に必要とする人につながっているのか、鎌田 安里紗さんをレポーターに迎えパストの裏側を追ってみます。


鎌田安里紗「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。環境省森里川海プロジェクトアンバサダー。消費者庁サステナブルファッションサポーター、経済産業省「これからのファッションを考える研究会」「繊維製品の資源循環システム検討会」委員など。

写真:澤圭太


まずは、パストしてみる

今回、鎌田さんが大切に使っていた洋服2枚を持ってきてくれた。長く愛用していたが、最近では着る機会が減ってきたため、「次の人へつなげられるなら」ということでパストすることを決意。フォレストゲート代官山のTENOHA代官山(CIRTY)に持ち込んで、まずはパストしてみる。

参考:PASSTOマガジン vol.1 | 代官山という街から広がる循環の輪

さて、ここからどこに運ばれるのか。
その行方を追ってみる。

どこに持ってかれるの?

回収品を追ってやってきたのが埼玉県入間市にある株式会社ECOMMIT 東京第二事業所。

ここでは毎日約6tの回収品が持ち込まれ、特に衣類や雑貨が選別されている。第二事業所の若手エース、水挽 健太さんに事業所を案内してもらった。

水挽「回収品はまずリユースかリサイクルかを判別する一次選別を行います。時期や回収場所によって多少のバラつきはありますが、衣類では88%がリユース、10%がリサイクルとなり、どうしてもそのどちらにも当てはまらないモノのみ廃棄処分されます。丁寧に選別を行うだけでなく、豊富な実績データをもとに回収品を仕分けし、100以上の取引先へ再流通を行うことで、廃棄は約2%のみになっています」

リユース対象品はそこからさらに二次選別を行い、ブランドや物の状態によってネット販売、国内・海外への卸販売へ分けられる。ネット販売では自社販売で直接生活者に届け、卸販売ではより多くの人の手に届けられるよう、リユースショップや古着屋などを通じて再流通を行っている。

選別作業では品質を担保するためのガイドラインが用意され、123品目以上の項目で選別がなされている。

時期や回収場所によって異なるが、リユースの再流通の割合としては国内での販売が約4割、海外での販売が約6割となる。

鎌田「海外が多いんですね、需要が高いんでしょうか?アジアが多いイメージですが、冬物などは入れないようにするのですか?」


水挽「そうですね、今は特に東南アジアでの需要が高いです。冬物も一定の需要があるので、割合を少なくして現地に送っています。海外に行くものはこの機械で圧縮してベールと呼ばれる状態で出荷されます」


鎌田「なるほど。以前、ケニアに行った時にベールで買う業者さんが荷物を開けてみて売れる商品が2〜3割しかなくて困っている、という話を聞いたんですが、その辺の対策ってどうしているのでしょうか・・・?」

この部分は後述する「選別のその先へ」パートにて詳しく解説するのでお楽しみに。


鎌田「ところで、衣類回収を行なっているところは他にもたくさんありますが、PASSTOの特徴はなんでしょうか?」

水挽「主に3つあって、1つ目はリユースを優先していること。2つ目は1つ1つ丁寧に選別していること。3つ目は回収した全てのモノのデータを可視化していることです」


リユースを優先することで、使える状態のモノをそのまま次の人に届けることにより既存のモノの価値を活かし、新たな商品をつくる過程で生まれる環境負荷を抑えられる。

選別は、人の手で行なっているため手間とコストがかかるが、丁寧に分けることでリユース率が上がる。ニーズにあわせた目利きをすることで、流通先でのミスマッチが無くなり、結果的に廃棄量が減る、いわばモノのマッチングを実現している。

3つ目のデータ化は、顧客(回収拠点)ごとに回収品目、回収量、出荷先(リユース、リサイクル率等)、などがオンタイムで見れる仕組みだ。

どうやって選別しているの?

実際に選別作業現場をのぞいてみると大量の衣類を手作業で丁寧に、しかも素早く仕分け作業を行なっていた。届いた回収品はかご台車に積まれ、そこから選別台に移され仕分けされる。

次々とかご台車が運び込まれ、プロピッカーと呼ばれる選別担当者の手が止まることがない。その量なんと1日で1人1,000kgもの衣類を選別するという。ブランド、商品カテゴリー、状態などの掛け算で細かな分類に分けられるが、どのプロピッカーも瞬時に判断して選別を行っていた。

どんな人たちが選別しているの?

プロピッカーと呼ばれる選別作業のプロフェッショナルたち。
どんな人たちが、どんな思いで働いているのか聞いてみた。

「いっちー」こと市之川 浩二さん。
長くアパレル業界で働いていたという市之川さんは自ら店舗運営をした経験を持ち、古繊維の会社でも選別作業を行っていたなど、まさに衣類と選別のプロフェッショナル。

その道30年の大ベテランだ。

そんないっちーさん、なんと生地を触っただけで何の素材かが分かるという。

鎌田「パストされたもので、印象に残っているものってありますか?」

市之川「新品が入っていることがあり、個人的にはもったいないなと思います。仕事的にはありがたいかもしれませんが(笑)、やっぱり洋服は洋服として使って、それでも使わなくなったらパストしてもらうというのが気持ちいい流れかなと思っています」

鎌田「長年古着の選別をされていると思いますが、服の質や量って変わっていますか?」

市之川「今はブランド物というよりも、ファストファッションが増えてきてますね。量としても昔に比べると圧倒的に増えてます。その状況を見てて思うのは、メーカー側は長く使える洋服を作る、生活者はできるだけその1着を長く使う、ということが大事なんじゃないかなと思ってます」

夫も同じECOMMITで働く入社4年目の味波 未来(みく)さん。

もともとはまったく業種の異なる職場で働いていたが、週2回ECOMMITを手伝うように。洋服やカバンなどファッションが好きで、自分が好きなモノに囲まれて働く環境が楽しくなり、4年前に転職。

味波「最近ではオンラインで買い物する人が増えて、デザインやサイズが違うことを理由にタグ付きの新品のまま捨てちゃうことが多くなってきている気がします」

鎌田「服を生産しているブランドさんがこういった状況を把握することも重要ですよね。味波さんから、パストをしてくれる方へ、何かメッセージはありますか?」

味波「パストしてくれる人に対しては『ありがとう』と言いたいです。きっとパストしてくれた先を想像して投函してくれたんだと思って、こちらも頑張ろうって気持ちになりますね」

ECOMMITでは東京第二事業所のほか、鹿児島、福岡、群馬、東京の西多摩、千葉の舞浜など合計6ヶ所の事業所でプロピッカーたちが日々大量の衣類や雑貨の選別を行っている。

選別のその先へ

東京第二事業所を後にし、再びフォレストゲート代官山のTENOHA代官山(CIRTY)へ。
販売戦略部の加藤 啓介さんに選別後の回収品がどのように扱われているか、オンラインで話を聞いてみた。鎌田さんは古着の墓場と呼ばれるケニアを訪ねた経験から、フォロワーやメディアから衣類回収に関する是非を問われることが多く、このように答えているという。


鎌田「ゴミ箱でなく、回収ボックスに入れることは間違いなく重要です。その上で、回収ボックスも『魔法の箱』ではないので、そこに入れれば全て問題解決、というわけではないことも知っておく必要があると思います。」


そう話す鎌田さん自身も、手放した衣類がどこへ行くのか、いつも気になっているという。


鎌田「ゴミにならずに服の寿命を伸ばしていくために、どのように取り組んでいるかぜひ教えてください」

加藤「僕たちとしては、リユース品を最短距離で生活者の手に届け、モノの価値を最大限高める。この2点を大前提としています。なので、流通などのノウハウを持つ卸販売に任せた方がより次の人へ届けられる場合はお任せします。価値を高める販路に流通させる、これが重要だと思っています」


複数の流通先に向けて幅広く販売し、アイテムの状態やブランドだけではなく素材やカテゴリー分けなど柔軟な選別方法を取り入れることでリユース率を高め、廃棄に回る量を少なくすることができる。また、ネット販売や卸業者に最適な方法で商品を提案することで、できる限り国内で販売する工夫がなされ、「国内でモノの価値を最大限高める」ことに努力を重ねているとのこと。

さらに、リユースの対象にならなかったアイテムはリサイクルポリエステル素材のRENUや、繊維を綿状にした反毛(自動車のパーツや住宅用資材などで使われる)などにリサイクルされ、次の役割が与えられる。
ここで鎌田さんが気になっている、海外でのリユースや衣類廃棄に関してもこう語る。


加藤「そもそも海外でニーズがないモノは出さないようにしています。流通先での廃棄を防ぐために、まずは状態が悪いものやニーズがないものは外しています。もちろん、人が行うことなので100%完璧にとはいきませんが、可能な限りに100%に近づけるため、お客様と綿密なコミュニケーションを取っていて、必要なモノとそうでないモノのすり合わせを常に行っています。

例えば、長年パートナーシップを組んでいる取引先が多いので、その先のお客様に販売できないようなモノは写真で送ってもらったりこまめにやりとりをして、現地で売れ残ってしまわないよう日々改善の積み重ねです」

販売戦略部の加藤さん。もともとはアパレルの製造側に身を置いていたが、矛盾や違和感を感じて仕事を離れたという。「誰かにとっての不要なモノ」が誰かに必要とされる、そこに面白さを感じている。

鎌田「アジアなどの海外ではもう洋服はいらないんじゃないかと言われることもありますが、やはり必要としている人はいるんですね」


加藤「そうですね。着物や和柄のモノなど、逆に海外で需要が高いカテゴリーもありますし、ギャルっぽいものなども最近では海外で人気です。日本人はモノを丁寧に扱って、キレイな状態のままのアイテムが多いので『メイド・イン・ジャパン』ならぬ『ユーズド・イン・ジャパン』への需要も高いです」


鎌田「今回この記事を読むのは生活者の方が多いと思いますが、読者に向けてパストする際に気をつけて欲しいことやメッセージなどはありますか?」


加藤「洋服を使い終わったらパストして、次の人に繋げてくれたら嬉しいなって思います。中には新品の洋服が回収品に含まれていることもあり、僕たちが行なっていることと矛盾するかも知れませんが、そもそも無駄な消費をしない、ということが大切かなと」

鎌田「モノを大事にするという意味で一貫してますよね。気に入ったモノを買って、長く使って、そして着なくなったらパストしてくださいということかなと。加藤さんとして、どういったところに気をつけていると、誰かにしわ寄せがいかず、服の寿命を伸ばすことができると考えていますか?」


加藤「そもそも不要なモノは送らない、さらに売りっぱなしではなく取引先と関係性を築いていって、間違いやミスがあればその都度修正していく、責任あるビジネスを心がけるのが大切だと思っています」


鎌田「衣類回収に迷っている人がいたら、声を大にしてパストして大丈夫です!とお伝えしていいんですね」


加藤「はい、もちろんです!」

実際にパストの裏側を見て

鎌田「みなさん共通してモノを長く使って欲しいと言っていたのが印象的でした。そのためにも、まず本当に必要なものを買う、長く着る、そして自分で着ない、となったらパストする、この順番が大切ですね。

私たちが手放したものが、その後どうなっていくのか、その現場にいる人のお話はなかなか聞けないので貴重な機会になりました。」

そもそも社会全体での衣類の製造量が多いこと、不要な物が海外へ送られてしまうこと、新品が捨てられているということは、根本的には社会全体の課題であり、パストがあったとしても世の中ゴトとして改善されていくべきことだと語る。


鎌田「ものづくりにおいても、衣類回収においても、環境負荷が少なく人権に配慮して、誰にもしわ寄せがいかないシステムを作ることはとっても難しいことだと思います。それを、生活者が安全地帯から『それって大丈夫なの?』という態度でいるだけではなく、その複雑さを理解した上で自分たちも行動に移していくということが必要なのかなぁと。

企業側にも言えることは『自分たちは大丈夫です』ということだけを主張するのではなく、何ができていて何ができていないのかを、誠実に伝えることで、生活者が自分たちの振る舞いで変えられることがある、という気づきに繋げられると思っています。

加藤さんも言っていたように、100点満点というのは中々難しいかもしれないけど、パストに預けることで、個人ではできないモノの活かし方を実現したり、その手間を代わりに行なってくれるので、パストの取り組みはとてもありがたいと感じました」


製造から廃棄まで、洋服にまつわる様々なテーマに深い理解がある鎌田さんだからこそ出てくる質問を通じてパストの取り組みへの理解を深め、その価値を語ってくれた。



今回は「パストしたモノってどうなってるの?」ということでその裏側をご紹介しました。

みなさんは記事を読んでどう感じましたか?

先ほどの加藤さんの言うとおり、100%完璧ではない部分もあるかも知れませんが、間違いなく言えることは「安心してパストしてください」ということ。

まずは無駄な消費はしないで、買ったモノはできるだけ長く使う。それでも使わなくなったモノはぜひパストしてみてください。
パストを通じて、必要とする次の人へ届けるお手伝いをします。


使わないモノは次の人へ
パストしよう。


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